1 婚約破棄騒動
ここはリンドベル王国のハートフル学園。王侯貴族の子供たちが通う学園である。天気のいい穏やかな昼下がり、中庭で事件は起こった。
侯爵令息エリック・ランドルフが婚約者の伯爵令嬢フローラ・メイフィールドに婚約破棄を言い渡したのだ。その理由はエリックがミア・ソワレス嬢との間に真実の愛を見つけたからであった。ランドルフ家とメイフィールド家は両家ともに建国から続く名家であり、二人の婚約はほとんどの貴族が知っていた。そのため、この破局話は瞬く間に学園内を駆け巡ることとなった。
ここ最近で着飾った学園の貴族令嬢たちが扇を片手に話すことといったら、その噂話で決まりだった。
「ねえ、ご存じ?婚約破棄ですって」
「なんと真実の愛を見つけられたとか」
「フフッ、それは何よりですわね。」
「真実の愛…ね。永く続くといいけれど!」
噂の内容は、婚約破棄と真実の愛を面白がるものが大半だった。
婚約破棄にまつわる騒動は、噂好きの貴族にとって格好の雑談テーマである。
しかし特待生としてこの学園に通う平民のエマは、貴族の婚姻の制度に疎かったため完全に蚊帳の外であった。
「ねえノア、コンヤクハキって何??」
エマはちょうど横にいたノアに尋ねた。ノアは口が悪く皮肉屋だが、なんだかんだエマとはいい友人関係を築いている男爵家の三男だ。
「婚約関係を一方的に取り消すことさ。しかしはっきり言って馬鹿なのか?」とノアが言った。
「え、私のこと?」心当たりはあまりなかったが試しに聞いてみた。
「それはその通りだが、あの婚約破棄を宣言した令息だ。勘当されても文句は言えないんじゃないか」
否定されずに流されてしまった。
「なんか今、さらっと私の事…まあいいや。なんで勘当なの??」
「貴族の結婚は家同士の結びつきの下考えられている。結婚についての権限は大体親が握っていると言っていいだろう。それを一方的に取り消すというのは、よほどのことがない限りあり得ない。」
「逆によほどのことがあれば認められるってこと?」
「まあ、そうなるな。例えば不貞だとか暴力なんかは正当な理由として認められるだろう。だが真実の愛を見つけたというのはなんだ。自ら不貞をしたと言いふらしているようなものではないか。」
「うーん…たしかに」
「とはいえ元々フローラ嬢と並ぶと美女と野獣扱いされていたし、彼にも思うところがあったのだろう。それにここからは完全に僕の予想になるが、フローラ嬢の方もおそらく華奢な男性の方がタイプなのではないだろうか。なぜなら彼女はこの前廊下でトーマスとすれ違った時にわずかに顔を赤らめていた…さらに言えばハドソン家の子息、名は何と言ったか……」
横でつらつらと何かを述べているノアに対して、なんだこいつと思ったが何も言わなかった。それよりもエマの頭を占めていたのは真実の愛とはいったい何なのかということだった。




