52 やっぱほら、ムキムキって憧れるじゃん?
「訓練場に行きませんか?」
都合の合うときはいつも、せいらちゃんの日課のお散歩に付き合ってくれるイクリール君がそんなことを言った。もちろん幼女は大賛成である。
毎日同じ様なコースだし、イクリール君もたまには趣向を変えたかったのかもしれない。
「ナナもいいですか?」
「うん。でも急にお邪魔しても大丈夫かな?」
「その辺りは任せてください。ちゃんと先触れは出してます」
「わぁ、さすがね」
得意気な少年は可愛いな。
せいらちゃんを除けば最年少なので自分が誰かに教えてあげられるのが嬉しいのかもしれない。お兄さんぶってる少年からしか得られない栄養素は確かにある。
今日も天気が良くお散歩日和だ。
せいらちゃんとイクリール君が手を繋いで歩くのを数歩後ろで眺めながら付いて行く。時折すれ違うメイドさんや騎士さんたちもにこにことしていて。子供は世界を平和にするなぁ。いや、実際に世界を救うために行動している子たちなんだけど。
中庭を抜け、遠く離れていても掛け声が聞こえる訓練場を目指す。近くまで来ると見慣れた顔が出迎えてくれた。
「いらっしゃいっす」
「るーくんだ!」
うん、ルクバト君だね。
彼がいるならあまり心配しなくても平気かな。以前せいらちゃんを連れて来てくれるなら、歓迎するって言ってくれていたし。
「今日も元気っすねー。中にいるおじさんたちにもその元気を分けてあげてくださいっす」
「はーい」
「ふふ、お邪魔します」
「どうぞどうぞ。流石に訓練場全部は無理っすけど、隅の方走り回るくらいなら問題ないんで」
中に入ると思い思いに剣を振るっている騎士さんたちがいて、中には見知った顔もある。手を振れば軽い調子で敬礼が返って来た。相変わらず気さくでカッコイイお兄さんたちだなぁ。
ルクバト君の言っていた通り、幼女を見る屈強なお兄さんたちの雰囲気が柔らかい。やっぱ皆幼女好きなのか。ちょろちょろしてて可愛いもんね。
それに、何より。自分たちが何を守るために訓練しているのかが実感できるので、皆の士気が上がるのだとも言っていた。すごいなぁ。皆ちゃんと動機がしっかりしてて。
「どうしたらあの人達みたいに強くなれるんでしょう」
一瞬、自分の本音が漏れたのかと思った。
声のした方へ視線を落とせば、顔見知りから初めて会う騎士さんにまで構われて嬉しそうな幼女を眺めるイクリール君がいて。
「因みに、どういうタイプの強さが欲しい?」
「具体的に言うならブラキウムみたいになりたいんですよ」
「え。イクリール様、騎士団長に憧れてるんすか?」
私たちの会話を聞いてルクバト君が素っ頓狂な声を上げた。
イクリール君はまだ十一歳ということもあって幼さの残る可愛らしい顔立ちをしている。対してブラキウムさんは堀も深くきりっとしていて男前だと思う。タイプが全然違うのでそういう反応になるのもわかるよ。
「僕だって一人の男として守りたいものくらいあります」
「いやいや。それはご立派だとは思うんすけど、騎士団長って言えばゴリラみたいなもんっすよ」
ゴリラって。自分も憧れてるくせに、酷い言いようだなぁ。
一国の王子が騎士団長ほど鍛え上げる必要はないという意味で言っているならそうだが。
でもまぁそこは私理解あるオタクなので、男の子はいくつでも剣を振り回すのが好きなのだろうと好意的に解釈しておく。
「確かにあの人はすごい人だし俺も憧れてはいますけど、イクリール様が憧れるにはまだ早いと言うか劇薬味があると言うか……ナナさんもそう思いますよね!?」
「中々いい目標だと思うわ」
「やっぱりそうですよね!」
「あっれ? そこで意気投合するんすか?」
ルクバト君は私とイクリール君を何度も見比べて首を傾げた。
だって近い将来砂漠の国に行くことになるのよ? 砂地は足が取られやすいし、おまけに魔物も出るそうじゃない。ノーモンだけじゃなく、今後もそういうところへ足を運ぶ機会が増えるのならブラキウムさんほどではなくても多少は鍛えておいた方がいいのかなって。
「ただ体が成長しきっていないうちに体を鍛えると身長が伸び悩む可能性があるのよね」
「それは困りますね。百八十、いえ二メートルは欲しいです」
「じゃあやっぱり体力を付ける程度に留めておくべきかな」
この前私自身も鍛えるのはやめておけって言われたけど、やっぱり体力はあるにあるだけいいと思うのよねぇ。
そんなことを考えていたら、散々皆に構ってもらってご満悦のせいらちゃんが笑顔で帰って来た。
「いっくんとるーくんなかよししてるの?」
「ええそうですよ。作戦会議です」
「さくせん! せいらもする!」
「じゃあ、次の旅に一緒に行くための作戦会議をしましょう」
ああ、なるほど。そういうことね。
前回、ディアデムに一緒に行けなかったのが引っかかっているらしい。あれは、まぁシュルマさんが連れて行きたくなかったからと私は踏んでるんだが、イクリール君的には自分が小さく弱い存在だからだと捉えたらしい。
小さい子に危ないことはさせたくないし、そういう大人が近くにいるので彼の要望が通るか否かはわからない。
わからないが、強くなりたい理由がはっきりしているこの子の願いはきっと叶う。私なんかと違って、きっと、強くなれる。




