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11 窓越しの飲み会


 この世界に来てもう何度目かの夜が来た。

 食事やお風呂の準備はお城の人たちがやってくれるので本当に助かっている。そのおかげで私はせいらちゃんと大人しくお部屋で過ごすことが出来ている。

 本当はお外で思いっきり遊ばせてあげた方がいいのかもしれない。その辺りは追々レグルス王子と相談しようかな。


 今日も好き嫌いなくいっぱい食べた幼女ちゃんはふわふわのお布団の中でぐっすりだ。

 因みにこのお布団、めちゃくちゃいいやつの様で私の体調も以前よりずっといい。やっぱ寝具には課金するべきなんだなぁ。幼女ちゃんの体温で一緒のベッドに寝ている私までぬくぬくだ。


「まま……」


 不意に聞こえた寝言に息を吐いて、そっと布団をかけ直す。

 まぁ、そりゃそうだよなぁ。せいらちゃんは突然この世界に呼び出されて親とずっと会えないでいる。私はある程度レグルス王子やシュルマさんと話をして納得したけれど、この子はまだ上手く呑み込めていないのかもしれない。

 懐いてくれているみたいだけど、私はこの子の親ではないし、母親にはなれない。

 そっと息を吐いてベッドを抜け出す。何気なく目に付いた窓に手をかけたところで外にいた男と目が合った。


「よ、元気か?」

「び、っくりしたぁ」


 窓のすぐ傍に立っている木に足をかけたブラキウムさんはにやりと笑うと、そのまま体勢を変え、どかりと太い幹に腰かけた。

 えぇ? 何してるの? 幼女ちゃんはもうぐっすりの時間よ?


「何してるんですか」

「ちょっとな」

「はぁ。とりあえず、入ります?」

「……いや、やめておく。それよりほら」


 夜中の来訪者は地位のある方らしいのに、かなり気安く話しかけてくださる。気にかけてくれるのは有り難いよね。肩書を思い出すとちょっと気後れしそうになるけど。

 そんなことを考えていたらブラキウムさんが何かを私に投げて寄越した。渡されたのは小さな瓶と栓抜き。

 知ってる。多分これビールだ。


「子供が寝た後の息抜きってのは大人の特権だろ?」


 悪戯っぽく笑うおじさんに、この人部下に慕われてそうだなぁ。特に騎士団って言うと男所帯でしょ? ファンタジーの男所帯って、飲みにケーションが主流なイメージがあるからこういう差し入れは喜ばれそう。いや、偏見でしかないんだが。

 それはそれとしてビールは有難く頂いておこうかな。


「どうだ、こっちの暮らしは。やっていけそうか?」

「まだ戸惑うことの方が多いですけど、何とかなってます。せいらちゃんもいい子だし大きな問題っていうのは今のところないですねぇ」

「そうか、ならいい」


 近いうちに神殿を巡る旅に出ると聞いたんだと思う。

 ゲームでは基本的に四人旅だったが、実際はどうなるんだろう。せいらちゃん五歳児だし他にも護衛の人が付いたりするのかな。もしそうならやっぱりブラキウムさんが付いてくる感じ?

 栓抜きで蓋を開けて常温のビールを一口。日本のとはそもそもの作り方が違うのか、ぬるくても美味しい。やっぱ日本のは冷蔵庫に入れる前提で作られてるんだなぁ。


「普段からよく飲むのか?」

「そういうわけではないのですが……」


 まぁ、初期装備がピザとビールなのだからそう思われても仕方がない。しかもLサイズとロング缶二本というわんぱくぶりだ。酒飲みのセットだよね。

 自分でも冷静になるとやりすぎたなとは思う。でもあれぐらいしなきゃやってられない日ってあるじゃない?


「あの日はちょっと嫌なことがあったんですよ。それで、いつもよりもたくさん飲んで食べて忘れたいなーなんて」


 仕事の人間関係は良好な方だ。小さな会社で正しい意味でのアットホームな会社だった。

 ただまぁ社長は経営というか、人の上に立つのには向いてないタイプだったんだと思う。人が好過ぎて、つい背負い込んで。

 人間多少しんどかったり不満があっても、自分より上の人が更に苦労しているのを目の当たりにすると何も言えなくなるんだと知った。


 後、両親とのことでもちょっと。普段は別に悪い関係ではないんだよ。むしろ実家を出てそれなりに経つが細目に連絡を取り合う程度には仲がいい。ただタイミングが悪かった。

 私ももう二十六だ。地元の子たちが早かったのもあって、お前はどうなんだと。早く孫の顔を見せてほしいなどとせっつかれてつい、イライラと。


「色々重なっちゃって、これはもうカロリーとアルコールで全部忘れるしかないなと」

「あるわな、そんな日も」


 いや、慰められるのも虚しいな。

 とりあえずビール飲も。


「仕事、忙しかったんですよ。不況だし人も足りないしで。そこに親から結婚はまだかとか、地元に帰って来ないのかって散々言われて嫌になっちゃったんですよ」


 相手がいるならとっくに結婚もしているし、地元に戻ったところで仕事もない。

 友達も何人か結婚し始めて来て私だって多少は焦りもしたわよ? でも給料も高くはないし、休日は家事をしてたらすぐに日は暮れるし、何にも出来ないまま一日が終わる。そんな中でいい人と出会えるわけがないし、そもそも週五の疲れが二日で取れると思う方が可笑しい。

 孫の顔については……細胞分裂するまで待ってて。


「まぁ飲め。愚痴ぐらいならいくらでも付き合ってやるからよ」

「ありがとうございます」


 ちびちび瓶入りのビールを飲みながら窓枠にもたれ掛かる。

 今になって見ればとても魅力的なキャラだよなぁ。立ち絵はあったけどプレイアブルキャラではなかったのが不思議なくらい。私がゲームをしなくなってから増えたプレイアブルキャラもいるらしいしその中にブラキウムさんもいるのかも。


「食べて飲んで寝て、それでまた明日から何とかしようと思ってたのに、いきなり知らない世界に呼び出されて驚きました」

「荷物預かるか聞いても離さなかったもんなぁ」

「貴重品もなくして、ピザとビールすら無くなったらどうにかなりそうでしたので」


 結局、鞄はなかったんだよなぁ。せめて財布とスマホがあれば気持ちは楽だったんだが。いや、スマホは充電する手段がないのか。どこかに落として、悪いことに使われてなきゃいいんだけど。

 そもそも元の世界に帰れないらしいので、鞄をどこに落として来たのかその後どうなるのか知る由もないんだけど。


「身一つで呼び出されて、見ず知らずの子供の面倒を任されて。あんたはよくやってるよ」


 それはそうとあんまり優しくしないで。惚れるから。


ビール一杯分の逢瀬。

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