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50 陽気で意味深でよくわからん人


「やぁやぁやぁ、元気にしていたかい? 星の神子」


 そういえばいたなぁなんて思ったのも束の間、その人は幼女ちゃんの手を取ったまま室内でくるくると回り、しまいにはせいらちゃんを抱き上げて膝の上に乗せた。

 随分とまあ陽気なお兄さんである。

 どこかの民族風ローブを身にまとい、華やかな装飾を揺らしながら現れたのは一度会ったきりの、ある意味謎の男。エルナトだ。

 この世界に来た時に会って以来、お城の中でもすれ違いすらしなかったがお元気そうで何より。


「キラキラのひと!」

「そうだとも!」


 されるがままだったせいらちゃんが数拍置いて、思い出したかのように声を上げる。多分今まで忘れてたな。

 いや、まぁ仕方ないか。二ケ月ほどとはいえ、あれっ切り本当に会わなかったし、馬車旅に次ぐ馬車旅でいろんな体験をして五歳児の記憶容量はいっぱいいっぱいだったんだろう。キラキラの人認識とは言え覚えていただけ上々だ。


「うんうん、色々と見て回ったようだけど綻びがないようで何よりだ」

「セイラを下ろしてください、エルナト」


 自由なお兄さんを諫める様に一緒に部屋に入って来たレグルス王子が肩を落とす。

 本当にこの世界に来た時にいたがこの人のこと全然知らないんだよなぁ。ゲームではもう少し出番があった気がするが、全くと言っていいほど交流がなかった。

 ゲームの内容もうろ覚えな上に、ゲーム通りに進んでいなさそうだしその辺りはなんとも言えないけど。ただ困った時に助けてくれるお兄さんだったのは覚えている。

 そういえば、キラキラで思い出したが、最初にせいらちゃんにかけてたあのキラキラは何だったんだろう。


「すみませんナナさん、一応止めたんですが」

「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください」

「ありがとうございます。その、エルナトは悪い人ではないですが、あまり人の話を聞かないので」

「おっと、酷くないかい?」


 レグルス王子が申し訳なさそうに言うのに、エルナトが心外だとでも言いたそうに肩を竦める。

 驚きはしたけど、こっちに来てから割と色んな人が部屋に出入りするし、来客についてはあんまり気にしてない。一人暮らしが長かったし最初は戸惑ったのも事実だが。


「君もそう思うだろう?」

「ん? 私ですか?」

「ナナさんを巻き込まないでください」

「悲しいなぁ。折角私なりに色々調べて来たのに」


 芝居がかった口調で泣き真似をするエルナトの頭をせいらちゃんが撫でる。せいらちゃんが優しい子に育ってくれて嬉しいんだけど、その人ウソ泣きなんだよ。

 呆れたようにレグルス王子がため息を吐く。ずっとこんなやり取りを続けてきたのか。お疲れ様です。


「それで? 何を調べてきたんです?」

「そうそう。星の神子と一緒に君がこの世界に召喚された理由なんだけどね。恐らく二人の魂の形がこの世界の存在と似ていたから引っ張られたんだと思うよ」


 引っ張られたとは。


「魂の、形が似てる?」

「端的に言うなら前世や生まれ変わりだね」


 え、私前世異世界人なの?


「星の神子になれるのは異世界の人間に限られているはずでは?」

「誰しも得手不得手があるだろう? 異世界人だからって皆が皆、魔法石を活性化できるわけじゃない。現にナナはそういった力がないわけだし」


 はい。異世界来たけど何の力もない一般人です。何なら初期装備は消耗品のピザとビールでした。我ながら酷い状況だったな。その日の晩には全部お腹の中に入っていたわけだし。

 お綺麗な顔でエルナトが私にウインクをする。いや、そんなアピールされてもわかんないです。とりあえず、わかってないことをぶつけてもいい?


「そもそも、星の神子っていったい何なんですか?」

「人間だよ。世界を思う誰かの願いをその身に受けただけの、ただの人間だ」

「……その人間が、どうして魔法石を活性化させる力を持っているんです?」

「それは世界の神秘さ。人間は奇跡や愛と呼んだりするね」


 うん、よくわからない。

 そもそも神子ってどういう基準で選ばれるのよ。魔法石って何なの?


「私の見立てでは、君たちは前世でそういう奇跡や愛に満ちた繋がりを持っていたので、二人一緒にこの世界に呼ばれてしまったんじゃないかな」

なるんだが?

 いや、まぁ。もう、ほとんど覚えていないゲームの話は置いておこう。世界を救う手伝いをしている幼女の体温も、目の前の青年の誠実さも知ってしまっている。今更創作物だなんだと言ったところで目の前にいる人への態度は変えられない。


「それはそうと、今日は君に贈り物があって来たんだよ」


 人が頭の中を整理しているのをいいことに、返事も待たずエルナトが何かをしでかした。

 そーれ、なんて言いながら放たれたのは、いつぞや見たキラキラで。そのキラキラが私の周りにまとわりついて消えた。


「キラキラ! ななちゃんもキラキラしてた!」

「うんうん、これでお揃いになったね」


 せいらちゃんがエルナトの膝の上から降りて抱き着いて来る。

 アレ、だよなぁ。以前エルナトがせいらちゃんにかけていたやつ。嫌な感じはしないし、エルナトを見れば笑顔でサムズアップしている。事前に説明と了承をだな。


「この先行くノーモンとピアウトスには魔物がたくさんいるからね、おまじないさ!」

「まぁ、そうなりますよね。ですが、安心してください。お二人のことは必ずお守りしますので」


 ますますファンタジーになって来たな。いや、元々ファンタジーな世界観なんだけど。後地名言われてもどこかわからないです。

 ブラキウムさん曰く、戦争で住処を奪われて生態系が狂った魔物が人里に出て来ていると聞いた。エルナトのかけたキラキラは私たちが危なくない様にってことだよね?

 騎士たちも今まで以上に配備すると言ってくれるレグルス王子の話を聞きながら手元ではせいらちゃんの頭を撫でる。


「私は付いては行かないけれどまぁ頑張り給え。見守っているよ」


 なんだかなぁ。

 かなり適当な人だ。せいらちゃんが懐いているので悪い人ではないんだろうけどレグルス王子の苦労が忍ばれるな。



二部始まりました!

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