第39話 ミッドガル攻防戦4
ドワーフ城ランドギス。
その中にある玉座の間で、怒声が響き渡っていた。
「おんしらは何を考えておるんじゃ!今の状況が分かっておるのか!!」
怒声担当のゴドフが、その室内にいる面々に吠える。
そしてそれに対し、玉座に座る若いドワーフの隣に立つギムレットが答える。
「師匠……いやゴドフ。何を言おうともここの守備兵を割く事は出来ない。王を守るのはドワーフ兵として責務だ」
「馬鹿者がッ!城門が破られ敵が町中まで侵入している状況で、ここに守備兵を置いといても意味がないわい!ミッドガルの都市が落ちたら、そのままここも落とされるだけなのを何故理解できない!」
「ゴドフ。いくら俺に、神の武器職人の座を奪われたからと言って、俺のやる事なす事にケチをつけるのはやめてくれ」
そう言うと、周りの王の家臣やドワーフ軍の将校たちに、ヤレヤレとアピールをするギムレット。
「ルンダ!メキオジフィル!ニコラウス!お前たちは何故、この状況で兵を出さん!お前らにはその権限があるだろうが!」
いわゆる宰相、軍総司令、近衛隊長に怒声を浴びせるゴドフ。
「はあ~ゴドフ。……それはな、俺がするなと命じているからだよ。」
「なんじゃと!?おんしは、戦略や守備の事や政治の事は素人だろうが!何故おんしが口を出す!」
「そりゃあ神の武器職人として、王の次に権力があるからだよ」
「阿保か!!!!その権力は、ドワーフの種族としての役割を、王権という制度に侵されないように、神の武器職人に渡されたもので、お前のように使うものではないわい!」
玉座に一歩詰め寄るゴドフ。
「ニコラウス、ゴドフがそれ以上近づいたら、拘束して地下牢に連れて行けよ」
「――分かりました」
苦虫をつぶしたような顔で、そう答える近衛隊長。
「王よ!いつまでそこで縮こまっているおつもりか!この国の!ドワーフの!命運がかかった時に腑抜けておるでないわい!」
ビクッとする若き王、どうしたらいいのか分からないようで、辺りを縋るように目を走らせる。
「……おいゴドフ、今のは王に対する侮辱罪だ。おまえら!ゴドフを即刻地下牢に連れて行け!」
にやりと笑いながら、近くで固唾をのんで見ていたドワーフ兵に、指示を出すギムレット。
指示を出された兵士たちは、戸惑い、上司であるニコラウスに視線でお伺いを立てる。
「さっさと連れていけよ!」
痺れを切らして、まくし立てるギムレット。
それを、一瞬何とも言えない目で見ていたゴドフは、はあーと深いため息をつき、意を決した様に、
「ここまでの様じゃな」
と凄みのある声でギムレットを睨みつける。
「ん?ついに観念したか?俺より矮小な事にやっと気が付いたか!はっはっはっはっは!!」
ギムレットのその発言をマルっと無視したゴドフは、その空間に居る全員に聞こえるよう声を張る。
「近衛兵!『神の武器職人』であるゴドフ・グランツが命じる!『元、神の武器職人』であるギムレット・ウォーカーを捕らえ、地下牢に連れて行け!!」
「は?!な、何をバカな事を気でも狂ったか?」
「お前は本当にバカじゃのう……。手がかかる奴はかわいいもんじゃが、おんしは度を超えすぎじゃ。反省せい!」
今まで黙っていたニコラウス、メキオジフィルが鑑定を行う。
「なっ!?神の武器職人が代わっている……!?」
「――死んだり、奉納する以外に『神の武器職人』が無くなる事があるなんて……!?」
驚愕のあまり、王・宰相・近衛兵隊長・軍総司令は固まってしまった。
「あまりにも、度が過ぎたのじゃろう。というか気付け馬鹿者が!儂は鎚を振るった瞬間に気がついたわい!」
それを受け、自身の『神の武器職人』が無くなった事を悟ったギムレット。がくがくと膝が笑っていた。
「あ、あり得ない。か、返せゴドフ!それは俺のだ!」
そう言いながら、剣を抜きゴドフに突進するギムレット、それを見て、ハッとした近衛隊長ニコラウスが槍ではたき落とし、
「……残念です。玉座の間で私情での抜刀は罪になります。……おいお前達!このバカを地下牢に連れて行け!」
「「はっ!」」
「は、離せ――!この国は俺のもんだ――――!!!!」
近衛兵たちに取り押さえられ、引きずられるように連れて行かれるギムレット。それを見てゴドフはぽつりと、
「哀れなもんじゃな」
ギムレットの叫び声が遠くなるなか、総司令官がその空気を払しょくするかのように、元気良く指示を出す!
「さっさと出撃準備だー!」
そしてそれに答える兵士達も元気良く、
「終わっています!」
「良し!最低限の兵力を残し、市街地へと向かい、侵略者どもを潰しに行くぞ!」
今までの鬱憤を晴らすかのように、元気良く動き始めるドワーフ達。
すると、
「ゴ、ゴドフ。わ、私はどうしたら良い?」
と、玉座で縮こまっていた王がゴドフに声をかける。
「――王よ。貴方が可哀想な境遇なのは理解しておる。――じゃがのう、自分で考えて行動しようとせんと、一生そのままじゃぞ?」
「……な、なら私は、勇敢なるドワーフ族の戦士になりたい。わ、私も戦場に連れて行ってくれ!」
ゴドフに向かって、訴える若輩王。
「だ、ダメに決まっているでしょう!御身の体がどれ程大切か分かってらっしゃいますよね?」
すぐに却下した宰相ルンダ。若輩王は玉座で項垂れる。
が、ゴドフは宰相ルンダに対し、
「ルンダ!お前さんは言わなければならない相手に、何も言わなかったではないか!今更なにを抜かしておる!」
ルンダを一睨みした後、周りを見渡しメキオジフィルとニコラウスを見据え、
「お前らもじゃぞ!国が亡ぶかもしれんというころで、あのバカをのさばらせておくなんて言語道断じゃ!」
そして、王を見据え、
「王よ。もちろん死ぬかもしれない事はご理解できていますな?」
「も、もちろん。だが、ここでビクビクと縮こまっているのはもう嫌なのだ!」
玉座から立ち上がり、ゴドフを見据える王。
今日初めてゴドフの視線に、真っ向から立ち向かった。
それを受けゴドフはにやりと笑い、
「クッ、ガハハハ!構わんなニコラウス!王を守るのが近衛兵じゃろう!しっかり守れよ!……それともなんじゃあ?城内の守りやすい所じゃないと、守れないのが近衛兵なのか?」
ゴドフは、ニコラウスの方を見ながら挑発的な目でそういった。
「ガッ!ガハハハハ!……そこまで言われてやらないわけにはいかんな!!何故、我ら近衛兵が最強部隊と言われているかの、とくとご覧入れよう!」
ニコラウスはすぐに近衛兵たちに指示を飛ばしていく、それを受け軍総司令官メキオジフィルは、
「ランドギス城を開放する!ここを最大拠点としすべての情報をここに集約させろ!各地にここから指示を出す。王と近衛兵隊が準備出来次第、出陣じゃ!これは防衛戦ではない、殲滅戦だ!!」
「「「「「おう!」」」」」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方その頃、城から目抜き通りで繋がっている城門周辺では、ドワーフ達はその光景に膝を折りそうになっていた。
空を飛ぶヤギ頭に対しては、黒いモヤのかかった、見たことのある錫杖を持った変な奴が牽制していたが、大量に襲って来た邪族とコボルト、そして城壁をぶっ壊して侵入してきたベヒモスにより、諦めの感情が広がっていった。
先程、凄い鳴き声が聞こえたと思ったら、地面を揺らす感覚が起き、よく見ると最初の襲撃の倍ぐらいの量の敵が向かってきたのである。
城壁からの攻撃もむなしく、ベヒモスの突貫を許し、城壁には簡単には修復できない大穴が開いてしまった。
城門周辺もドワーフ族との総力戦であったのにも関わらず、さらに違うところに戦場が増え、邪族とコボルトの数も倍ほどになり、ベヒモスという化け物が侵入してきたのである。
さすがのドワーフ達も、考える事を拒否し諦めてしまったのである。
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名前 ベヒモス
種族 ベヒモス種
役割 なし
職種 なし
位階 65
筋力 7948
体力 8367
精神 698
知力 182
魔力 302
器用 78
運 63
普通のベヒモス
全長12メートル、高さ7メートル、横幅5メートル。
体重は約180トン。
頭部がでかく、デフォルメされたような姿であるが、その体を覆っている白い部分は、自身の骨が変質したもので、自重を支える役目と共に攻撃から身を守る鎧でもある。
鎧がない部分も、皮が厚く、常人の剣捌きでは刺さることもない。
その圧倒的な質量からなる突進力は、すべての建物を破壊する。
仮に人族領で現れた場合、町や村、下手すると国が滅ぼされるほど危険である。
冒険者で言うところの、Aランクパーティーの冒険者が、100人単位で狩る災害魔獣である。
現在、エグゼバグに操られている。
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くっそ!!
エグゼバグ一人なら何とかなるが、あのベヒモスがヤバい。
街中を走らせたら、すべての建物が障害にならず破壊されるだろう。
その中にドワーフや人が居たらそれで終わりだ。
だからすぐにでも、ベヒモスを抑えに行きたいのだけど、それをさせない存在が居る。
さっきから、ベヒモスの所に行こうとすると、特級魔法を撃とうとするし、じゃあ先にエグゼバグを倒そうと思うと空に逃げるし!
ベヒモスに関しては、城壁を破られてから気がついて、直後に土魔法で落とし穴を作り、なんとか足止めは出来ているのだが、いかんせんその場しのぎでしかない。
それも、城壁を破った時に突進力がほぼ無くなり、悠然と歩いている所を落とし穴で捕獲したんだが、いかんせん距離があるから、魔法が届くまでに時間はかかるし魔力もかかるし、届いても発動する魔法は弱くなる。
時間が立てば立て直されるだろうし、倒しに行くにはエグゼバグがウザいし、城壁に開けられた穴からもドンドン敵は侵入しているし。
どうするかな……。
無理すればいけるんだろうけど。出来れば、使える手札はあまり切らずに倒したい。
最初にテレポートを使ったけど、多分バレていないだろう。
まあ普通に考えれば、城壁からジャンプしてきたと思うだろうから、奥の手として使える。
またエグゼバグに対して、魔法も神聖魔術のバリアしか使っていない、そのため他の魔法も奥の手たり得る。
ただ、このまま手をこまねいて被害が広がるぐらいなら、さっさとエグゼバグを倒した方が良いか。
と、考えをまとめ決意した時、ベヒモスに向かうドワーフの一団が居た。




