02
自分の世界が180°変わる感じを頑張って出してみました。灰色の世界が彩る感じを出せてれば嬉しいです(´;ω;`)
初めて上がった他人の家は貴族の屋敷だった。
違う、自分とか他人なんて関係無い。家と言う建物に初めて足を踏み入れた。声を掛けてくれた貴族の少女は見窄らしい格好の私が馬車に乗る事に嫌な顔一つ見せなかった。
ずっとニコニコ、優しく手を伸ばしてエスコートしてくれた。
そう言えば人の手を握ったのも初めてだったかな?
私を追いかけてきた人に少女は丁重に盗んだパン代を渡して騒動を収めてくれて、店の人も代金が貰えるならばと言って黙って引き下がっていく姿を私はただボーッと見届けるだけだった。
全てが私の意志とは関係無く収まっていく。
だけどそこに一つだけ疑問が残る。
文字の読み書きもまともに出来ず、計算だって出来ない。そもそもお金に余裕が無くて学校に通いすらしなかったのだから当たり前だけど。
それでも、そんな馬鹿な私だって簡単に感じ取れる違和感くらいはある。
それくらいの感覚は備わっている。
私はそれを少女に直接聞きたくて早く会いたいと、言われるがままに屋敷の奥へと進んでいった。メイドらしき人に案内されてお風呂に浸かり、全身の汚れを全て落としてとある部屋に入る様に促された。
部屋に入ると見たことも無い物ばかり目に映るものだから私はキョロキョロと視線が落ち着かせる事が出来なかった。
豪華なベッドに大人だって余裕で寛げそうなサイズにソファーにしっかりとした造りの学習机。そして部屋の外には屋敷の庭を全て見渡す事が出来るテラス。
そこに存在するものの何もかもが私には初めて目にするものばかりだった。
そしてソファーには先ほどの少女が和かに座っていて彼女は私に笑顔を向けてくれる。手招きしてくれる。
「やっべ、こんな可愛い子だったなんて想定外だわ……」
「え?」
「何でも無いわー」
なんだろう、一瞬だけ涎を垂らした様に見えたけど、私の見間違いだったのかな?
少女は「コホン」と咳き込んで仕切り直す様な仕草を見せる。そして戸惑うばかりの私を気遣いながら先ほどと同じように優しげに声を掛けてくれた。
「お風呂に入ってサッパリ出来たかしら?」
「……ごめんなさい」
「? 何を謝っているの?」
思わず漏らした私の言葉に少女が怪訝な様子で首を傾げる。そうじゃない、私が言いたかった事はそれでは無い。
普段から殴られて蹴られてと他の大人の憂さ晴らしにされて来た私は謝る事が癖になっている。つい「ごめんなさい」と口にしてしまって伝えたかった言葉を言うことが出来なかった。
だけど今度は間違えない。
「助けてくれてあ、ありがとう。盗んだパンのお金まで払ってくれて。私……他人に優しくされたの初めてで……」
「別に親切でした訳じゃないの」
「で……でも、私……」
「やっぱりソックリね」
「な、何が?」
「少し痩せすぎだけど貴女、私にソックリ。しっかりと食べて髪を整えれば双子だって言われてもおかしくないわ」
私がこの美しい少女とソックリ?
この人は何を言っているんのだろう? 私は住む家も無くて着る服だってボロボエで体を洗うのも工場の排水が混じったスラムに流れる汚水だ。
私は何もかもが汚れきっている。
そんな私が貴族に少女と似ている筈がない。
一度だって自分が可愛いだなんて思ったことは無い。だって私はお父さんからだって一度として褒められた事がないのだから。
「私、ホームレスで住む家だって無いし……」
「だからパンを盗んだのね?」
「うん、……一昨日から何も食べてなくて」
「ご両親は?」
「お父さんがいるけど働いても稼いでもお酒ばっかりで……」
「お母様は何処に?」
「……会った事ない、お父さんは死んだって……」
少女はずっとニコニコ、穏やかな口調で私に話しかけてくれる。罵声や怒声ばかりで罵られてばかりの私にはこの世のものとは思えない耳心地だった。
許されるなら目を閉じてずっと聞いていたいと思うほどの。
少女の声はそれくらい澄んでいた。
何よりもこの少女は私を蔑んだ目を向けない。少女の目はずっと澄んだままで私は心の中を覗き込まれている感覚さえ覚えてしまう。
だけど一切嫌な気持ちにはならなかった。
寧ろ少女と交わす言葉の一つ一つが心地良かった。出来ればずっとここにいた、お父さんの待つスラムには帰りたくないと願ってしまう。
そんな罪悪感で踏み潰されそうな私に少女は再び穏やかな様子で声をかけてくる。
「……私、悪役令嬢なの」
「アク……ヤク?」
「そう、私は前世で交通事故で死んだの。そして気が付いた時にはこの姿だったわ」
「コーツー……ジコって何?」
少女が口にする言葉の全てが初めて耳にするもので話について行けない。必死になってついて行こうとすると混乱して更に頭が回らなくなっていく。
その混乱からついに目まで回ってしまい、「え? え?」と声を漏らす私を少女は笑いを堪えながら見守ってくれていた。
もう私には何が何だか分からなかった。
「ふふ……ふふふ」
「どう……して笑うの?」
「貴女があまりにも可愛いから。でも……バッドエンドを回避するには貴女の力が必要不可欠なのよねえ」
「バッ……ド……エンドって?」
「マリー、貴女さえ良かったらこの悪役令嬢ジャンヌ・ローレヌの影武者にならない? 勿論、報酬はしっかりと出すわ」
私は生まれて初めて人に必要とされてしまった。そう言って手を差し伸べてくれたジャンヌはやはり穏やかな笑顔のままだった。
私を灰色の空から連れ出してくれた少女はウィンクがとても愛らしい女の子だった。
お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m
また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。