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GM転生クソゲオンライン  作者: 地空乃いいちこ
オータムリーフ
12/29

ロリ・喰らい損

 予想外な事にモンスターに一匹も出くわさずに始まりの村を出てから、大急ぎで街道をそれる。


 まっすぐ街道沿いに歩けばアップフィールドという大都市がある。村長に回復薬を届けるクエストを達成していれば、そのまま手紙(逃げた不倫相手への)を届ける仕事を依頼されるので、本来ならば自然とそちらに向かう流れになる。


 だが、それらをあえてスルーしてオータムリーフフィールド、通称・秋葉に向かうというのがイノの提案だ。


 「あそこが一番プレイヤー人口が多いッスからね。だから、プレイヤー鍛冶屋やプレイヤー商人の売る高品質な装備品が手に入り易いし。

 なにせ、クリエイト能力を使えば無限の財力ッスからね。こんなズルがあるなら、金で買える物は全て買わなきゃ損でショ」

 「オータムリーフまで行けば、他のプレイヤーと情報交換もできるだろうし、下手に危険を冒して大きな街に行くよりはその方がいいね」


 オータムリーフを目指す理由は簡単だが、アップフィールドを避ける理由は少しややこしい。


 始まりの村以外のほとんどの街には、『ガード』という衛兵がいるので、モンスターの襲撃でボロボロになる事はそれほど多くないのだが……あくまで多くないだけ。ガードだって死ぬ。(大抵はプレイヤーの手で。)

 何しろガードは全身鎧を一式装備しているのだ。街から外に出られないガードを、街の外から射撃で倒すのは遠距離攻撃ができるなら誰もが通る道だ。


 そして、山手線の駅名から名前を取るというルールにのっとれば、次は御徒町のはずなのだがウォークシティという街は存在しない。大きな街のあまりにもすぐ近くにある場合は合わせて一つの街という扱いにされるらしく、御徒町も神田も西日暮里も無い。

 その代わりなのか、アップフィールドの郊外には食料品を格安で扱うNPC商人が大量にいる地域があり、プレイヤーによる呼び名は当然アメ横と呼ばれている。

 この辺はNPC狩りのメッカでもある上、それらを狙ったPKも多い。「死亡を避ける」という作戦ならば近寄らないに越したことは無い。


 まだ職業神殿(ハロワ)に寄っていないコウとゴンザはスキル無し。みなみとイノはネタ職。攻撃力の高い武器を持っているとは言え、PKに遭遇したら勝ち目がないのだ。


 だから、大きな街と言っても安全ではない。むしろ街の近くが危ない。それが、アップフィールドの街を迂回して移動している理由だった。


 魔法士であるイノ以外の前衛三人は体力が低いものばかりなので、足場の悪い森の中を10分も歩いていると消耗が激しく、あっという間に視界の上の方に『疲労』という蛍光オレンジのバッドステータスアイコンが激しく点滅する。

 

「コウさん、焼き立てパン増やして貰っていいッスか?『空腹』状態になっちゃったんで」

「こっちは『疲労』だ。少し立ち止まらせてくれ。ちょうど良いから休憩タイムにしよう」

「あ、皆さん。バナナがなってますよ。これ食べても『空腹』から回復できるんですよね?」


 ゴンザの指さす方を見てみると、地面から直接バナナが生えている。


「バナナって樹になるんじゃないでしたっけ。房で大量に」

「このゲームでは一本ずつ地面から生えるよ。リンゴもちくわも」


 キモいッスねーと呟きながらも、イノは道端で見つけたバナナの群生地に近寄り、軽くダブルクリックする。全身が軽く発光して頭上にムシャムシャという飾り文字が浮かび上がる。


「普通に食える見たいッス。せっかくだからコレ喰っときますか」


 どうやら毒を警戒したのか、体力の高いイノが毒見をしてくれたようだ。


「これ、この場で食べるならスキル要らないのに、持ち帰ろうとすると【採取】がいるんだよね。どう違うんだろうね」

「そんな事いったら、【木こり】スキルはもっと可笑しいッスよ。あれって斧で樹を攻撃すると材木が手に入るじゃないッスか。トマホーク投げると命中した樹がどんどん角材になるミステリー」


 どうでもいい事をワイワイ言いながら、皆でバナナに近寄りダブルクリックを繰り返す。他の果物や野菜と同じく、1本で満腹度は10%回復している。


 ゲートワールドの多くの評判の悪いシステムの一つがこの『満腹度』で、時間経過や肉体労働とともに低下して0%になると『空腹』というバッドステータスを発生させる。

 空腹状態の間、命中率と回避率のわずかな低下の他、HPの自然回復が止まる。放置した所で餓死はしないが蛍光オレンジで点滅するデカいアイコンがウザい。

 街の食堂や宿屋で食事を取って満腹にしてしまえば半日ほどは持つものなので、狩りやクエストに行く前に全員で食事しながら打ち合わせを行えば早々目にする事も無いステータスではある。

 回復薬でも2%ほど増えるし、今食べているバナナのように野生の果物もある。都市の周辺には必ず村が複数あり、その近くならばNPC農民の世話している畑に入って作物を適当にクリックしていればあっというまに満腹になる。

 本気でケチなプレイヤーや、貧乏だったり街に入れなかったりするキャラクターはこれだけで腹を満たしている者も多い。


「そういえば女性型のキャラクターだと、甘いもの限定で100%越えても食べられるんですよ。別腹って事で」

「ホンッとう~に無駄なトコばっか凝ってやがるな」


 せっかくだから真の満腹まで食べてみようと言う事になり、唯一の女性キャラクターのフェイに白羽の矢が立つ。寂しそうに指を咥えるゴンザからは目をそらす。中身はともかくお前は男だ。


「フェイ、今の満腹度いくつ?」

「8%ですね」


 軽く上の方に視線を向けてから答える。NPCはNPCでステータスウインドウが表示されているらしい。


「ちょっとこのバナナ11本食べてくれる?」


 ゲームシステム的には主人であるコウの命令を聞き、フェイは本気で嫌そうにバナナの皮をむいて、良く熟れた身を二口ほどで食べ切ると、そのまま皮も食べる。

 9本食べた所で真っ青な顔でギブアップを宣言した。


「運動部とかの連中でもバナナ9本とか喰わないよね」

「止めてやれよ」

「あと皮も止めてやってよ」


 イノとみなみが今更な突っ込みを入れてくるが、二人ともバナナをを頬張る姿を凝視していたのは代えられない事実。


「俺、自分のペット生成して貰う時は俺も絶対ロリキャラにしようっと。でアイスキャンデーとか延々と食べさせよう」


 キャラ付けの為の『ッス』という口調まで忘れてしみじみと最低な事をいうイノ。


「俺は嫁に操を立てて、オオカミとか北極熊とかにして貰うよ。戦力にもなるし」

「みなみさん奥さんいるんですか?!」

「おう、二次元のな!」


 みなみはみなみで最低スレスレのカミングアウトが続く。


「しかし、俺達が食べる時は数値の変化だけなのに、NPCだと食べるモーションあるんだな」

「戦闘中に薬飲むモーションとかいちいち取られても面倒ッスからね」

「でも食堂とかでの食事にはそういうの欲しかったよね。『俺のオゴリだー!』とかやっても店内のあっちこっちで光るだけとか、ちょっと盛り上がりに欠ける」


 そういう時はフリだけでも口に入れるんッスよ!と言いながら、イノがバナナをむいてポリポリと齧り付く。


「まずい」

「味あるのっ?!」


 食料品アイテムとは言え、実際に食べてみると言うのは思いもしなかった。

 コウも試しにバナナを「アイテムとして使う」のではなく「食べて」みる。


 味のしないふやけた煎餅みたいな味がした。


「わりと好き」

「マジッスか!」

「食べれない味じゃ無いけど旨くもないですよね」

 口をもぐもぐさせながらゴンザも微妙な表情を浮かべる。コウは元々、煎餅をお茶につけて食べるのが好きなので湿ったせんべいに何の問題も無い。


 続いて、イノがアンディの妻を吹き飛ばして集めた『焼き立てパン』を皆で食べてみる。これも湿ったせんべい。

 おそらく、ケーキも果物も巨大なマンガ肉も、全て同じ味。味の無い煎餅だろう。たぶんすぐに飽きるだろうが、見た目の味のギャップはちょっと面白い。


「まぁ、期待して無かったけど、旨かったらイノの料理スキルにも期待が持てたのにな」

「料理アイテムはステータスがちょい上がるだけってのが定番ッショ」

「プレイヤーの人って詳細情報ウインドウは見れないの?それとも馬鹿なの?」

「「「ん?」」」


 まだ青い顔をしているフェイの指摘を受けて、アイテム欄から『焼き立てパン』の詳細情報を開いてみる。


<焼き立てパン:A10039 焼き立てのパン。>


「なんの説明にもなってねぇ!」


 被ってもいない帽子を取って地面に叩きつけるコウ。続いて『エリクサー』の詳細情報もみてみる。


<エリクサー:A10119 飲めば不老不死になるとも言い伝えられる伝説の霊薬。アンゼリカ、クローブ、コリアンダーなどの薬草から作られた酒で、HPとMPを完全回復させる>


「なんで伝説の霊薬なのにレシピ詳しいんだよ!それに回復薬じゃ無くて酒かよ!」


 こんどはみなみが架空のゴミ箱を蹴っ飛ばす。


「じゃあ、もしかして料理だとどうなるんだ?」

「あ、私にも見せて下さい」


 イノがアイテムボックスに直結したポケットの中から、湯気をあげるアツアツの煮込み料理を実体化させると、リアクションの準備をしながらイノとゴンザが詳細情報ウインドウを開く。


<ラグ・ラビットの煮込み:通信遅延と共に現れるというレアモンスターの肉の煮物。別段旨いという訳でもなく、むしろイロイロとマズい>


「いや、ホント意味わかんねえって!」


 両手を横に広げてグルグル回るゴンザの横で、呆れたようにイノが呟いた。


「で、この詳細情報がなんなんだって?」

「美味しいって書いてない。味の設定が無いんだもん。マズいに決まってるじゃない」


 目からうろこがボロボロと落ちる一同。旨いという設定が無いから旨くない。納得がいく。


「じゃあさ、この詳細情報に『非常に旨い』とか書いてあったらホントに美味しいって事か?」

「当り前でしょ?」


 全員が同時に顔を見合わせて頷く。


「オータムリーフついたら、それも調査だな」

「むしろ防具より優先で」


 食事と言う餌を得て、モチベーションの上がった一同だった。

コウ「ゴンザがアイテム受け渡し用に露店開いたのってスキルじゃないのかな」

イノ「だよね」

みなみ「そういうアイテムを俺が持ってて渡したって事にしよう」


ご都合万歳

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