恋の終わりと、始まり 12
マ……マズい……。
自分の彼女が、壁ドン。しかも無駄にイケメンに。オネエだけど。
どわぁーーー!
このシチュエーションはどんなに言い訳しても誤解を招く。
まだ遠くにいる蓮とアキラ先生を交互に見やり、あたふたしていると、私の頭上から。
「フッ。やっぱり来たのね」
「……はっ?」
こうなることを予想していたのだろうか。笑いの混じった声色がしっかりと降りてきた。
「やっぱりって、どういう意味ですか」
怪訝な顔で見上げる。
すると私の身体を解放して、アキラ先生は身体を蓮のほうへ向けた。
「来ると思ったのよ。下間ちゃんの携帯が急に繋がらなくなったからね」
蓮を見つめるアキラ先生の横顔。口角が上がってる。
この人、面白がってる。そういや、修羅場を望んでたっけ。
「わざとですか!」
思わず叫んでしまった大声にアキラ先生が振り向いた。
少しずり落ちた眼鏡の奥の瞳は、大きく見開かれている。
おそらく、私の声は蓮にも聞こえただろう。
携帯番号を変えれば、こうして蓮が現れると先生は思ってたんだ。
そりゃそうだよね。蓮が知ってる私の番号は現在使われておりません。なんだから。
お揃いのネイルにしたのは、単に自分が綺麗になりたかっただけで。ぼぉーっと待ってる私に気を使ったからで。私のデザインを選ぶのが面倒くさかった。から。
パスタを奢ってくれたのなんて、蓮の仕事が終わりそうな時間帯を計算した、ただの時間合わせだろう。
そう考えると辻褄が合うし、しっくりくる。
全てネタのため。
自分の漫画のため。
蓮のことを忘れさせてくれるために、連れ出してくれたんだと思ってた。
そんな訳ないのに……。
ネイルサロンで並んで座って。"綺麗になったじゃないの" と褒められたときは素直に嬉しかった。
スポーツ用品店で。"こっち" "いや、こっち"なんて、わーわー言いながら赤いジャージを選んだときだって。
一緒にいると楽しいな。そんなふうに思ってたのは私だけだったんだね。
壁ドンされて。
ドキドキして。
舞い上がって。
何やってるんだろ。いい歳して、私……。




