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地下三階の風は一段と冷たく、まさしく凍てつく寒さであった。
「アンタ、寒くないの?」
「…………いえ、あまり」
「ウソでしょ!? ポッチャリは無敵なの!?」
フランシスとマニエルの声に反応し、天井に出来ていた小さな氷柱がポトリと地面へと落ちた。
降りてきた通路を少し進み、三叉路に差し掛かったその場所に、目的の氷結草は生えていた。球根から芽を出した若草が丸ごと氷塊に閉じ込められている。
「ねえねえ! コレ!? コレかしら!!」
リゼリアがそれらしい氷塊を指差すと、寒そうに体を強張らせたフェリーが、顔を少しだけ出し、黙って幾度と頷いた。
「やったわ! これで治せるのね!」
マニエルが盾で氷塊を壁から剥がし、丸ごと荷物入れへと押し込んだ。すると、吹き荒む風に紛れ、小さく吠える獣の声が聞こえた。
「……帰るわよ!!」
リゼリアの声と同時に四人は走りだした!
通路まで距離はそう離れてはおらず、四人は全力で駆け抜ける。しかし、残り僅かなその場所で、四人は通路を狼のような魔物に塞がれてしまった!
「ウェアウルフだ! マズイ、マズイよ!」
フェリーが慌てて顔を出し声を荒げた。
二足歩行で活動する人型の狼、通称ウェアウルフと呼ばれるその魔物は、群れで行動し、集団で狩りを行う。性格は慎重かつ大胆。自分達で勝てると見た相手には全力で襲い掛かり、強い相手には様子を窺いながら隙を狙う周到さを持ち合わせている。
通路には三体のウェアウルフが行く手を阻み、そしていつの間にか反対側には二体のウェアウルフが四人を挟み撃ちにしていた!
「ちょっと! どうするのよコレ!!」
「突破する。やるしかない……」
リゼリアがナイフを取り出した。ゴブリンとは明らかに格の違う相手。当然無事で済むわけがない。それはリゼリアが一番良く理解していた。
「グルルルル……!!」
三体のウェアウルフの一匹が唸りを上げた。
「──ヒッ!」
マニエルが驚き竦み上がった。声には出なかったが、フユハも僅かに驚き一瞬たじろいでしまった。
ウェアウルフ達はそれを見逃さなかった。弱い者から仕留めよ……そう言わんばかりに前方のウェアウルフが二体マニエル向かって飛び掛かり、後方の一体がフユハに向かって襲い掛かった!
「危ない!!」
リゼリアが咄嗟に反応し、フユハとウェアウルフの間に割って入る! 素早いウェアウルフの動きに対応する事を端から諦めていたリゼリアは、ナイフを身構えたまま動かなかった。
「グオォ!!」
ウェアウルフの鋭い牙が露わになり、リゼリアの肩に大きく食い込んだ!! 肉が裂け、骨が軋むような音が聞こえそうなほどに肩からは血が流れ出す。
「ああ!!」
フユハが思わず悲鳴を上げた。
「ふん!!」
しかしリゼリアはその痛みを気合で堪え、ウェアウルフの脇腹へとナイフを突き立てていた。次第に噛む力が衰え、ウェアウルフは白目を向いたまま倒れた。
「快癒!」
咄嗟にフユハが呪文を唱え、リゼリアの傷が跡形も無く癒え、消え去った。しかしローブは血に塗れ惨劇の思い出だけは残ったまま。
「グルルルル……!」
一方でマニエルに飛び掛かったウェアウルフは一体が地面に倒れ舌を出して気絶していた。盾の一撃で地に伏し、もう一体は、その盾に食らいつき、今にも奪われそうな程に強く引っ張られていた。
「離しなさい!!」
──ヒュッ!
「ギャワン!!」
フランシスの投げたダーツがウェアウルフの鼻先に刺さり、ウェアウルフは口を開け地面へと転がった。
「ウォゥ、ウォゥー!!」
後方のウェアウルフが遠吠えを放った。普通に発しても聞こえる距離であるにも関わらず、遠吠えを放つ理由は一つしか無い。そう、離れた場所に居る仲間を呼ぶためのものだ!!
「ヤバいよリゼリア!!」
マニエルが後方のウェアウルフからリゼリアへと目をやった。すると、リゼリアはナイフを構えたまま、一歩、また一歩、前方のウェアウルフの方へと歩み寄った。
「ちょっと! リゼリア!?」
リゼリアはフランシスの声にも構わず一歩ずつ確かにその歩みを進める。
「……どきなさい」
リゼリアはウェアウルフを威嚇した。仲間を呼ばれ、数で襲われれば一溜まりも無いこの状況。しかし今なら前方の二匹だけで済む。リゼリアは先程一体を沈めた毒のナイフをチラつかせ、ウェアウルフ達に向かって吼えた!
「どきなさい!!!!」
その声にウェアウルフ達が怯む!
「今よ! 走って!!」
三人がリゼリアの合図で走り出す! リゼリアはナイフで警戒しながら殿を勤め、三人が去ったのを確認してから自らも走り去った。
──ガッ!!
しかし走り出したのも束の間、リゼリアがナイフを持つ手に向かってウェアウルフが飛びつき手首を強く齧り付けた!
「──!!」
それを見たウェアウルフ達がリゼリアに向かって飛び掛かる──!!
──ヒュッ!
リゼリアの顔の横から、鋭いダーツがウェアウルフの顔目掛けて飛んだ。ダーツは見事ウェアウルフの眉間を捉え、手首を齧る力が弱まり、リゼリアは自力で拘束を解く。そしてナイフを振りかざすとウェアウルフ達の足が遠退き、その隙にリゼリアは再び走りだした。
後からウェアウルフ達の遠吠えだけが木霊し、リゼリアは一先ず窮地を脱した…………。




