89話 狂想曲+暴露
「私につけた魔痕は、優美ではなく、あなたがつけたの? 南風君」
可憐の問に吹雪は小さく頷いた。
「あぁ。お前らが見ていたサタンの魔力は優美に纏わせたオレの魔力だ。流石のガブリエルでも、悪魔がどんな魔力を纏っているのかまでは見れるが、それが本人のものかどうかまでは見抜けねぇみてぇだなぁ?」
吹雪の視線が可憐から光に向けられる。光は再度魔力を使い、吹雪を見た。十二枚の翼から溢れ出る闇と毒に近い色をした魔力。光は既に見慣れている魔力だったが、吹雪の魔力は桁違いだった。
「……。じゃあ、君は自分の魔力を沖田さんに纏わせることにより、自身の悪魔としての正体を隠していたという事だね。全く。ぼくの力はあくまでも、嘘をつかない事が前提なんだから、そんな事されたら見抜ける訳ないじゃないか。これは一本取られたよ」
口元だけ苦笑いをする光。額には汗がにじみ、頬を伝う。
「だからずっと言ってたんだよ。お前はオレに勝てねぇってな。ばーか」
光に向かって蔑むように笑う吹雪。光は力を振り絞り、身体を動かそうとしたが、やはりサタンの魔力には敵わず、僅かに震える程度の抵抗しか出来なかった。
「そもそも、お前はいつ、誰と契約して転生したんだ。ルシフェルが転生したとなると、四大天使の誰かが必ず気付くはずだ」
猛が二人の会話に割り込む。彼もまた吹雪の魔力を相殺しようと自身の魔力を使ったが、指先を動かす程度しか効力が無かった。
「じゃじゃ馬姫よぉ。嫉妬かぁ? 今は光明と話してんだぞ? まぁ、いい。教えてやんよ。まず、オレは一度も転生してねぇ。原理はミカエルと一緒だぁ。だが、本調子じゃねぇ。オレ自身は天界戦争ウリエルがオレを凍らせた時から一歩も動けねぇままだ。そこでだ、オレは魂の一部を解放し、いい感じに死にかけた人間の身体を借りて生きてんのが南風吹雪って訳だぁ」
吹雪の言葉に光と猛、弘孝の目が見開いた。事態を把握しきれていない可憐は三人の表情を見て、僅かに首を傾げた。
「馬鹿を言え! 契約無しで人間の肉体に契約者の魂を入れることは禁忌だろ! いくら神に最も愛され、裏切った契約者でも禁忌を犯したら、神が黙っているはずがない!」
弘孝の言葉に吹雪は不敵な笑みで答えた。
「確かに、お前たちからしたら禁忌だろうなぁ。だが、二千年以上も前に神に見捨てられ、氷結地獄に閉じ込められていたオレは、とっくにお前らのルールなんて無いものと一緒だぁ。それに、神が禁忌として言っているのは、魂を全て入れること。オレは一部しか魂を入れてねぇ。もうこの身体で百五十年近く生きているが、神は何も咎めねぇのが禁忌に触れてねぇ充分な証拠だろぉ?」
吹雪の言葉を可憐は脳内でゆっくり整理した。まず、吹雪は裏切りの大天使ルシフェルであること。そして、ルシフェルはミカエルと同様、転生をしなくても良い契約者であること。しかし、コキュートスに閉じ込められているので、魂の一部を使い、人間の肉体を使って自分たちの前に現れていること。そして最後に、この行動が契約者にとって禁忌であること。
全てにおいて天使たちには想像以上の行動である吹雪の発言は、光たちの奥歯を噛み締める事しか怒りを表すことが出来なかった。
「ルシフェル……いや、サタン! 君は神をどれだけ冒涜すれば気が済むんだ!」
光の叫び声に吹雪はわざとらしいため息で返事した。光の瞳は完全に朱色に染まっていた。
「冒涜だぁ? さっきも言っただろぉ? 神の怒りに触れるような事をすりゃぁ、オレは既に消されている。しかし、オレは生きている。って事は、オレは神に赦されている。これはこの百五十年で証明されているとオレは思うぜぇ?」
舌を出しながら笑う吹雪。その時だった。弘孝が吹雪の魔力を自身に吸収し、自分の身体を動かす権利を取り戻した。弘孝の黒い二枚の翼と紫色の瞳が吹雪の魔力に反応するかのように輝く。
「お前が可憐を狙い続ける限り、僕はお前を赦さない」
弘孝のルビーレッドの魔力で剣を具現化し、吹雪に振りかざす。しかし、吹雪はそれを十二枚の黒い翼で簡単に受け止めた。口笛を吹き、見下した賞賛の態度をとる吹雪。
「ほぅ。サタンの魔力を吸収し動けるようになるとは、随分成長したなぁ? 新米契約者よぉ」
吹雪が翼で弘孝を押し返そうとするが、弘孝もまた自身の魔力を最大限に込め、吹雪の翼を押す。ルビーレッドの魔力が僅かに吹雪の翼の一部を凍らせた。
「僕は、可憐を守るために混血のウリエルになる道を選んだ。何故お前は可憐に執着する」
弘孝が吹雪を睨みつける。吹雪の翼が徐々に凍る面積が広がった。しかし、吹雪は気にせず魔力を使い弘孝を勢いよく飛ばした。
「弘孝!」
飛ばされている中、可憐の声を聞いた弘孝は咄嗟に自分の剣を氷に突き刺し、これ以上吹雪と距離を取られないように減速させた。六枚の翼が威嚇するように音を立てる。
「最後のネタばらしだぁ。さっき言っただろぉ? オレは今、一部の魂を使って生きていると。本体は|ウリエルに封印された時《あの時》から一歩も動いていねぇ。そこでだ、オレも契約して人間の器を手に入れる事が出来れば、完全復活する。その器が可憐、お前だぁ」




