90話 狂想曲+親友
吹雪の言葉に天使と混血の契約者が一斉に視線を可憐に向けた。可憐自身も目を見開いた。
「可憐が?!」
「私が……サタンの器……?」
光と可憐の言葉に吹雪が再度舌を出しながら笑った。
「混血でもねぇ、純粋な人間がオレの魔痕に耐えれるはずがねぇだろぉ? いくらラファエルの器だと言っても、契約無しでそこまでの魔力を持つなんて、ほぼ有り得ねぇよ。お前が初めてAランクに来た時に直ぐ分かったぜぇ。お前がふたつの魂を持つ者だということをなぁ」
吹雪の言葉を聞いた瞬間、可憐の脳内にラファエルの記憶が一気に流れ込むような感覚に襲われた。
エメラルドグリーンの魔力が彼女を包み込み、以前夢で見た一場面。ふたつの魂を持つ者が現れ、契約をしろと予言したラファエルは強い信念を持っていたが、視線はガブリエルから外されることは無かった。
「ふたつの魂を持つ者……それはわたしと、ルシフェルの魂を持つ少女だったのですね」
可憐の口から出たラファエルとしての言葉。彼女の瞳が黒から魔力と同じエメラルドグリーンに変わっていた。
「よぉ、ラファエル。久しぶりだなぁ」
吹雪の言葉に可憐の姿を借りたラファエルが吹雪を睨みつけた。
「ルシフェル。あなたは可憐の身体を使ってもう一度戦争を起こそうとしているのですか? この身体は神に最も愛されている人間の一人。あなたにこの身体は渡しません」
「ラファエル! それは一体どういう事なんだい!」
光の言葉にラファエルは返事をすることは無かった。可憐の瞳の色が黒に戻る。
「光? 私……またラファエルに身体を貸していたのかしら……?」
可憐としての言葉に光は視線を逸らすことで答えた。気付けば可憐の身体は吹雪の魔力から解放されていた。それを確認した吹雪は、魔力を使い優美を引き寄せ、自分の前に宙に浮かせた。未だに優美の失った腹部からは血が流れていた。
「さぁ、可憐。最後の選択だぁ。優美を助けてくれとオレと契約しろ。契約しねぇなら、優美はここで死ぬぞぉ? こいつには、三度のチャンスを与えた。一度は悪魔になって初めてお前と会った時。二度目はEランクで、そして、今ここで死ぬのが最後のチャンスだぁ。これで失敗したら、優美は確実にオレたちからしたら用無しだなぁ」
吹雪が優美に使っていた魔力を僅かに弱める。すると、今まで麻酔のように痛みを和らげていたものが一気に無くなり、優美は激痛に耐えるように悲鳴を上げた。
「っあーーー!!」
言葉にならない優美の悲鳴は可憐の胸を圧迫するような苦しみを覚えさせる。慌てて優美の手を取る可憐。久しぶりに触れた親友の手は死体のように冷たかった。
「優美! 優美!」
可憐がひたすら親友の名を呼ぶ。弘孝が駆け寄り、吹雪に剣を振りかざした。しかし、先程と同じように翼で簡単に受け止められる。
「さぁ! オレと契約しろ! 可憐!」
「可憐! ダメだ! ルシフェルの言葉に耳を傾けないで!」
吹雪の言葉に被せるように光が叫ぶが、優美の苦痛の叫び声と弘孝の剣を当てる音により、可憐に届くことは無かった。ゆっくりと虚ろな目になり、吹雪を見る可憐。
「あなたと契約したら、本当に優美は助かるの?」
「勿論だぁ。契約者は契約に偽りはねぇよ」
吹雪が自身の手首に魔力を当て、切り傷を作り血を流す。それを可憐の目の前に差し出す。
「可憐! やめろ!」
弘孝の声も届かない可憐が吹雪の手を取ろうとした瞬間、彼女の手を止めたのは優美の左手だった。そっと可憐の手を取り、吹雪の手首から遠ざける。
「可憐。可憐がこっち側に来る必要は無いよっ。正しい方を選択するのが可憐のいい所じゃない」
優美の行動に可憐は我に返り、優美の左手を両手で包み込んだ。それを見た吹雪が舌打ちをする。
「ごめんね。可憐。あたしは、あなたを裏切った。たくさん苦しめた。そして、最後に私の命を人質にして、契約させようとしている。あたしは、親友を苦しめるために契約者になった訳じゃないのに……。だから、あたしのために契約者にならないで欲しいの……。可憐はずっと、あたしの天使でいて欲しいわ」
目の前で手を包み込みながら泣き崩れる親友に優美はふと、自分と可憐が初めて出会った時を思い出した。




