エピローグ 『勇者の誕生』
そこは今までとは違って無機質な広間で、奥に玉座があるのみだった。
だからかその玉座が一番に目に飛び込んできて、魔王はいるはずも無いのだけど、どこかいるような気がしてならなかった。
錆びれた立ち入り禁止の看板を乗り越えて玉座に向かう。
こうして、近くでみると立派なものだと改めて思わされる。石でできているのだろうか。
それともかつては表面に革でも張っていたのだろうか。
しかし座面に円を組み合わせたような模様が僅かに彫られてるし、それを上からカバーしては意味がないかもしれない。
なんにせよ、それはあまりにも無骨で、当時の姿を保っているようにも見える。
玉座のあたりは修復せずとも保存状態が良かったのかもしれない。
ん?
「保存、状態……?」
そのとき、何かが引っかかった。
なんだろう。どこかで同じようなものを見た気がする。そんな気がしてならなかった。
僕は必死に今までのことを思い返す。
日記を、見つけた。
そこには勇者が書いたとされる内容が書かれていた。
俺はそれを読んで……。
「そうか」
保護魔法。
保護魔法によって日記同様に護られていたのではないか。
僕はすぐに玉座を観察する。
なにか、手がかりがあればと思った。
椅子の脚、何もなさそうだ。
背もたれの裏、何もなさそうだ。
座面の裏、よく見えないけど触った感じ何もなさそうだ。
もしかして、全部思い過ごしだったのだろうか?
そう思い始めたのは調べ続けて数時間が経った時のことだ。
何も分からず、正直お手上げであった僕は自分の希望も婆ちゃんのことも信じられなくなって来ていた。
外から差し込む陽も傾いて来ている。そろそろキャンプの準備をするべきだろうか。
いや、ひとまず休みたい。
今日はこんな険しい山を登った上に広い城内を探索し続けて疲れ切っていたので、どうしても今から準備する気にはなれなかった。
それにちょっと休めば何か思いつくかもしれない。
なんて誰にするでもない言い訳をしながらどこか座れそうな場所を探す。
その時、僕はほんの少しだけ欲が出てしまった。
魔が差したとも言えるかもしれない。
まあでも別に誰が見てる訳でもないのだ。良いだろう。
やはり僕はそんな軽い気持ちで、玉座へと腰掛けた。
それがいけなかった。
座った瞬間、僕のお尻が光ったものだから僕は驚いて飛び退いた。
否、正確には光っていたのは椅子で、僕は何故だか下半身が動いてくれなかったものだから飛び退くこともできなかった。
だから僕はもう何が何だか分からず、ひたすらに暴れた。
しかしそれが本当にどうしようもないと分かると、少し落ち着いてきた。
どうしたものか。
そう考えて試行錯誤し続けて数分が経っただろうか。
突然視界がぼやけ、何も、見えなくなった。
○
「はあーっはっはっ!!」
とある世界の魔王城に、ひとりの男がいた。
見た目は十五くらいの青年。
声も人間のものだ。
しかしその顔は人間とは到底思えないような、でも人間の顔をこねくり回したような恐ろしい形相で、頭の上には二本の角がある。
肌は青白く、ごごごという効果音でも付きそうなオーラがある。
「魔王、復活のときじゃああああ」
その咆哮は誰もいない室内に響き渡ったのちに、静かに消える。
「ふむ、保護魔法をかけてるとはいえ、経年劣化に耐えられるかは怪しかったから、この玉座の魔法陣が機能して良かった良かった。あとは器だが……まあ勇者は死ぬ間際にたくさんの子孫を残していたようだからもっと早く来るものだと思っていたが──我はこんなに細かいことを気にする性格であったか?……どうやらこの身体はつらつらと物事を気にする性格を持っていたようだな。まだ自我が残っているのか」
ひとしきり喋った後、ひとりの魔王はゆっくりと外へ出る。
そして暫く虚空を見つめてじっとしていたかと思うと、突如ふたつの翼を生やす。
魔法か何かだろうか。黒い有色透明な翼は禍々しく大きく、ひとたび彼がそれを羽ばたかせればあたりに嵐を起こした。
そうして、魔王は無言のまま飛び立った。
飛び続けて、何日が経っただろう。
どこまで行ってもかつてのような都市は見当たらず眼下には何も無い荒野や野原が続いた。
ある日男はかつての都市に降り立った。静かであるが、彼は全くショックを受けず、前向きであった。
不屈の精神を併せ持つ、男は言った。
「どうやら、世界が我を必要としているとみた」
これはとある世界の魔王が、壊れた世界を直すお話。
何世紀もののちの歴史学者たちはこの物語を「勇者の誕生」と名付けた。
物語はまだ、序章に過ぎない。
完
最後まで読んでいただきありがとうございます!
本作は去年の秋ごろの部誌に書いた『マチワタル』という作品と同じ世界線のお話になります。『マチワタル』の方は今回はあっさりとしか登場しなかった「師匠」が主人公となっていまして、また勇者の過去なども描かれていて、何なら本作よりも短く綺麗にまとまった話になっていると思いますので是非ご一読ください。↓↓↓
https://ncode.syosetu.com/n1042lg/
そうそう、読み終わった皆さんなら作品タイトルにある"勇者"の意味についてもお分かりでしょう。本作に勇者は二人登場しますが、彼らは(それぞれ田舎で出会った老婆、未来に住む者、など)ある者にとっては勇者であり、また別の者からすれば敵でした。これは現実世界では良くある当たり前のことで、全てのものには二面性があります。この物語は基本ずっと一人称視点で進みますが、一つの視点だけに囚われていると痛い目を見るという教訓が詰まっていますね(?)。とは言え、一人称視点の物語って感情移入しやすくて臨場感がある気がして、個人的には好物だったりします。
さて、筆者は受験生ですので、この作品をもってとあるシカとしての執筆活動はひと区切りつけさせていただきたいと考えています。本作は自分としてもまだまだ改善の余地はあったと思いますが、ひとまず完結まで投稿できて良かったです。
最後になりましたが、もしこの作品が少しでも心に残りましたら、★★★★★評価、リアクション、感想等是非ともよろしくお願いします(_ _).。o○
それでは!




