7-9
「え?」
いつものカフェテリアで、マニエルはいつも座る自らの席に、謎の白衣姿の人物を見付け困惑した。
「ほい」
フランシスが何食わぬ顔で、隣のテーブルから椅子を取り、マニエルへ差し出す。リゼリアも涼しげに両肘をついてストローでジュースを飲んでおり、フユハだけがマニエルと同じく困惑していた。
「美味! 我蜜柑飲料大好!」
「そう、良かったわね」
ジュースを飲むために指で上げていた額の札を下げると『絶対合格』と書かれており、マニエルとフユハは更に訳が分からなくなった。
マニエルが「えー? えー……?」と、戸惑いながら席に座ると、フランシスが頬杖をついて話し掛けた。
「その格好……何? どしたの?」
テニスウェア姿のマニエルは、何と説明すべきか迷った挙げ句、全てを白状した。
「……そう。良かったわね」
「…………?」
てっきりまた摘ままれるかと思ったマニエルは、肩透かしを食らいフユハに無言のアイコンタクトを送るが、フユハは静かに首を傾げた。
「で、」
「で?」
「で、どうするの? コレ」
コレと呼ばれた白衣──崙崙はオレンジジュースを飲み干し、フランシスの紅茶に手を伸ばし、バシッと手を叩かれた。
「リゼリア1人暮らしだから泊めれない?」
「嫌よ、臭いから」
「我無味無臭。整理整頓清掃清潔」
「さっきから脇腹からオレンジジュース漏れてるんだけど……」
「──!」
リゼリアに指摘されて慌てて脇腹を押さえるが、崙崙の脇腹からは既に大量のオレンジジュースが漏れて地面へと流れていた。
「あのー……」
耐えきれなくなったマニエルが口を開いた。
「この方は……?」
「何か知らないけど着いてきた──」
「──ゾンビ的な何か」
フランシスとリゼリアが至極簡潔に説明した。そしてフランシスは「仕方ない……」とポケットからメモ用紙を取り出し、地図を書き始めた。
「今日からココがあなたの家よ。早速訪ねなさい。なるべく可愛らしく捨てられた子猫のように振る舞うといいわ」
「了解!」
崙崙が大手を振って歩き始めた。四人の間に、いつもの空気が戻った。
──トントン
「んあ?」
扉が開かれ、無精髭のエルフ、エルが顔を出した。
「え? 誰? どちら様?」
「我崙崙。此処家! 宿泊!」
「は?」
「我捨猫! 宿泊! 愛玩動物! 宿泊!」
「わわっ! なんだ!? おい! 勝手に上がるな!! 待て! おいってば!!」
崙崙は勝手に家に上がり込むと、冷蔵庫を開けた。
「おい! 勝手に何やってる!? 呪文で頭を吹き飛ばすぞ!!」
「我発見! 葡萄飲料!!」
──グビグビ!
崙崙は冷えた葡萄酒を勝手に飲み始め、慌ててエルが奪い取る。
「うおー!? 漏れてる!? お前の体から何か漏れてるんだけど!!」
「葡萄酒!」
脇腹から溢れた葡萄酒を舐め始める崙崙。
「この野郎! 頭に来た! 転移呪文で地下に埋めてやる!!」
「鈹鎂鈣鍶鋇鐳」
エルが詠唱を終える前に、崙崙の袖から転がった金属片から、種から芽を出すかのように、巨大な金属樹がエルに向かって急激な速度で襲い掛かった。
「うおっ!? なんだコレ!! しまった! コイツ錬金術師か!!」
柔らかい金属樹に雁字搦めにされたエル。崙崙はエルの手から葡萄酒を奪い取り、再びグビグビと飲み始めた。
「我、家無。整理整頓清掃躾完璧、宿泊許可申請」
「分かった!! 分かったからこの変なやつをどうにかしてくれー!!」
こうして、崙崙はエルの家に住むこととなった。




