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煙突掃除人、恋をする  作者: 葉桜 笛


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ブルードラゴン


「ありがとう! ブルニア殿!!」



 アイリス騎士団長は左手でほうきを受け取ると、笑うのをこらえるのをやめた。



「あははははははははははは!

 これは、かつて、魔法の杖の素材として使われていたハシバミの木で作られたほうきだ」


「だから、どうしたのん?

 今は、モンスターの骨で作るのが流行はやりなのん!

 流行おくれの田舎の国は、これだから嫌なのん!!」


「確かに、強いモンスターの骨を使った杖の方が魔法の威力は上がる。

 だが、見てくれ。

 これは〔ほうき〕なんだ。

 枝分かれして、先がたくさんあるだろう?」



 隣国の姫は、アイリス騎士団長が何を言いたいのかわかっていないようだった。

 それでも、アイリス騎士団長は嬉しそうに話す。



「この〔ほうき〕で魔法を発動したらどうなるかなぁ?

 枝分かれした一本一本から、魔法が出るだろうか?」


「はぁ!? バカなのん?

 できたとしても、魔法が発動したとき杖が重たすぎて支えられないに決まって____」


「やってみないと、わからないだろう?

 私は、腕力にも自信がある!!」



 それを聞いた第二騎士団は青い顔をして、慌てて体をせた。






「____春雷繚乱スプリングサンダー・プロフュージョン!!」






 アイリス騎士団長が叫ぶと、本当にほうきの枝の一本一本から雷が出た。

 それは、とてつもない集中力。

 枝の一本一本を意識して呪文を唱えないと、こうはならない。魔法が一つ出るだけだ。

 そして、たくさん魔法が発動した〔ほうき〕を支える腕力。これは、日々の努力を欠かさないアイリス騎士団長だからこそ、できた魔法だった。


 春の雷は、時に〔ひょう〕をともなう。


 無数の雷と共に大粒の〔雹〕まで降って来たものだから、大惨事になった。

 木は、〔雷〕で燃え、〔雹〕でなぎ倒される。足元に踏み場がなく、逃げることも困難だ。

 パデル王国の兵士たちは、次々と倒れていった。



「見た目は派手だが、死なない程度にしておいた。

 こいつらを連れて、大人しく国に帰れ」


「そんな! 我が国の兵士たちがぁぁん!!」



 最新のドレスは黒焦げになり、複雑な縦巻きロールの髪はほどけ、アザだらけになった隣国の姫がなげいた。

 敵の兵士を殺さないように気を遣うアイリス騎士団長は、やはり優しいとブルニアは思った。



「こんな……、こんな、一階建ての家ばっかりで、あっても二階建ての建物しかない〔ド田舎の町〕で負けるなんてぇぇぇぇぇぇ!!」



 くやしくてしょうがないようだった。

 癇癪かんしゃくをおこしたように叫ぶと、隣国の姫は憎しみを込めた目になった。



「疫病がはやる我が国は、一刻も早く、新しい土地に移住しないといけないのよ……。

 できることなら、この手は使いたくなかったけど……お前たち! 出番なのよん♡」



 隣国の姫が命令する。

 彼女は、まだ勝てる気でいる。

 ブルニアは、何だか嫌な予感がした。


 ズリズリと音をたてながら、40人ぐらいの兵士がロープで何か大きなものを引きずりながら出てきた。

 ロープの先に繋がれた、黒っぽいそれは動いている。



「〔ブルードラゴン〕のこども!!」



 なんてひどいことをするのだと、怒りがこみ上げてきた。

 モンスターとはいえ、まだこどもなのにロープで引きずり回すのは、とてもかわいそうだった。引きずられたせいで体がすりむき、血が出て、そこに土がついて、青い体を黒く汚している。



「……かわいそうだろ。はなしてやれ」


「はぁん? 一国の姫が、他国の下級騎士の言うことなんか聞くわけがないでしょ?」



 隣国の姫は、一人だけ黒い制服を着ているブルニアのことを〔下級騎士〕と判断した。

 〔シュラーゲン王国〕の騎士は、白い制服。

 それを着ていないブルニアは、見習いか何かに見えたのだろう。



「さぁ!

 こどもを殺されたくなかったら、この町をメチャクチャにするのよん!!」



 森から「バサァッ」と音がすると、ブルードラゴンが現れた。

 きっと、この子の親に違いない。

 怒りの叫び声を上げながら、こちらに飛んできた。内臓まで響いてくるその声は、体がしびれるほどだった。


 第二騎士団のメンバーが、フラフラになりながらも〔パデル王国〕の兵士に飛び掛かる。しかし、疲れ切っているのと、人数の差で、なかなかブルードラゴンのこどもを解放してやれない。

 その姿が、我が子を襲っているように見えたのか、ブルードラゴンが暴れだした。






「ダメだ」






 ブルニアは肩にかけてきたワイヤーブラシを、ブルードラゴンの首に巻き付け、引っ張った。



「なっ……なんで、ブルードラゴンを一人で止められるのん?

 我が国の兵士は、こいつを連れてくるために300人ぐらい死んだのに……」


「ブルードラゴンには、何回か会っている」


「はぁ?

 会ってる会ってないの問題じゃないのん!」



 剣も魔法も使えないブルニアだが、仕事道具のワイヤーブラシを使うのは得意だった。

 アイリス騎士団長や、ワタ王子、隣国の姫が、ブルニアを騎士だと勘違いしたのは、キッチリとした制服のせいだけではない。〔煙突掃除人〕のわりには、すすがそんなについてないからだ。


 日々、橋でモンスターの相手もするブルニアは、そのうちワイヤーブラシを自在に操れるようになっていた。その技術で、煤が舞わないように煙突掃除をしているため、彼には煤があまりつかなくなった。ブルニアのワイヤーブラシを扱う技術は人並みを超えている。



(ここから、どうするか……)



 ワイヤーブラシに殺傷力はない。

 掃除道具だ。

 ブルードラゴンを全く動かないようにはできない。

 大きく足踏みぐらいはされてしまう。


 アイリス騎士団長が倒れた敵国の兵士を掴み、ブルードラゴンに踏まれないように非難させようとしていた。

 四、五人掴まえて非難させようとしても、それでは全然間に合わない。

 ブルードラゴンは、〔パデル王国〕の兵士を踏みつぶし、しっぽでなぎ払い、どんどん殺していった。



「ここで暴れても意味ないのん!!

 町で暴れないと、お前のこどもの羽につけた魔法が発動させて、羽をもいでしまうのん!!!!」



 ブルードラゴンは、おどされているようだった。

言うことを聞かないと、こどもの羽に刺してある魔法が発動して翼をもがれてしまうらしい。


 アイリス騎士団長は涙を流しながら〔パデル王国〕の兵士に「立て!!」と叫び、逃がそうとしている。






「お前たち、立てぇぇぇぇぇ!!!!

 立てないなら転がれ!! 動かなければ、死んでしまうぞ!!!!」






 敵国の兵士の命も守ろうとする彼女は、優しい。

 このままでは、彼女もブルードラゴンに踏みつぶされかねない。



(くそっ、……俺は弱い)



 ワイヤーブラシでブルードラゴンの動きを少し封じたところで何にもならない。じわじわと人が死ぬだけだ。

 橋に眠る冒険者たちの魂は、もう全部出尽くした。

 ワタ王子のせいで、コルピーレの町に入り込んだモンスターの相手をしている。

 剣も魔法も使えないブルニアには、これ以上戦うすべがない。



(こんな俺を、「強い」と言ってくれる人がいる)



 アイリス騎士団長と町長は、ブルニアのことを「強い」と言ってくれた。

 その言葉にむくいたい。



(アイリスさんに渡したほうきと同じで、見方を変えれば武器があるはずなんだ……)



 アイリス騎士団長は、ブルニアのほうきを〔魔法の杖〕として使った。

 では、自分の武器は何なのか。

 ブルニアは考えた。

 考えはまとまらないけれど、とりあえず叫んだ。



(たぶん、これで合っている)






「____誰か、力を貸してくれぇぇぇぇぇえ!!!!」


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