番外編 デート(1)
※番外編なので読み飛ばしても問題ありません
弘孝がAランクへ編入して数日が経ったある日の日曜日、光は可憐をどこか買い物にでも誘おうと、可憐の家の前まで来ていた。ブレザーの間から見えるネクタイを簡単に整え、玄関のチャイムを鳴らそうと人差し指を前に出したが、可憐以外の人間の気配を察知した。一度、自分の魔力を使い、家の中の気配を探る。すると、小さいが、二人の会話が聞こえてきた。
「本当に僕がこんな事をしてもいいのか」
「弘孝だから平気なのよ。遠慮しないで」
世界で一番愛しい少女が一番の恋敵である長髪の少年と若干怪しい会話をしている。光は更に魔力を耳に集中させ、聞き耳をたてた。すると、次に聞こえたのは衣服を脱ぐような布が擦れる音。まさか、可憐が弘孝君にそんな気持ちあるはずないと心の中で強く呟き、ゆっくりと目を閉じる。
「少しキツイな」
「大丈夫? 苦しかったりするなら他の方法を——」
「ちょっと待った!」
これ以上聞くに絶えないと判断した光は無意識に叫びながら玄関を魔力を使い瞬時にピッキングし開けた。その後声の聞こえる方へ突撃し、勢いよく扉を開けた。そこには普段の赤いマフラーとブレザーの可憐ではなく、十七歳の少女らしいワンピースを着た可憐と、女性ものの服を着た弘孝の姿。突然現れた光に二人は目を丸くした。
「光? あなた何をしているの?」
可憐の言葉に光は、一度思考を停止させ、状況を把握する。女装した弘孝と可愛らしいワンピースを着た可憐。それ以上の情報が無かった為、光はゆっくりと口を開いた。
「二人とも、何してるの?」
「質問を質問で返さないで。私たちは、今から近くのショッピングモールへ出かけるのよ」
可憐の言葉に光は目を丸くした。一度ネクタイをしめるような動作をし、冷静さを取り戻す。
「それなら、どうして弘孝君が女装しているのかな。ぼくは可憐をデートに誘おうと思って、お邪魔したんだけど」
張り付いた笑みを浮かべたまま、弘孝にのみ殺意が伝わるように話しかける光。弘孝もまた、彼の殺意を受け取り、可憐に分からないように殺意で返す。
「僕はあくまでもダストタウンの住民。学校以外の行動は制限されている。出かける事が出来ないので、可憐の提案で、彼女の服を借りて変装して出かける事にした。何か文句あるのか? 光」
弘孝があくまでも可憐の提案だと言うことを強調するように話す。口元は笑っていたが、目は笑っていなかった。
「弘孝はAランクに来て、一度も特別な外出をしていないのよ。十七歳らしい事だって出来ないのは不公平だわ。私の服を貸す位で済むなら、喜んで貸すわ」
二人の殺意の間に可憐が割り込む。慌てて殺意を消す二人。弘孝の黒い髪が僅かに揺れた。
「でもそれって! デートって事だろ?!」
光の言葉に可憐は大きなため息をついた。
「恋仲でもない幼なじみと出かけて、デートになるのなら、デートが特別なものではなくなるわ」
そして、あなたとのデートはお断りだわと付け足し、弘孝の服を整える可憐。彼女の行動にやや頬を赤く染める弘孝。ロングスカートだったが、可憐より身長が高い弘孝が着ると、膝上丈のミニスカートに近いものになっていた。その光景が、光の中では恋仲のように見え、思わず口にした言葉があった。
「じゃあ! ぼくも女装する! そしたら君と出かけられるの?!」
恐らく没となった床に落ちている可憐の服を手に取り、自身のネクタイを外そうと右手を首元に触れさせる光。しかし、彼の行動は可憐が手を叩く事により制された。
「馬鹿じゃないの。気持ち悪いからやめて」
まるでゴミを見るかのような目で光を見る可憐。その瞳は可憐が本気で嫌がっているのを光に伝えるには充分だった。しかし、それを光は否定的に受け取らず、無意識にときめいていた。
「あぁ、可憐。君はなんて正直な天使なんだ! そして、その瞳さえも可愛く見えるなんて!」
予想外の返事に、可憐はゴミを見るような目から、寒気を覚えた人の目付きへと変わり数歩下がった。弘孝が二人の間に入り、光を睨みつける。
「行くぞ、可憐。あんな馬鹿から早く離れないと、僕達までも馬鹿になってしまう」
可憐の腰に手を回し、エスコートするよう誘導する弘孝。そのまま光の横を通り過ぎる。
「待って! 可憐!」
光の叫び声に可憐は聞いていないフリをするかのように無反応だった。その代わり、弘孝が振り向き、蔑みの笑みを光に向け、口パクと魔力で光にだけ本音が伝わるようにした。
「今回は僕の勝ちだ」
彼の笑みは悪魔そのものだった。
※続きます




