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68話狂想曲+契約(1)


 猛は二枚の翼を広げながら上空で光と可憐の様子を見ていた。学校の窓から二人が談笑しながら移動教室へと足を運んでいるところが見えた。


 数ヶ月と比べたら随分と近くなった二人の距離に安堵のため息をする猛。そのまま彼らに背を向けとある集合住宅へ向かった。


 数分後、目的の集合住宅の屋上に降り立ち、翼を消したあと、最上階にある一室のチャイムを鳴らす。数秒後、玄関の鍵が外される音がした。



「はーい」



 ガチャンという音とやや裏返った男性の声。玄関の鍵を開けた男は男性用の服の上からピンクのフリルの着いたエプロンをつけている祥二郎だった。



「やっぱりお前か……」



 先程の安堵のため息ではなく、この世で一番見てはいけないものを見てしまったようなため息をつく猛。左手を自分の額に当てて再度ため息をつく。



「やだぁ。サプライズと思っていたのに予想ついてたのー? もしかして運命?」



 玄関の扉を全開まで開けて手招きする祥二郎。彼が動く度にエプロンのフリルが女性らしく揺れた。しかし、エプロンの裏からチラリと見える二の腕は男性らしい筋肉の塊だった。



「ジンたちと話がしたい」



 祥二郎の言葉を無視して玄関に足を踏み入れる猛。扉が閉まる金属音がした。



「つれないわー。でも、あなたのそういう所、アタシは大好きよ。ミカエル」



 筋骨隆々の腕で作られたハートマークを横目で見ながら猛はそのまま談話室へ向かった。



「それと、後でお前にも話がある。祥二郎。」



 猛の言葉に祥二郎は一瞬だけ表情を曇らせた。しかし、それを悟られないように再度筋骨隆々な腕で大きなハートを作った。もちろん、猛はそれを見てもいなかった。


 談話室には既にジンとハルが昼食のサンドイッチを口にしていた。



「早めの昼食か」



 猛の言葉に二人の視線が猛に集まる。ジンが食べかけのサンドイッチを皿に置いた。



「昼過ぎから国のエライ人が来るらしいからな。リーダーはそっちで上手くやってんの? 猛」



 座れよと促すようにハルの隣を指さすジン。小さくなったサンドイッチを一口で食べきり、ハルがソファの二人座れるスペースを作る。猛はジンの指示どうりにハルの隣に腰掛けた。



「想像以上の人間を虜にしているぞ。五年間Eランクで生きていた経験がこんな形で役に立つとはな」



 半分呆れるような笑いを浮かべる猛。ハルが猛にコーヒーでいいかと尋ね、頷いたのを確認すると、ソファから立ち上がり席を外した。



「元々人タラシなセーカクしてっだろ。んで、本題は何だよ」



 足を広げ、やや前のめりになり両太ももを肘置きにし、クロスされた両手の平の上に軽く顎を置くジン。彼の瞳が猛を映す。



「お前らと一緒にいた悪魔の話だ」



 挑発的な態度のジンに煽られることなく足を組むことにより感情を伝える猛。ちょうどその頃ハルがコーヒーを運び、猛の前にそっと置いた。ハルに軽く会釈すると淹れたてのコーヒーを口にする猛。ハルが猛の隣に座った事を確認すると、ジンは猛を軽く睨みつけた。



「スズがどうしたってんだよ。アイツはオレの命を救って、消えた。お前らのフインキからしてそれってヤッちゃいけねーことなんだろ」



 頬の傷痕を軽く触れるジン。彼からわずかだが悪魔の魔力がこぼれているのを猛は見逃さなかった。



「当たり前だ。こちら側で言うならば悪魔を助けた天使となる。契約違反で裁かれるのも時間の問題だ。しかし、地獄長レベルの悪魔を今、裁いたら、俺たちが有利になる。そんな馬鹿なことをしないとなると、あの女はどこかでお前らを狙っていると考えるのがセオリーだろ」



 再度コーヒーを一口飲む猛。ジンも昼食のサンドイッチと共に口にしていた紅茶を一口飲んだ。ほのかに果物の香りがする紅茶はジンはあまり好きになれなかった。



「……。これはオレ、イチコジンの考えだが、スズがそーゆー回りくどい事はしねぇと思う。それに、リーダーがウリエル? だっけか、そんなタイソーな役についてんならスズに勝ち目ねぇだろ。オレやハル、アイを狙ったところで向こうもどーせ猛が守ってるって考えるのもセオリーだとオレは思うぜ」



 苦手な紅茶を飲んだ事により感情的にならなかったジン。気付いたら紅茶を飲み干していたのをハルは見逃さなかった。



「第一地獄長……サタンと同程度に近い力を持つ悪魔がこちらに向かっていると聞いた。お前らと一緒にいた悪魔よりも遥かに格上だ。そいつが動けと言えば負け戦でも奴はこちらを攻めるしかない。ここは一応俺の力で多少の攻撃は防げるが限界がある」



 補足として花の契約者である春紀とルキフグスの事について二人に簡単に説明した。二人はその間一切口を挟まず、ただ黙々と聞いていた。




「なるほどねー。ジョーシのメーレーならしゃーねーわな。ただ、仲間だったオレたちとしてはショージキ、スズがオレたちを殺しに来たらタメラっちまう」



「悪魔はお前たち人間を殺すことは滅多にない。神が許さない殺しは、俺たち契約者は出来ないようになっているからな。しかし、お前たちの心を殺して契約してくる可能性は充分ある。ジン……。お前は仲間だった奴を斬る覚悟は出来ているか?」




 猛の言葉にジンの脳裏にスズの姿が横切った。


 赤と青の美しいオッドアイ。Eランクにいながらも潤いを無くすことのなかった金髪。そして、鈴の音のような美しく、儚い声。


 こんな子が自分の目の前に現れるなんて想像もしていなかったジンは気付いたら彼女の全てが愛おしくなっていた。


 しかし、彼女の瞳に映っていたのは自分ではなく、自分の親友だった。



「猛! それはジンにはキツいんじゃないの!?」



 ジンが返事をする前に口を開いたのはハルだった。彼の気持ちを理解しているハルが猛に代弁しようと立ち上がったがジンが右手を出し、それを制した。再度座るハル。


「……。ショージキさ、斬る自信ねーよ。でも、斬らねぇとリーダーが自分自身を犠牲にしてまでも手に入れたオレたちの幸せが無くなっちまう。それならオレはスズを斬るぜ。それが、スズにとってもサイゼンサクなんだろ?」




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