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67話 狂想曲+幸福



 小一時間後、先程の歴史の授業が終わり、次の授業までの休憩時間で弘孝と猛の席に光と可憐が集まった。



「随分人気者になったんだね。弘孝君」



 張り付いた笑みを浮かべながら手を振る光。弘孝は光を視界から外し、その後ろにいる可憐をじっと見ていた。



「学校に来てくれるなら言ってくれたら良かったのに」



 光の隣に立ち、微笑む可憐。弘孝は可憐の右手を取り、両手で包み込んだ。



「可憐の驚く顔が見たかった」



 万人がときめく微笑をする弘孝。可憐はその笑みに対して左手で自分の右手を包んでいる弘孝の両手に触れた。



「それなら成功よ。それに、Eランクでのあなたとは違って少しドキッとしちゃったわ」



 少しドキッとしたという言葉を聞いて弘孝は思わず嘘だろと可憐に聞こえないくらいの声量で口にしてしまった。心臓の鼓動がワンテンポ早くなったのが分かった。


 その様子を見ていた光が我慢の限界となり、やんわりと二人の手を離した。顔は相変わらず張り付いた笑みを浮かべいるが、瞳は弘孝を捉えていた。



「随分長い間()()()()()の手を握りしめていたね」



 ぼくの可憐という言葉を聞いて可憐はため息をついた。それと同時に以前、教室で吹雪と喧嘩になっていた事を思い出した。


 当時は自分の立場を理解していなかったが、今振り返ればあれは悪魔である吹雪から自分を守るための小芝居だったのだと思うと少しだけ、彼に感謝の気持ちが湧いてきた。



「まだ契約してない可憐を僕のと言うのはお門違いだと思うが」



 挑戦的な目で光を睨みつける弘孝。その時、若干こめかみ辺りに痛みが走った。しかし、それ以上に光と可憐が気になっていたので、痛みを覚えるような素振りは見せなかった。



「そんなの時間の問題だよ。それに、ぼくたちは守る守られる約束はした。君には無いものをぼくは持っている」



 弘孝の感情をさらに逆撫でするかのように煽る光。弘孝のルビーレッドの魔力が両腕からこぼれ始めた頃、猛が二人を制しようと立ち上がった瞬間、教室の扉の方からクラスメートが弘孝を呼ぶ声が聞こえた。



椋川(むくがわ)くーん。次は移動教室だから案内するよー。光明(こうみ)くんたちも遅れないようにね」



 クラスメートの声に我に返った二人はクラスメートの女子によそ行きの笑顔で返事した。弘孝のこめかみの痛みも、いつの間にか消えていた。



「分かった。今行く」



 次は許さないと光にだけ聞こえるように付け足すと弘孝は可憐に軽く手を振り、案内すると言ったクラスメートの女子の所に向かった。彼女だけではなく、複数のクラスメートが男女問わず弘孝を囲っていた。



「可憐と光は付き合ってるからあんまり邪魔しない方がいいぞ」



 クラスメートの男子が弘孝にやんわりと伝えた事実。弘孝はそれにバレない程度の苦笑をしながらクラスメート全員を簡単に見渡した。そこには猛の魔力がうっすらと見えた。



「そうだな。恋仲を邪魔するほど僕は悪人じゃない」



 偽りのという言葉を省略し微笑する弘孝。彼を囲っているクラスメートの頬が赤く染った。そのまま弘孝は彼らを連れて教室を後にした。



「人気者だね。弘孝君。でも、ぼくの方が二枚目に相応しいと思うんだけどなぁ」



 光の言葉に頷く可憐。彼女の視線は未だに教室の扉の方にあった。



「そうね」



 短い返事をする可憐。予想外の返事に光は一度可憐の顔を覗き込んだ。彼女は恋する少女のような潤んだ瞳をしていた。



「私、嬉しいのよ。五年前に弘孝と別れてもう二度と会うことは無いと思っていた。それが会えてさらにこうやってみんなの人気者として同じ教室に居てくれている。十七歳らしい生活を送れるのはあなた達のお陰ね」



 可憐から微かに漏れるエメラルドグリーンの魔力。慈しみに溢れた彼女の魔力は光と猛の脳裏に癒しの大天使ラファエルの姿を思い出させた。



「契約内容を自分で考え、実行したのは弘孝だ。俺たちではなく、あいつ自身の力であってあいつ自身の呪いだ」



 二人の会話に猛が割り込む。既にカバンを持ち机の上は綺麗に片付けてあった。そのまま猛は二人の間を通り過ぎた。




「どこに行くの?」



「人間の言葉を借りるなら、ちょっとそこまで、だ」




 二人に視線を合わせることなく教室を後にする猛。教室に残っているのは光と可憐の二人だけだった。



「さ、これからどうする? ぼくたちもサボってデートでもどう?」



 数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは光だった。右手を可憐に差し出し微笑む光。そんな光を可憐は無視し、次の授業で使う教科書や筆記用具をカバンから取り出し、光の差し出された右手の上に乗せた。



「何おかしなこと言ってるの。ただでさえ私たちは授業に遅れがでてるのよ。次の試験まで二年を切ってるの。降格しないように勉強しなきゃ」



 それ持っていってねと付け足し可憐も教室の扉の方へ足を進めた。



「ぼくの天使は一徹だなぁ」



 光の言葉は一匹の黒猫以外誰も聞いていなかった。




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