25 酒は人類の友なので
龍神様が消えた後、どういうわけなのかあれよあれよという間に祭りが開かれた。
もちろん。突然決定したので町の皆で食事を持ち寄り、広場で立食パーティーのようにしただけのもの。
それでも皆が笑顔なところを見ると、ミラムの人たちにとっての龍神様の存在はとても大きいのだったんだと改めて実感する。
お祭りにはお酒も振舞われていて、各々好き過ごしていた。レグルス王子とイクリール君は龍神様について気になるのか町の人たちに話を聞いているし、アルヘナ君も町の人たちと話ながらお酒を頂いている。
ああ、こっちの世界では十八で成人らしくお酒も飲めるみたい。かく言う私もちょっとだけ頂いている。ルクバト君は仕事中だからと遠慮していて申し訳ないなと思いつつも、ワイン美味しいです。
夜中にこっそりブラキウムさんにビールを頂いて以来のアルコールだ。旅に出る前だから、約二週間ぶりくらいかな。
若い子が周りに多いと飲む機会が一気に減るのよね。別に中毒ではないし必ず飲みたいと言うわけじゃないが、頂けるなら飲みます。
護衛で来てくれている騎士さんたちは時々集まって飲んでたみたいだけど、もう少し仲良くなったら混ぜてくれないかな。いや、さすがに皆に気を使わせるか。
「ごはんおいしいね」
「うん。美味しいね」
因みに私の膝の上に座ったせいらちゃんは、何がそんなにお気に召したのか、豆をトマトソースで煮た物を永遠に食べている。
……後で誰かに料理名と作り方聞いておくかな。
「ななちゃん、おさけおいしい?」
「うん。せいらちゃんもぶどうジュースおいしい?」
「うん! こうかんこする?」
「しないよ。お酒はせいらちゃんが大きくなったらね」
「はーい」
ご機嫌だなぁ。
時々トマトソースで汚した口周りを拭いてやりながらのんびり食事をする。
「ご機嫌っすね」
「うん。全然愚図ったりしないし、楽させて貰ってる」
広場に出された机の一角を占領させてもらってみる景色は、どこもかしこも笑顔に溢れていて。皆に付いてくれている騎士さんたちも心なし表情が穏やかだ。
近くに控えてくれているのはルクバト君だけど、ちゃんと私たちの後ろにも屈強なお兄さんたちがいる。皆も食べてねって言ったら、順番に貰うって微笑まれた。
気のいい人ばっかりなんだよな。やっぱブラキウムさんの部下だからか。
「神子様、少しお散歩しませんか?」
「お散歩!」
三杯目のワインを注いでいるところで、レグルス王子が人の流れを避けてやって来た。イクリール君と一緒に町の人に龍神様の話を聞いていたけど、抜けてきたのかな。
せいらちゃんも乗り気なようなのでもう一度、口周りと手を布巾で拭って膝の上から地上へ下ろしてやる。
「ななちゃんもいく?」
あらまぁ、随分と可愛い顔で見上げて。
ちらりとレグルス王子の方を見れば少し困った顔をしていた。何やらせいらちゃんにだけ話したいことがあるみたいね。
「私はここで待ってるから行っておいで」
「ここにいる?」
「うん。動かないで待ってる」
「わかった!」
数歩ごとに振り返るせいらちゃんに手を振れば、隣に座っていたルクバト君も立ち上がる。
「すいません、自分も」
「行っておいで」
せいらちゃんの護衛がメインだもんね。申し訳なさそうなルクバト君を見送り、引き続きよろしくねとばかりに後ろに控えてくれている騎士さんたちに振り返って会釈する。
任せろとばかりに軽い敬礼をされた。かっこいいな、おい。
一人ワインを楽しみつつ、ぼんやりと楽しそうな人たちを眺める。良い風景だよなぁ。レグルス王子はこういうもののために頑張っているのか。
なんて、気持ちのいい酔いに身を任せていると、どかりと誰かが隣に座った。
「よう」
「あらどうも」
アルヘナ君だ。
随分とお酒を楽しんだのかほんのりと顔が赤い。珍しいな。この人あんまり私には興味がないんだと思ってたんだけど、もしかして一人酒を同情された? ごめんね? 私お一人様余裕なタイプなんだ。
しばらく無言でグラスのワインを傾けた後、アルヘナ君は気持ち大きめのため息を吐いた。
「あのちびちゃんは星の神子だし、まぁ納得はした。じゃあ、あんたは何だ」
何と申し上げられましても。
「エルナトの奴は手違いだって言っていたが、あんたは星の神子が懐いてるだけのただの女だろ?」
「それはそう」
「じゃあ何がしてぇの? アイツに取り入るでもなくのうのうとここにいて。女ってアイツの顔好きなもんじゃねぇの?」
取り入るって。アイツって何? レグルス王子のこと?
確かにイケメンだと思うし、実際ゲームしていた時は好きだったよ? でも今私二十六。十八歳相手にどうこうしようなんて考えられないし、ダメだろ。
「確かにレグルス王子はかっこいいけど」
「やっぱ狙ってんじゃねぇか」
「違う。聞いて」
酔ってるなぁ。
そういえば彼は王子に近付く人、皆に警戒してるんだっけ。本来警戒するゲーム主人公ちゃんが幼女なのでその展開は無くなったんだと思ってた。まさかとは思うが私のことを警戒してたの? いやそれこそ無意味でしょ。アルヘナ君が言う通り私何にも出来ないし。
政権とか王位についてのあれこれが原因の警戒心でしょ? 私そういうのとは対極の位置にいるよ?
「君が思うようなことはないよ。感謝はしてるし尊敬もしているけどね」
「それだけなわけねぇだろ。だってレグルスだぞ」
「君もしかして全人類レグルス王子のこと好きになるべきとか思ってる?」
「あの顔に惚れねぇなんて女じゃねぇと思ってる」
世が世なら限界オタク扱いされてるよ、それ。
「私からしたら十八歳は子供だよ」
「あんたいくつだよ」
「二十六」
「二十六のレグルスとか、それこそいい男になってるだろ」
かなりお酒が回ってるなぁ。
気を利かせた騎士さんの一人がお水を持ってきてくれた。ありがとう、騎士さんは皆出来る男が多いな。
「まぁほら。いろんな好みがあるということで」
お酒って本当に、色んなものが漏れ出す。
アルコールさんに頼らないと吐き出せないものもあると言うことで。
主に酒の席のたわ言です。




