第34話 ドワーフ族の今。
「神崎さん朝ですよ、起きてください」
遠くでそんな声が聞こえる。
ただ頭も体も起きる事を拒否していて、表層に上がった意識が、また暗く深い眠りの底に落ちようとしたその時、
「にゃー私もやるにゃ!」
ん?なにを?と声を出さず寝ぼけた頭で問う。
すると、頬に何かが……っていうか、いつもの慣れ親しんだ足の裏の感触があった。
そして一拍置いた後、サーシャの体重が足にガッツリ乗って顔が潰される。
「うげっ!ちょ、ちょっと待て、起きるから起きるから―!」
自身の置かれている状況を一瞬で理解し、すぐさま起きようとするが、踏まれている頭は残念なことにベッドに固定されていた。
そして視界の端でネオンの目がキラッンと光るのを捉えた。
「にゃー!」
という掛け声とともにネオンが空中に飛びあがり、無慈悲なジャンピング・ボディ・プレスを俺に放つ!!
「がふっ!」
カンカンカンカンカン!
3カウント、サーシャ・ネオンチームの勝ち!
―——いつものくだらない朝だった。
三者三様の体勢で、自分たちのベッドに居る。
サーシャは腰掛け、ネオンは寝っ転がり、俺は腰をさすりながらベッドのわきに立っている。
「で、今日はどうします?」
「とりあえず夜になったら、装備品は貰っていく予定だけど、それまではミッドガルの町中でも見ようかね。明日この町を発って、すぐにロムルスに戻る予定だよ」
「え?ロムルスですか?メギト王国を通って魔族領に行くのでは?」
「いや、獣人領が少し不安だから、それを確認してからにしようかなと……」
「にゃにゃ!獣人領行くのかにゃ?」
「予定ではな」
「アルスメットからでは駄目なのですか?アルスメットもロムルスも、獣人領までの距離ははあまり変わらないと思うのですが、……わざわざ危険なところに顔を出さなくても良いと思います」
サーシャの顔から少し複雑な表情が出てきている。
別に、都市ロムルスが嫌いなわけじゃないだろうし、本当は顔を出したいのであろう。
育ったところだしね。
「いや、聖女が居なくなって2カ月位経つだろ?ロムルスがどうなっているのか知りたいんだよね。というよりウラヌス教か」
ゴージャスが馬鹿な事をして、孤児院にひどい事をする可能性もあるわけだし、確認だけはしときたい。
全然問題ないならば、またアルスメットに戻ってから、馬車で獣人領に行ってもいいわけだし。
「確かに。現在ウラヌス教どうなっているんですかね?」
「……さあ?」
と、ネオンと二人で首を傾げる。
というわけで、今後の予定を決めたので、さっそくミッドガルの町中に繰り出すことにする。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ミッドガルは大きすぎて、一日で周るのは不可能だろう。
ランドギス城周りは、さすがに警備が厳重で、観光的な場所でもないからパスするとして、どこに行こうか考える。
やっぱりドワーフの町なんだから、武器や防具だろうか。
俺の剣は、あの剣鬼の剣でいいとしても、防具は神専用武具になかったから、探してみてもいいかもしれない。
そう考えると、ネオンの武器も買ってあげたい。
……そういえば、俺の借金って今650万超えた、のかな?
サーシャさんに土下座すれば貸してくれるでしょうか。
そういやシレっと、ネオンの食費とか宿代払ってもらってるな。
よし今日の夜は、いつもより心を込めて土下座しよう!
そうしよう!
何というか鍛冶屋街というのだろうか、そこかしこからカーンカーンという音と、蒸気がもうもうと立ち込めている。
どこの鍛冶屋が良いのかさっぱり分からないのと、入ったら怒られそうな気がする。
ネオンは蒸気と戦っている。
「どうしようかね。なんか作られた武器を売っている所でもあると嬉しいんだけど」
「そうですね。ここは売っているような雰囲気じゃないですもんね」
考えが甘かった。
ラノベでは、鍛冶屋の工房とお店が一体になっているのが普通だったから、ここまで来てしまったけど、そりゃあ、問屋に卸したり仲買人みたいな人が買うよね。
鍛冶屋で直接買うなんてことは普通無いか。
何てことを考えていると、
「何故じゃー!」
と鍛冶屋街で大きな怒声が響き渡る。
……なんか、前も似たようなことがあったな。
その怒声が響いたところに向かうと、
「だからゴドフさん、ギムレットさんが言っているんですよ。神の武器職人であるギムレットさんの言う事が聞けないんですか?」
「じゃからその理由を聞いておるんじゃ!」
「五月蝿いから目障りなんじゃないんですか?」
「当たり前じゃ!おぬし等がたるんでいるからだろうが!」
「仮にそうだとしても、神に見向きもされなかったじじいが粋がるなよ」
「な、なんじゃと!」
「はいはい。とりあえず伝えましたからね?1週間後にはここを出て行ってください!」
若そうなドワーフが颯爽と去っていった。
残されたゴドフは、悔しそうに地面を睨んでいた。
「久しぶりですねゴドフさん」
「ん、誰じゃ!?おお!あの時の人族じゃないか!……はあ、嫌なところを見られてしもうたわ」
道の往来で話を聞くのもアレなので、この近くにあるゴドフの鍛冶場で話を聞くことにする。
俺らにはお茶を出してくれた。
自分には酒を注いでいた。
「にしてもこんな所に居るとはのう。儂がこの町に戻ってきたのもつい最近じゃぞ?おんしらは、あの後すぐにミッドガルに向かったのか?」
「そうですね。確か、5日後位にアルスメットからミッドガルに向かったかな?」
「ほう、ここでなんか用でもあったのか?」
「ちょっとした野暮用、でももう大丈夫かな。そっちはなんか大変そうだね」
「そうじゃのう……もうダメかもしれんな。ドワーフ族は。」
そう言うと、ドワーフ族的に珍しい自虐的な笑みを浮かべていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
話を聞くとこうだ。
今代の神の武器職人は、それほど才能もなければヤル気もないらしい。
ただ神の武器職人になると、それ相応の役職になるらしく、その者は権力を使って遊んでばかりいるとの事。毎日酒を飲み、ドワーフ族の綺麗どこを一手に集め、税金で宴会を催すばかりで、自分の鍛冶の能力を上げたり、良い作品を作る気はないらしい。
何故なら、武具を奉納するという事は、神の武器職人という役割を返納することになるので、今の生活を捨てなければならない。
実は何代か前からその傾向はあったのだという。
ただ、ここまであからさまにやっているのは元馬鹿弟子だけだ!とゴドフは憤っていた。
それでも、ドワーフ族の誇りである神の武器職人なのだから、己を磨けとゴドフはその者に常々言っていた。何故なら、その者はもともとゴドフの弟子で、住み込みでずっと教えていたのだ。
だがしかし、神の武器職人になってからは王宮の鍛冶場に行ってしまい、なかなか会う事が出来なかった。その為ゴドフは、会った時には口煩く言ってきたのだが、遂に相手が、実力行使でゴドフをミッドガルから追放したらしい。
「……」
サーシャがいつもよりジト目で「おいお前、しっかり仕事しろよ」と語っていた。
いや、言い訳させて。
なんせ邪神を倒せる最強装備がもうあったから、神の武器職人の必要性が低く、任命する際はメチャクチャ適当に決めてた。
―—うん、まごうことなき俺の所為だね。
ごめん!ゴドフ!
声を出して謝れないけど、本当にごめん!
だってこんなことになるなんて思わないじゃん!?
って事はあれか?ドワーフ族が全体的にヤル気がないのは俺の所為か。
神の武器職人に任命されるのが、技術があるとかヤル気が有るとかじゃなくなっている訳だから、頑張ってもしょうがないと、種族的に思わせてしまっているわけだ。
いや、ほんとそんなつもりじゃなかったんだけど……。
なんか罪悪感が半端ないな。
俺は冷汗をダラダラ流しながらゴドフの話を聞いていた。
よし!この問題は今日中に何とかしよう!そう心に決めるのであった。
「そういえば六色の杖はどうじゃ?」
心に決めている間に、ゴドフに話しかけられてハッとしてしまった。
「凄い助かってるよ。正直これがなかったら何度か危なかったと思う」
正直な気持ちを伝える。
「そうか。おんしと話しておると、心が軽くなるわい」
ガハハハハと笑い、さて、今日からまた頑張るかのう!とヤル気が戻っていた。
そうだ、ついでにこれも聞いとこう。
「そうだ、話は変わるんだけど、良い弓矢とかある?そこの獣人の子に渡したいんだけど」
いきなり話を振られて、暇そうにしていたネオンがにゃにゃ!?といすから落ちた。
嘘だろおい!猫ってそんなどんくさかったっけ?
「そこの嬢ちゃんようか?まあ無くはないが調節に少し時間がかかるぞ。」
「じゃあお願いしていいかな?ちなみにいくらぐらい位になるかな?」
「そうじゃのう……まあ100万はいかんじゃろ。」
「えーと、サーシャさんお金を貸してください」
「いいですけど、今いくらぐらい借りているかわかってます?」
「はい。これで約750万程になるかと……」
「分かっているならいいですけど、そろそろ、本格的に稼がないとまずくなってきましたね」
「弓買ってくれるにゃ?にゃら、それでバンバン獲物獲るにゃ!」
ネオンがわーい、と手を上げて喜んでいる。
まあこれでも弓の特技レベル5あるし即戦力だよね。
採寸とステータスを教え、何個か質問を聞いたゴドフは、明日の朝には何とかしとくわい!ガハハハハと笑っていた。
よし、もう今日は宿に帰って休もうかな。




