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番外編 デート(2)


 正気を失った光を放置し、二人は公共交通機関を使い、Aランクで一番大規模な大型ショッピングモールへ出かけた。スーパーマーケットのような生鮮食品から家具家電、衣類やその他専門店がひとつの建物の中にズラリと並んでいた。もちろん、外食が可能なレストランや映画館等といった娯楽も抜け目なく用意されている。



「さ、とりあえず着いたけど、何からしましょうか」



 駐車場を抜け、正面入口の自動ドアをくぐる二人。すると、そこは沢山の人が各々求める店へ足を運んでいた。



「そうだな……。僕は何も分からないから、可憐に全て任せたい……と言いたい所だが、それだと可憐に負担をかけてしまうな」



 指を自身の顎に当て、考える素振りをする弘孝。ポニーテールにされた長髪と女性用の服が仕事のできる女性のような雰囲気を出す。



「私は何も負担ではないわ。弘孝がここのランクに早く慣れて、十七歳らしい思い出を作れたらと思っているだけよ。特に希望が無いのならば、お昼を食べながら考えましょうか。オススメのパスタ屋があるの」



 いきましょうと付け足し、微笑しながら弘孝の右手を軽く引っ張る可憐。弘孝の心臓はその時点で限界だった。バクバクと音を立てながら二種類の血が流れる様子を身体の持ち主に伝える。



「分かった。行こう」



 視線を逸らし、最大限に冷静さを保っているフリをしたがら足を進める弘孝。傍から見たら妹が姉を急かしているような光景だった。


 そんな二人を少し離れた物陰でストーカーのように見守る二人がいた。




「おいおい、この時点でそれかよ。リーダー、ダイジョーブかよ」



「どうしてそんな簡単に弘孝君の手を取るんだい、可憐」



 一人は頬に大きなバツ印のような傷跡がある少年。もう一人は茶髪を最大限に生かした美形の少年。二人は可憐と弘孝がショッピングモールに入ると、後をつけるように入店した。



「てか、なんで光がこんな事やってんだよ」



 傷跡の少年が弘孝の姿を確認しつつ、光に話しかける。



「それはぼくのセリフだよ、ジン君。ぼくはただ、可憐が恋敵(弘孝君)にたぶらかされないように見守っているだけさ」



 光の言葉にジンは呆れたと言わんばかりにため息をついた。二人の歩幅は完全に一致し、可憐と弘孝の後をバレないように追いかける。



「オレはただ、リーダーがバカしねーよーに見張ってるだけだよ。アイツ、可憐の前となるとショーキじゃねぇし」



 シャツとスラックスで好青年のような格好をしているジン。服の質もEランクのものとは比べ物にならないくらい上質なものとなっており、Aランクの人間と大して変わらなかった。



「ここよ。ここのパスタセットが組み合わせも豊富で、味も文句なしなの」



 光とジンが文句を言い合っている間に、可憐と弘孝はパスタがメインの飲食店の入口に立っていた。食品サンプルのパスタを数品指さす可憐。



「可憐が言うんだ。外さないだろう」



 未だに握られている手を弘孝もちゃっかり握り返し、店へはいる二人。二名様ですねと店員の言葉に頷くと、席へ案内される。店のやや奥の方の席に案内された二人はタッチパネル式のタブレット端末からメニューを選ぶ。


 そんな二人を横目に、光とジンが可憐たちに見つからないように一緒に入店した。可憐と同じような接客をうけると、店の奥の方へ通された。奇跡的に二人の行動を確認できる席で光たちもまた、メニューから適当に食べるものを選ぶ。




「私は明太子のクリームパスタに和風野菜スープを組み合わせるわ。弘孝は?」



「僕は、よく分からないから、このオススメと書いてあるボロネーゼとミネストローネの組み合わせにしよう。もし、可憐が欲しいならシェアすればいい」



 弘孝の言葉に可憐はありがとうと微笑すると、タブレット端末に要領よく注文する。頼んだものが運ばれるまで、二人は着席と同時に渡された水を一口飲んだ。ほんのりレモンの風味がする水はこれから食べるパスタの口直しにちょうど良いと連想させた。




「さらっと弘孝君が、食べ物のシェアを提案してるんだけど……」



「んなの知らねぇよ。オレ魔力ねぇんだから、聞こえねぇし。別に飯食うだけに、何そんなにシットしてんだよ」



 光とジンもオススメの組み合わせを速攻で注文し、水を一気に飲み干す。テーブルに置かれているセルフサービスのピッチャーを持ち、空になったコップに水を注ぐ光。




「食べ物のシェアといえば、あーんってやつでしょ? ぼくでさえやった事ないのに……」



「はぁ。リーダーもケッコーなバカだが、光も負けてねぇな」



 ため息の代わりに水を一口飲むジン。レモンの風味が妙に彼を落ち着かせた。



「お待たせしました。パスタセットです」



 店員が二人分のパスタセットを軽々運び、可憐と弘孝の前に置いた。特にどちらがどっちを頼んだか伝えていなかったが、店員は間違えることなくパスタとスープを置いた。



「ありがとうございます」



 可憐が微笑みながら店員に礼を言うと、店員はそのまま去っていた。いただきますと両手を合わせると、スプーンとフォークを使い、パスタを口に運ぶ。弘孝もまた、可憐と同じようにパスタを口にした。



「……。美味い」



 不意に出た弘孝の本音。ダストタウンでは食べるところか存在さえも想像出来ないレベルの衛生的で整えられた味は弘孝に許されて生きていることを実感させた。



「でしょ。ここのはどのパスタを頼んでも美味しいわ。あ、私の一口食べる?」



 もう少し続きます

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