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88話 狂想曲+真実

 腹部に翼が貫通するのを確認すると、吹雪は勢いよく翼を引き抜いた。優美の腹部にあるはずだった臓器が吹雪の翼にべっとりと張り付き、ゆっくりと氷の上に落ちる。



「どういう事だ!」



 猛が剣を構え、翼を使い、吹雪の元へ飛び立つ。そのまま剣を振りかざし、吹雪を攻撃する。しかし、それは先程優美の血や臓器がついた翼により簡単に受け止められた。



「もうそろそろネタばらししてもいいだろぅなぁ」



 臓器を失った優美を簡単に抱え、可憐の前に飛び降りる吹雪。光と弘孝が反応するかのように剣を構えた。しかし、吹雪が先に魔力を使い、二人の動きを封じた。猛もまた、慌てて二人の元へ向かっていたが、光たちと同様、地面に足が着いた瞬間に動きを封じられていた。



「動かない……!」



 弘孝が以前Eランクで感じていた動きを封じる魔力と同じものだった。圧倒的な威圧感と恐怖で身体が動かない感覚。それは半分の血が忠誠を誓えと訴えているもの以上の恐怖から出来ていた。



「全員揃ったところで、馬鹿な天使たちに教えてやろう。オレの正体をな!」



 吹雪が可憐の前に穴の空いた優美を無造作に投げ捨てる。未だに吹雪に空けられた穴から大量の血が流れ、溶けかけている氷から流れる水と混ざる。



「優美! 待ってて! 今助けるから!」



 胃や腸といった生命維持に必要な臓器がほとんど失った優美の身体。それは優美が辛うじて生きているのが奇跡であるレベルであった。無意識に魔力を使い、強制的に心臓を動かす優美。吹雪が優美に魔力を放ち、彼女を包み込み可憐から離す。



「優美! 優美!」



 魔力の壁を拳で叩く可憐。しかしそれは、防弾ガラスで出来た壁を叩く程度の力しかなく、ドンドンと音を立てることしか出来なかった。吹雪が再度魔力を使い、可憐を自分の方に向け、光たちと同様、動きを封じた。自分の身体がまるで誰かの身体になったかのような不自由さを感じた。



「お前らちょっとオレの話を聞け。そうしたらオレたちはこの場を去る」



 吹雪が二枚の翼を羽ばたかせながら笑う。猛や弘孝が吹雪の魔力を打ち消そうとするが、剣を強く握りしめる程度の動きしか出来なかった。喉元にも吹雪の魔力が巡り、言葉を発する権利を奪う。



「まず、優美(ソイツ)は第一地獄の地獄長じゃねぇ」



 吹雪が指を鳴らし、優美を包み込んでいた魔力を消す。そして自身の魔力を使い、優美を一時的に回復させ、意識を取り戻させる。



「うっ……」



 強制的に意識を回復させられた優美。臓器を失った彼女にはもはや痛みも分からない程の苦しみのなか、辛うじて生きているという状態だった。酸素を求め呼吸をしたかったが、肺もほとんど機能していなかった為、息を吸っただけでも激痛が優美を襲った。


 吹雪が優美に視線を送り、自身の名を名乗れと合図する。優美はそれを察し、呼吸をするのさえもままならない状態の優美だったが、ゆっくりと目を開けて可憐たちを見ながら口を開いた。



「あたしは……リリス。十地獄第九地獄"地獄"地獄長リリスよ……」



 優美がゆっくり口を閉じる。それに合わせて吹雪が可憐たちの動きを封じている魔力をほんの少しだけ弱めた。喉を縛っていた部分が解放され、発言権を得た。



「嘘だ! だって彼女にはサタンの魔力があったはずだ! ガブリエルであるはずのぼくが、そんな嘘を見抜けないはずが無い!」



 再度光は優美をオレンジ色の魔力を瞳に灯しながら見た。そこにはサタンの魔力は一切確認出来なかった。



「嘘だろ……」



 光の反応を見た弘孝や猛は事情を察し、吹雪を睨んだ。



「契約者が嘘をつくなんて、本来は不可能なはずだ。神が愛する人間の醜い部分、それが嘘だ。言葉を濁すことは出来ても、嘘はお前らが出来ることでは無い」



 猛の言葉に吹雪は無意識に笑った。先程までの口元だけの笑みではなく、心の底から猛たちを見下した笑みだった。



「ばーか。それは二千年以上も前の話だろ。それに関連付けて教えてやんよ。もうひとつとっておきの情報をな」



 吹雪が二枚の翼を大きく羽ばたかせた。すると、翼を吹雪の魔力が包み込み、闇の輝きを放つ。輝きが終わる頃には、そこには二枚の翼ではなく、左右に六枚ずつ、計十二枚の黒い翼が吹雪の背中に現れていた。


 その姿を見た猛は目を見開いた。喉は既に魔力で拘束されていないのに言葉を失うほどの衝撃がその姿にはあった。



「に、兄さん……」



 猛の言葉に吹雪は蔑みの笑みでこたえた。



「オレはサタン。十地獄第一地獄"いと高き者どもの地獄"第一下層地獄長サタン。またの名を裏切りの大天使ルシフェルだ」



 四大天使に共通する記憶に存在する争いの根源である裏切り者の姿に誰もが言葉を失った。契約者の知識が乏しい可憐でさえもその姿は光たちと初めて会った数日後に夢で見たルシフェルと瓜二つであると思っていた。


 今までとは尋常ではない魔力。全人類の負の感情をかき集めひとつにまとめたようなその魔力は可憐のこめかみの裏側にある脳内にまで負の感情を直接流し込むような感覚を覚えさせた。



「開いた口が塞がらねぇーって顔してんぞ。お前ら。ミカエルやガブリエルがそれぞれの力を手にしてんだから、ルシフェル(オレ)が嘘をつく事を覚えても全く違和感がねぇだろぉ?」



 ルシフェルが神を裏切り、得た力が嘘をつく事。それは、人間の可憐からしたら当たり前の事だったが、人間ではない者にとって、手にしたくても手に入れることが出来ないものだというのを可憐は何となくだが理解出来たような気がした。


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