6-2
いつものカフェテリア到着したフランシスは、先に居たリゼリアに手を振り、席に座るや直ぐさまにマニエルの脇肉を摘まんだ。
「クソが!」
「ひぃぃ……!!」
不機嫌に紅茶を頼み、そしてケーキを二つ。フランシスは気が付いていない。こうやってカフェテリアで散財をするから中々お金が貯まらない事を…………。
「フユハは?」
「なんか、回復役が欲しい人が居て、出稼ぎに行ったよ。一週間くらいで帰るってさ」
「はぁぁ!?」
「わ、私にすごまれても……。仕方ないよ、今のフユハなら他のパーティに誘われるだけの実力があると思うもん」
「で、一日いくらなの? その仕事」
「400G」
「よ、よんひゃくぅぅぅぅ!?!?!?」
フランシスが勢い良く席を立った。他の客の視線が突き刺さり、バツが悪そうに席へと座るが、フランシスの心は既にそこには無かった。
「ハハ……三日で1200G…………私の全財産が三日で……ハハ…………」
「フランシスが壊れたわ」
「……怖いです」
紅茶を溢しながら辛うじて飲み干し、ケーキを鷲掴みにして持ち、フランシスは席を立って帰路についた。
「あらら、帰っちゃった」
「…………」
残された二人は、フランシスの姿が完全に見えなくなるまで、その背中を見つめ続けた──
──場所は変わり、宿屋の裏にて馬車の中にフユハは居た。
次のメンバーが到着するまでの短期の補充枠として、別のパーティと探索する事となったフユハは、パーティの一員を待っていた。
「……すまない。少し遅れたな」
「いえ。大丈夫です」
馬車の中、姿を現したのは猫の女獣人であった。長毛種のクセのある体毛をものともせず、戦いに身を置く荒々しさと、手入れの届いた美しさが特徴的であった。
彼女が手にしていた長い弓は、弦が不思議と七色に染まっており、フユハの視線に気付いた女獣人は「そこで良い物を見付けたんだ」と、武具屋の方を指差した。
「自己紹介がまだだったな。私の名はフェルール。見ての通り猫の狩人だ。宜しく」
白い羽の付いた三角帽子を外し、指差した猫耳をひこひこと動かすと、笑顔で手を差し出した。
「フユハです。最近司祭になりました。宜しくお願い致します」
フユハもまた手を出し、二人は握手を交わした。
二人を乗せた馬車は動き出し、街を離れ、森の道を通り始めた。森は深く、馬車が通るだけの道は整備されていたが、木々で覆われた道は草木で日が届かず、まるで夜のように暗かった。
「森を抜けるには一日は掛かる。今日は此処らで休むとしよう」
馬車を止めた御者が火を起こし、二人は軽い食事を取った後に休息についた。
フユハは馬車の中で、フェルールは馬車の外で焚き火に当たりながら眠りについていた。
フユハはふいに寝苦しさを覚えた。
それは口を覆う人の手の感覚であった。
目を開けると御者が酷く歪んだ顔付きでフユハの上に覆い被さるようにしており、右手にはナイフを持っていた。
「大人しくしろ。黙ってれば運賃をタダにしてやるし、命も助けてやるからよ」
御者の右手がなぞるようにフユハの脚の上を撫で回す。ぞわぞわと気持ち悪い手付きが次第にフユハの太股を上がってゆく……。
フユハは驚きと恐怖声が出ず、抵抗しようにも指一つ動かせなかった。
「なにしている。その汚い手を離せ…………」
その時、御者の首に金物が押し付けられた。見ずとも分かる冷たく鋭い感覚。御者の背後でフェルールが冷めた視線を流していた。
「耳のいい獣人の傍で一発やろうなんて、随分と舐められたもんだねぇ」
御者がゆっくりとフユハから手を離し、ナイフを落とし、両手を上げた。
「お、お助けを……!」
「失せろ!!」
フェルールが御者を馬車から蹴落とした。転がった御者は慌てふためき立ち上がると、馬車を切り離し、馬に跨がり森を走り抜けた!
「……あーあ、行っちまったよ」
フェルールが御者を見送ると、フユハの方を振り向き、心配そうに体を調べ始めた。
「大丈夫だったかい?」
「え、ええ、はい。あ、ありがとうございます……」
「あーあーこんなに脅えちまってさ、可哀相に」
フェルールがフユハの頭を撫でた。フユハが自分の手を見つめるが、震えが止まらず先程の恐怖が未だに脳裏から離れない。
フユハが冷静さを取り戻すのに、暫くの時間を要した。その間、フェルール何も言わずフユハの頭を撫で続けた。
「もう、大丈夫です。ありがとうございます」
「そうかい? それは良かった。さて、この森を歩いて抜けるのか……まいったね」
フェルールは御者が駆けていった先を指差し、スッと右に30°程ずらした。
「近道といこうか」
「…………?」
夜の星すらも見えない森の中を動くことは危険であるため、その場を夜を明かした二人は、辛うじて光がある朝方に活動を再開した。




