恋の終わりと、始まり 13
利用されて。
悔しくて。
情けなくて。
切なくて。
自分の力で処理しきれない感情が、ポロポロと瞳から零れ落ちる。
ホント……、バカみたい。もう男なんて信じない。大キライ。
ショックのせいか意識が朦朧とする。
震える両足じゃ身体を支えきれなくなって、その場に崩れた。
冷たいな、地面。
寒いよ。真ん中が。
広がっていくアスファルトにできた染みを、ぼんやりとただ見つめることしかできなくて。
瞬間……。
「……凪沙」
蓮の声じゃない。誰? 空耳?
聞いたことのない低い声に名前を呼ばれ。
優しく包むように抱きしめられた温もりが、落ちかけた私の意識をギリギリのところでこの場に繋ぎとめた。
「泣かない約束。だろ?」
耳元で囁かれたその声は、ダイレクトに私の鼓膜を揺さぶる。
約束──。
「アキラ……、先……生」
微かに香っていたインクの匂いと、温かい温もりが、すぐに離れていく。
「……あ……っ」
顔を上げると、綺麗な漆黒の瞳が私を見下ろしていた。
「俺がいる。だからアイツとは別れろよ」
その真剣な眼差しに。
普段と違うキャラに。
疑問だけが渦巻く脳内は軽くパニックを起こしている。
聞いてない! こんなアキラ先生。男みたい……、じゃん……。
「アキラ先生? どうし……っ……んんっ」
聞きたいことは山ほどある。
なぜ私の名前を?
一人称がアタシじゃなく、俺って言ったよね?
蓮と別れろって?
いやそんなことより、オネエはどこ行った?!
けれど私の言葉は、唇に当てられたアキラ先生の指によって遮られた。
「好きだよ。凪沙」
「……っ」
何? え? なんなの……、この突然の告白。
もう片方の手で、頬に残ってた涙を優しく拭われた後。
「立てるか?」
力の入らない私を、アキラ先生が立たせてくれた。
細いのに私の腰を支えてくれる少し筋肉質な腕の感触に、嫌でも男の人を意識してしまう。
「えっと……、一人で立てますから」
何か無理。色々と無理。
だってネタのために私を利用してたんじゃないの?
私のことブスだの、これまで散々意地悪言ってきたよね?
おかしいでしょ、この展開。
見ていられなくて、慌てて視線だけを下げた。アキラ先生が私に触れてる場所に。
離してよ、と念を込めて。
すると……。
「ごめん。言うつもりなかったんだけどリミッター外れちゃった」
リミッターって何の?
念が伝わったのか、パッと離してくれたその手で頭を掻きながら、やべーな、なんて照れてるアキラ先生の顔が、暗がりでもわかるぐらい、赤くて。真っ赤で。
そして、はにかんでる顔が……、ヤバいぐらい可愛い。
どうしよう。あと数秒で蓮が来ちゃうのに。
気持ちの上では複雑だけど、あれこれ迷ってる時間はなさそうだ。
さしあたってクリアにしとかなきゃならない疑問は……。
一つか。
夜空を見上げて、星に問いかけるように声を出した。
「あの、冗談ならやめてくださいね。
弱ってるところに付け込まれたら、ぐらっとくるんで」
「ん? あぁ……。ぐらっとくるならいつでもどうぞ。俺、この時を何年も待ってたんだから。弱みに付け込んででも落としたいからね。
ってことで」
蓮のやってくる方へ背中を押される。
「行ってこい」
振り返ると、愛おしそうに私を見つめるアキラ先生と目が合った。




