04
好きな人のために頑張れる、美談の王道じゃないでしょうか。健気な感じを出せてれば嬉しいです(´;ω;`)
「ジャンヌ様のためだもん……」
そう呟いて言い聞かせてもやっぱり勇気が出なかった。
屋敷の庭でレオポルト様が一生懸命汗を流して剣術の稽古に励んでいる。
ジャンヌ様が言うにはレオポルト様もオトメゲームと言う物語の登場人物で近いうちに現れると言う彼女のライバルの女の子を好きになるらしい。
ジャンヌ様はそのライバルに嫌がらせをして重い罰を受けるのだそうだ。
その時、ライバルの女の子の味方になるのがレオポルト様で、彼もまたジャンヌ様にイジメられた事を恨んでいるらしい。彼は遠くない未来にジャンヌ様を困らせる。
ジャンヌ様も前世の記憶を取り戻した一年前からは反省してるみたいだけど、レオポルト様からすればイジメらていた記憶の方が強くて仲直りしたくても出来ないのだそうだ。
ジャンヌ様が近付いてもレオポルト様は逃げてしまうそうだ。
レオポルト様の事を話すジャンヌ様はとても悲しそうだった。
だから私が何とか二人を仲直りさせてあげたい。『仲直りさせる』だなんて偉そうだけど私はジャンヌ様のために何かしてあげたい。
たった一日でたくさんのものを貰ったお返しに何でもいいからしてあげたい。
私はジャンヌ様が大好きで笑っているところがもっと好きだから。もっと笑顔になって私に笑いかけて欲しい。私は彼女と一緒にいるだけで幸せになれるから。
だから勇気を振り絞ってレオポルト様に話しかけたい。
庭に咲いた大きな木の幹に隠れて私がウンウンと唸って決意を固めていると後ろから不意に声をかけられた。
「……おい」
「うわああああああ……」
声をかけられた事に驚きすぎて私は情けない声を上げてその場にペタンと座り込んでしまった。声のする方を振り返るとそこには呆れた様子のレオポルト様の姿がある。
本当にビックリして思わず腰が抜けるかと思った。
「お前、影武者の方……だよな?」
「は、はい。ごめんなさい……」
「何でいきなり謝るんだよ? それじゃあ俺が悪者みたいじゃないか……。で、俺に何か用事か?」
「は、……はい。じ、実は……」
「落ち着けって。姉さんに何か言われてきたのか?」
「ち、違います。私はただ……ジャンヌ様に笑って欲しくて……」
「……もしかして姉弟仲良くって話か?」
「ジャ、ジャンヌ様はレオポルト様とお話がしたいみたいです……、ごめんさない」
人と話すとそれだけで泣きそうになる。
これまで人とこんなにたくさん喋った経験なんて私には無かったから。話し相手と言えばお父さんくらいで、そのお父さんも仕事から帰るなり「邪魔だ、寝ろ」と一方的に声をかけてくるだけ。
他の人には私の存在自体が気に入らないからと一方的に罵声を浴びせられるだけだった。
でも目の前にいるこの人はジャンヌ様の弟さん。
それも困った顔付きをしてはいけるけど別に私を邪魔者扱いしてる訳じゃない。「どうすりゃいいんだ?」と泣きじゃくる私の対処に困っているだけみたいだ。眉をへの字にして頭を掻きながら私を見下ろすレオポルト様からは全く悪意を感じない。
この人も一緒にいると安心する。
ジャンヌ様とはまた違った優しさをその全身から感じる事が出来る。
「だから謝るなって、……お前、もしかして誰かにイジメられた事あるのか?」
「ずっと……」
「ずっと?」
「生まれてからずっと優しくされたかったんです、ジャンヌ様は私に優しくしてれた初めての人なんです」
本音を他人に曝け出す事がここまで恥ずかしいとは思わなかった。
ギュッと歯を食いしばって何とか口にした言葉は情けない自分を全て晒す様で、レオポルト様の反応が怖かった。目を瞑っていると「はあ」とレオポルト様のため息が聞こえる。
レオポルト様は私に呆れているんだろう。
「……見た目は姉さんソックリだけど色々と可愛くて困るんだよな。どう扱えば正解なんだ?」
「え?」
「……何でも無い」
え? レオポルト様が小声で何か言ったかな?
そう感じて振り向いたけど肝心のレオポルト様はそっぽを向いている。やっぱり私に呆れてるんだ。
そう思って口にした言葉を後悔していると近くでドサッと人が地面に座り込む音が聞こえた。恐る恐る目を開けるとそこには木に背を預けながら座り込むレオポルト様の姿があった。
ジーッと青い空を見上げた彼は私の本音に応えるかのように言葉を口にしだした。
「俺……さ、この家には養子で入ったんだ」
「ジャンヌ様もそう言ってました」
「ん、前の家では俺は妾の子だったから厄介者だったんだよ。だから誰からも優しくされなくてさ、俺もお前と同じ。ずっと誰かに優しくして欲しかったんだ」
「めか……け?」
初めて聞く言葉だった。
でもレオポルト様が沈んだ顔で口にしたから良くない言葉だと言う事だけは分かる。
「そう、だからこの家に養子縁組が決まって少しだけ期待したんだ。何のしがらみもないこの家ならって」
レオポルト様は私に全てを話してくれた。
レオポルト様はローレヌ家と同じ地位のアプスブール侯爵とその使用人との間に生まれた男の子。生まれた時は厄介者扱いされてその家の正妻から追い出されたのだそうだ。だけど結局正妻は男子を産めず、跡取りが問題になってしまった。
アプスブール侯爵は再びレオポルト様を呼び戻す事になって一時はその跡取りとして英才教育を施されたらしい。
だけど彼の本当の不幸はここから始まっていく。
レオポルト様が戻った矢先に正妻が男子を産んでしまうのだ。そうなっては再びレオポルト様は厄介者とされてまたしても家を追い出されてしまう。このローレヌ家は彼にとって追い出された結果の終着駅。
それでもレオポルト様はここなら何のしがらみも無いから丁度いいと考えた。
だけど実際は突然現れた義理の弟を快く思わなかったジャンヌ様にイジメられる事になって塞ぎ込んでしまったのだと言う。レオポルト様は空を見上げながら少しだけ自嘲気味に私に話しかけてくれた。
この人の隣はジャンヌ様と同じくらい穏やかで私は好きだ。
「一年くらいかな、この家に来てからずっと俺は姉さんにイジメられ続けてさ。その時は流石に自分の人生を諦めたよ、俺はこう言う運命なんだろうなって。だから姉さんの癪に触らない様に出来るだけ静かに生活してたんだ」
「……」
「そしたらいきなり人が変わったみたいに接し始めてさ、もう訳が分かんねえよ。……俺は前の家で二度も捨てられた。だから絶対に同じ過ちは二度と繰り返さない。期待してまた突き放されたら俺は……」
「でも……」
「そしたら今度は影武者だぜ? あ、別にお前が悪い訳じゃないけど、でも……俺はもう……」
「でもジャンヌ様はすごく反省してます」
「お前が姉さんを本気で慕ってるのは分かった。実際に姉さんも人が変わったのも分かる。だけど俺は怖いんだ」
「何が怖いんですか?」
「……差し伸べられた手が離れていくのが一番怖い。俺は一人ぼっちよりもそっちの方がずっと恐ろしい」
そう本音を漏らすレオポルト様の頬には涙が滴っていた。
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