第9話 閑話 ~サーシャの本質~
私の名前はサーシャと申します。
あの人との話の中で、
「神の名前ってたしかウラヌスだったじゃん?あれってどこからきたんだろうね?俺、聞いたことないんだけど」
と笑いながら話していました。
……私の以前の名前って、一体何を表していたのでしょうか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は自分の足元にある魔法陣に、自身の魔力を注ぎ込みながら、神に出会った時のことを思い出していました。
あの時、聖女は何をすればいいのか、私は聖女になって何をしなければならなかったのか。
私はそのことを聞きそびれていたので、もう一度会いたかったのです。
そして……お礼を言いたかった。
貴方様が何を考え、私を聖女に任命したのかはわからないけれど、それでも私は救われたのだから。
そんなことを考えていると、部屋の真ん中にある大きい魔法陣がうっすら光っていきました。
それと同時に、大きい方の魔方陣の周りにいる神官6人が、神代の呪文を唱え始めたのがわかります。
すると、どんどん私の魔力が勝手に吸われ、それと同時に、私のではない魔力の鎖みたいなものが、私の中に流れ込んできて暴れ回ったのです。
体のいたるところ楔を打ち込まれたようでした。
その軋むような痛みに耐えていると、なんというか遠い所に、大きくて暖かいモノを感じることができました。
私は夢中でそれを手繰り寄せました。この時の私は、何も考えられずただただ無心でした。
私は気が付くと、膝に両手を置いてハアハアと息を整えている自分がいました。
何が起きたのだろうと、周囲を確認しようとしたとところ、大きい方の魔方陣の中心で、こちらを見ている男性がいました。
戸惑った表情をした、見た目20代中盤から後半の黒髪で黒い目をした人でした。
その時、別の部屋で待機していた大司教様が、部屋に入室なされ、その男性の前に行き跪き「貴方様が神ですか?」と聞いていました。
少しの問答の後、大司教様はこちらに来て、
「聖女サーシャよ、あの方はお前があったという神に相違ないか?」
正直、出会ったのは5年も前なのと、神様の顔をちゃんと確認していないので、あの方が神かどうかわかりませんが……。
あの時の、あの方はもっと落ち着いていてカッコよかったような……。
ただ、あの容姿は私の血縁者とは考えにくいし、会ったこともないはずです。
神様でないとするならば、私との縁が在るという事なのですが……。
「……あの感じは多分違うと思いますが、鑑定を行ってみては?」
とりあえず私は無難な回答をしておく。
「ふむ、それもそうか。では、鑑定を行う。聖女もついて来なさい」
「はい」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
結局、鑑定の結果では、あの方は神ではなかった。
少し残念だけど、逆に、私の事を知っている人の可能性がグーンと上がった。
計画通りに行けば、あの人は安全なはずだし、脱走の手引きを致しますか!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私はいったい誰を呼んだんでしょうか?
あの人と、私は何かの縁があるはずなんですが……。
それとも、召喚の儀が根本から失敗していた?
聖女である私との縁を辿って、あの方は召喚されたはずなのですが……。もしかして、魔法陣とかが間違ってたのでしょうか?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚める。
昔から見たことのある天井だ。
聖女になってからは、ここで寝る事も無くなってしまいましたが。
すぐ近くに、人のいる気配がある……。
「お、サーシャさん具合はどう?」
「サーシャ!あなた大丈夫?」
そんな声が聞こえながら、シスターミネルヴァが私に抱きついてくる。
珍しく興奮しているのか、ヒックヒックと鼻を鳴らしながら泣いていた。
よく分からないが、その背中をよしよしとさすってあげる。
さすりながら、何か引っかかっているその思考を思い出そうとする。
何か大事なことを忘れているような……。
「あれ?私、死んだんじゃないんですか!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
—――土下座ですか。
別に私は、貴方様からそんなに謝られることなどありません。
私は、貴方様に本当に心から感謝しているのです。
なんというか、私の貴方様に対する想いがけなされてる気がしますね。
貴方様は、何一つとして悪いことなどしていない。
私は仮に、あのまま死んでいても、貴方様に感謝こそすれど、恨みなど一つもなかった。
……それなのにこの人は。
うん。
なんかイラっとするから踏んどきましょう。
「気にしなくていいですよ。では、これでおあいこです」
そう言いながら私は、ここ数年浮かべていなかったであろう、心からの笑みを浮かべ、靴を脱いだ足で、踏みやすい位置にある頭部を踏んだ。
あ、なんかちょっと気持ちいいかも。
―—――サーシャはただのドSであった。
さっき一章、二章の章管理を探し当てました!
それに伴い、タイトルの変更を行いました。