03
人間関係が狭かったせいで優しくされるだけで人を好きになる、そんな世間知らず的な女の子を描きました。
でも悪役令嬢は一部人格破綻だけと基本的にいい人だから安心して好きになってちょーだいと私は言いたい(๑•̀ㅂ•́)و✧
初めてドレスで身を包んだ。
服なんて何でもいいと思っていた。
ただ寒さを凌げればそれでいいとずっと考えていたからそれ以上は何も望まなかった。靴だって最後に履いたのは何年前だったかな? だから素足の方である事に何の抵抗も感じなかった筈なのに、どうしてだろう?
こんなに心がウキウキするのは。
「うん、やっぱり私の見立ては間違ってなかったわね。マリーは白が一番似合う」
「こ、こんな高そうな服、私貰えません……」
「いいの、私が上げたいの」
「で、でもお……」
「言ったでしょう? 報酬は出すって、これもその報酬の一部だから。逆にお古で申し訳ないくらいだわ」
ジャンヌ様はとても嬉しそうに笑いながら私にドレスを選んでくれた。彼女はこの国フェルセンブルグのローレヌ侯爵家の長女、ジャンヌ・ローレヌだそうだ。
年齢は私と同じ十二歳。
そんな偉い人がどうしてホームレスの私にここまで優しくしてくれるのか。
一応説明はしてくれたけど私には難しくて良く分からなかった。
ジャンヌ様は前世でジョシコーセーと言う学生だったが、トーコーと言う物の真っ最中に彼女は不慮の事故で死んでしまったのだとか。今はジャンヌ・ローレヌとして生活しているが、一年前のある日突然前世の記憶を思い出す。
この世界は全てジャンヌ様の前世ではオトメゲームと言う物語として語り継がれているのだそうだ。
ジャンヌ様が言うには彼女本人もその物語の登場人物らしい。
本人が言うにはジャンヌ様は数年後の未来に悪事を働いて重い罰を受ける運命が待っているとかいないとか。私にはジャンヌ様が神様にしか思えない。そんな人が悪い事をしでかして罪に問われるなんてどうしても思えない。
だってジャンヌ様は私に嘘のない笑顔を向けてくれるから。
彼女が笑う度に私は泣きたくなるくらい幸せな気持ちになれるのだから。
「私……もう死んでもいいです」
「死んだらダメよ? だって貴女は私の影武者なんだから」
「影武者って何をすればいいんですか?」
「うーーーーーーー……ん、影武者って何をするんだろう? 私の遊び相手?」
「もしかして……良く分かって……無いんですか?」
「必要な時に私とすり替わって貰うわ」
「すり替わるんですか? ジャンヌ様のフリをしていればいいんですか?」
「うん、そう。すり替わって婚約者とデートして貰ったりパーティーでダンスとか色々とね」
ジャンヌ様の話は私には夢の出来事に思えた。
誰からも好かれず親からも必要とされず、ずっと一人で寂しく生きてきた私なんかが誰かとデートなんて許される筈が無いのだから。
ジャンヌ様の話はキラキラした世界の中の出来事で私には似合わないと思う。
こんな私に笑顔を振り撒いてくれるジャンヌ様さえずっと居てくれればそれでいい。寧ろそう望む私が強欲だとさえ感じる。
「私、男の子とは一度も話した事もないんですよ?」
「マリーは可愛いんだから笑えばいいのよ。そうすれば男の子の方が放っておかないわ」
「ううう……、ジャンヌ様は意地悪です……」
「マリーは私の事嫌い?」
そんな事ない。絶対に無い。
ジャンヌ様の隣は幸せに満ちている、ここをずっと私の居場所にしたいくらいだ。
「……大好きです」
「もー、マリーは直ぐ俯いちゃうんだから。そう言う事は目を見て話さないと」
「……はい」
「やっべ、もう辛抱溜まりません。今すぐしゃぶり付きてー」
「え? 何か言いました?」
「何でも無いわー」
なんだろう、ジャンヌ様の雰囲気が時々変わる様に感じる事がある。
だけどやっぱり私の思い違いかな? 直ぐに顔を上げてジャンヌ様を覗き込んだけど何時もと変わらないニコニコ笑顔だった。
そんなやり取りをしているとふと別の方向から聞き覚えのない声が聞こえてくる。
「……姉……さん?」
ジャンヌ様の動きがピタリと止まった。
恥ずかしくて俯いた私をキラキラとした笑顔で下から覗き込むジャンヌ様は小さな呟きを耳にして固まってしまった。私は逆に声のする方を振り向くとその先には一人の男の子が立っていた。
と言うよりも男の子もジャンヌ様と同じで固まって動けないのかな?
私はその二人を交互に視線を向ける。
いい加減首が疲れるなと思ったけど二人とも動かないから何度も首を動かしてみる。それでもいつまで経っても状況が変わらないから、臆病な私だけど勇気を振り絞ってみようと心を決めた。
呆然と立ち尽くして部屋にいる私とジャンヌ様をドアの向こうから覗き込む少年。ジャンヌ様とはまた違った美しさを兼ね備えた青い髪を肩まで伸ばして、綺麗な瞳と色っぽい唇が特徴の美少年。
私は精一杯の声で話しかけてみた。
「あ、……あの……ジャンヌ様に何かご用ですか?」
「ジャンヌ……様?」
「あ、……はい。私、ジャンヌ様の影武者なので……そのお……」
私がオドオドとしていたからかな?
男の子は私の話を全て聞く前に走り出してしまった。男の子はジャンヌ様を見て少しだけ怯えていた様に見えた。走り去るその背中は何時も何かに怯えて生きる私にソックリに思える。
だけどこの屋敷にいる以上はきっと偉い人なんだろうから、私と同じだなんて言ったら失礼かもしれない。もしかして私、嫌われちゃったのかな?
「あの子は私の義理の弟なの」
「ジャンヌ様の弟さんですか?」
道理ですごくカッコいい筈だ。
でもジャンヌ様はすごく寂しそうに弟さんの事を口にした。もしかしてジャンヌ様は弟さんと仲が悪いのだろうか。だけど私には兄弟なんていないから何も言えないし、言う事そのものが失礼な気がする。
変な事を言ってジャンヌ様に嫌われるのはもっと嫌だ。
そんなふうに考えていたらジャンヌ様は小さくため息を吐きながら、まるで神様に懺悔でもする様に弟さんの事を私に話してくれた。
「あの子はね二年前、この屋敷に養子としてやって来たの」
「……ジャンヌ様?」
「まだ何にも話してないのにマリーが泣きそうになってどうするのか?」
「ごめんなさい……」
「謝らないで。あの子はね私が前世の記憶を思い出すまでずっと私にイジメられていたの」
「ジャンヌ様がですか?」
「そう、名前はレオポルト・ローレヌ。乙女ゲームの正規攻略対象なの」
レオポルト様の走り去る背中を見つめるジャンヌ様はとて悲しそうな表情を浮かばせていた。
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