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テニス

「・・・まぁ、こうなるよね。」


カフェに行った翌日。

俺が教室に入れば、クラス中の空気が異様なのが伝わってきた。


全員の視線が翆さんへと向かっている。


「お、来たな。」


俺が登校したのに気づいた直樹が駆け寄ってくる。


「・・・ま、あんなことすれば注目されるよね。」


俺は何人かの女子と男子に詰め寄られてる翆さんを指さす。

直樹は笑いながら当たり前だと言った。


「まぁ、あの美貌だしな。

その上、学年一位の成績保持者でもあり、昨日のあの身のこなし。

注目されない方がおかしいわな。」

「・・・噂回るの早くない?」


翆さんを取り巻く連中の中には、昨日体育館にいた女子バスケ部員は分かるのだが、先輩や他のクラスのやつもいた。


「今の学生は娯楽に飢えてるってことだろ?」

「そんなもんなの?」

「そんなもんだろ?」


噂大好きなお年頃と言うことか。


「でもあれは大変なことになるぞ〜。

あれ程の身体能力、どの部も欲しがるだろうなぁ〜。

あれの6割は部活勧誘だぜ?」

「・・・女子ならわかるんだけど男子がいるのはわけ分からん。

本堂さん女子でしょ?」

「美人にお近づきになりたい8割、まじめに鍛えてもらいたい2割ってとこだな、あれは。」


金髪の先輩がさり気なくボディータッチをしようとするが、翆さんは手で弾く。

男どもは今ので気づいたことだろう。


彼女は手強いと。


俺は何してんだかと呆れると、直樹が思い出したかのように吹き出した。


「・・・残念だな、天峰もあんなに頑張ったのに誰も見向きもしてくれない。」


からかうかのように、肩をポンポンと叩かれる。

だが俺は怒らない。

だって・・・


「あんなの十割方あの人の手柄だって。

俺は威張れるほど頑張ってない。」

「・・・謙虚なのか、天然ボケなのか分かんねぇ〜。」

「別に遠慮とかしてないけど?」

「個人評価が低いほうかぁ〜。」

「?」


直樹の言ってることがいまいちわからない。

俺への評価が低いって言われても・・・妥当だと思う自己評価なため、間違ってるのは俺じゃないと気にするのをやめた。


「・・・あれってあと何日続くと思う?」

「1・2週間は続くんじゃないか?

ま、こうなったのもあの人の自業自得だからかわいそうとは思わんがな。」


それは俺も同感だ。

あんなことしなければ、頬が引きつるほどの面倒ごとにならなかった。

見るだけでも面倒臭そうである。

そして後悔してあわよくば巻き込んだ俺に謝罪してほしいものである。


「・・・またするのかねぇ?あんなこと。」


俺は机に肘付き、笑いながらあり得ないことを言う。


「流石にしないでしょ。あんなに嫌そうにしてんだから。」


直樹も直樹で、絶対にないと思っていたのか、笑いながら否定した。


「だよな、普通はしないよな。」

「ないない、絶対ない。」


「「アハハハハハハハハハハ!」」







放課後・・・







「・・・なめてんのかこの野郎っ!」


キラキラと太陽が俺たちを照らす中、テニス部の先輩が周りの先輩に抑えられながら怒っていた。


その場にいた俺と直樹は頭を抑える。


「あの人は馬鹿なのかな?」

「馬鹿なんだろ、馬鹿じゃなきゃ2回目はせん。」


呆れが俺たちの感情の大半を占めた。


まずなぜ俺がテニス部の見学に来たか。

それは有り難くも先日と同じメールが来たからである。


「・・・デジャブってるぅ〜。」


直樹がそう呟くのも仕方がない。

だってバスケ部と殆ど同じ光景になっているのだから。


「あ、でもこの前の体操服とは違って今回はテニス服着てるぜ?」

「そこのクオリティーは上がるんかい。」


ひらひらとしたスカートから、洗練された程よく日焼けした生足が晒されている。

これだけで周りの男の視線を注目させていた。


ちょっと俺も視線奪われてる。


が、今の俺にとっては気にするのは俺のではなく彼女の視線だ。


「俺、背中に隠れていい?」


面倒ごとに巻き込まれたくないから彼女の視線からは外れたい。

だから、お願いしてみるが・・・


「俺的には天峰の実力知りたいから嫌だ。」


敵は翆さんだけではなかったらしい。


俺はまた彼女のチームとして呼ばれることを避けるため、自分存在感を少々消す。


あ、この方法は、まず己の視線を全体を捉えるかのように遠くして、自分を小石だと思い込むことでできるんだ。


そんなことをしながら、傍から翆さんと先輩たちのいい争いを眺める。


先輩たちの大半は翆さんの話術にハマり、思い通りに動かされていた。


そして今回も、一人の先輩に人数について指摘され、翆さんは困ったような顔をする。


「それなら・・・。」


俺の方を向いてきたが、俺は同時に顔をずらす。

これで俺が嫌がっているのはわかっただろう。

一瞬、頬を膨らませたかのような気がしたが無視だ。

可愛いからと視線を合わせてしまえば、俺は参加せざるおえなくなる。


今回は面倒ごとには巻き込まれたくない。


「仕方ないか・・・そこの男子っ!」


翆さんはため息をついてある男子を指さす。

その男子とは・・・


「・・・僕ですか?」


俺と同じバンド仲間で、数少ない彼女の面倒くささを知る友人、石丸 愁だった。

身長は俺より少し大きく、着痩せするタイプのため脱いだら結構凄いことが特徴。

強さは俺と同じように翆さんに直々に鍛えられているため折り紙付きだ。


だから祈ろう。

彼がこれから先、彼女の生贄となることを。

俺はご愁傷さまと手を合わせる。


そんな俺を愁は睨むが、何しても無駄だとわかっているからか、すぐ彼女のそばへと歩いていった。


「・・・今回は選ばれなかったな?

残念だったなぁ〜、せっかく美人さんの隣になれたのに。」


俺が安堵すると、直樹がニヤニヤとからかってきた。


「俺は球技全般苦手でね、目立ちたく無いから嬉しいよ。」

「・・・そいえばそうだな。バスケも天峰がしたのは、ただゴールに向かって投げるだけだったな。」

「そこは「そんなことないよ。」ってフォローしてくれよ。」


こいつは本当に脳筋なのだろう。

人を思いやるってことを知らないらしい。


まぁ、こいつはどうでもいいや。


いま大事なのは、今回は俺は巻き込まれずに傍観者の立ち位置で入れるということ。

これは非常に珍しいことだ。


これは久しぶりに鑑賞できるチャンスだ。


俺はその場に座り込み、試合を観戦する。


「・・・いやぁ、あの人の気迫はすごいね。」

「だなぁ〜。」


俺らはアクエリアス片手に、競馬を楽しむおじさんの如く観戦する。


2on2の試合。

相手総勢5チーム、こちらは翆さんと愁の1チームの勝ち抜き戦。

一試合、十分で時間切れまでに多くの点数の取った方の勝ち。


つまり一回でも負ければ翆さんの敗北となるこのルール。


なるほど、傍から見るとわかるこの緊張感。

これが娯楽か。


内心ワクワクしながら待っていると、遂に試合が始まった。


始めのサーブは翆さん。


地面に2・3回ほどボールをバウンドさせて上に上げる。

観客全員が注目している中、彼女はテニスラケットを振るう。


パシュンッ!


「「「「え?」」」」


気づけばボールは彼女の向かいのフェンスにハマっていた。

威力が違う。

彼女のボールを追えたものはこの場に誰もいなかった。


しかし審判は見逃さない。


先輩側の陣地のある点に小さく煙が発生していることに。

これは恐らくボールの跳ね返り時の摩擦によるもの。


「フィ、フィフティーラブっ!」

「「「「おぉぉぉ!」」」」


外野はまたも歓声に包まれる。


・・・いつの間にこんなに集まってたんだ?

気づけば行列ができていた。


みんな暇なんだな、と、呆れ、試合に視線を戻すと・・・


「シュコ〜〜〜ーーーーっ・・・。」


ロボットみたいな音を出す翆さんがいた。

滲み出ている殺気を感じたのか、愁が彼女の本気度にドン引きしている。

俺とて感じる殺気。

この人本気出しすぎだ。


「次ぃィィィぃぃっ!!」


バシュンッ!


「サーティーンラブ!」


まるで弾丸のごとく、ボールは高速で撃たれる。


今度も先輩たちは対応できなかった。


動こうとしていたようだが、彼女に怖じけされ、体が十分に動かなかったらしい。


しかし、それもこれまで。

先輩たちはやっと彼女の緊張と殺気が身にしみたのだろう。

見るからに目つきが変わった。


「・・・直樹はあれ打てる?」

「・・・あと3回見たら目が慣れる・・・はず。」


隣で瞬きもせずじっと、翆さんのフォームを眺める直樹。

こいつに相手にできるか尋ねたら回答が出来るに近い言葉。


・・・こいつもこいつで化け物だったようだ。


俺は周囲の異様さに溜息をこぼす。


一人でいいからまともな人がほしい。


「言葉に出てんのよ。」


無意識に言葉に出ていたらしい。

後ろには、同じくバンド仲間の小林梨衣がいた。


「私はまともでしょ?」


侵害だと言わんばかりな態度に、俺は目を細めた。


「・・・小学生の頃、俺に対してした仕打ち、忘れてないですからね?」

「あ、あれは・・・!」


過去、俺はこの人と争ったことがある。

翆さん大好き人間だったため、幼少期に俺は目の敵にするのは当たり前の事だった。

会うたびに、過度な仕打ちをされ、最終的に学校巻き込んだ大勝負と発展した。


今でこそ落ち着いたが、俺の中でヤンデレ候補ナンバー2にいる。


翆さんに続く変人だ。


「ご、ごめんって・・・あれは私が全面的に悪かったわよ。」


シュンと申し訳なさそうな表情をする梨衣さん。

本当に悔やんでいるのがわかる。


「ま、俺はもう気にしてませんよ。

あれだけ俺が恥かいて、学校中の笑われ者になったけど・・・気にしてません。」

「うぅ・・・根に持ってんじゃん・・・。」


これ以上、グチグチ言ったら泣き出すな。

もう彼女目尻には涙が溜まっていた。


「・・・冗談、相応の代償は払ってもらいましたし、これ以上攻めることはしませんよ。

それより翆さん見ましょう、翆さんを。」

「そ、そうね!もう払ったもんねっ!じゃあ、試合に戻ろうか!」


試合に視線を戻す。

試合は、先輩たちが話し合いをしたいらしく止まっていた。

丁度、先輩たちの話し合いが終わる。


審判が開始の合図をした。


翆さんがボールー上げる。


「くだ・・・けろ・・・っ!」


べシュンっ!


金属でも殴ったのかという音が響く。

ボールが先輩の一人に向かっていった。


先輩はボールの速度、勢いに驚き、打ち返そうとする。


それは悪手だった。


うち返さずとも避けたほうが良かったのだ。

避けてもノーパウンドで点数は先輩側になったのだから。


しかし気迫で負けて代償が今、彼らを襲った。


まともに打ち返せなかったボールは、翆さんの元へとゆっくり飛んでくる。

このチャンスを、翆さんは逃すわけがない。


「シャッおらァァァァァァっ!」


ドヒュンっ!・・・ガチャっ!


ボールはまたもフェンスの穴にハマった。


「ま、マッチポイントっ!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


審判の声に、外野は歓声を上げる。

一方俺達は・・・


俺「阿呆だ。」

直樹「くそっ!あれは避けてよかったのにっ!」

梨衣「あんな猛獣みたいな奇声は女の子らしくない。」


独自独自の感想を言っていた。


一方、翆さんチームのもう一人、愁はというと・・・


「ガタガタガタガタガタ。」


過去、翆さんにボコボコにされた恐怖が蘇ったのだろう。

身を震わすほど怯えていた。

それが目に見えてわかった俺と梨衣さんは心の中で小さく声援を送る。


((生き残れっ!))


声援が届いたのか、彼はこっちを見た。

部外者として静かに観戦している俺達を見て愁の目はこう訴え始めた。


『変われよ!変わってくださいよ!ねぇ!・・・なぁ!!』


俺らはそんな彼に手を合わせ、ご冥福をお祈りした。


「〜〜〜〜ーーー・・・っッっ!!?!!?!」


手を合わせる俺達を見て、彼はトマトのごとく顔を真っ赤にする。

怒ったのだろう。俺たちの方へ動き出そうとした。

しかし、それは翆さんのサーブで遮られた。


「ラストっ!」


彼女はまた力任せにまたも先輩に向かって打った。

今度はちゃんとバウンドさせてうち返せるように。

しかし手加減一切ない。


勢いは変わらない。


先輩の打ち返したボールは対応が完璧でなかったため緩く弱くなった。


翆さんは勝機と前に出て、大きく踏み込み、打ち返す。

周りは入る、と思っていた。

しかし流石はテニス部員。

身を呈して、打ち返した。


翆さんもそれは予想外だったのだろう。


ボールは彼女の横を通り過ぎようとしていた。


これは反応できなかった翆さんの負けか?


ボールは翆さんの顔を通り過ぎる。

翆さんは・・・ボールを視線で追い、ニヤッと笑った。


「よ・・・っ!」


体の後ろに行こうとしているボール。

これはもう、普通に打っても間に合わない。

そのため、彼女のとった行動は・・・


後方バク宙打ちだった。


後ろへと高くバク宙しながらボールの後ろに行き、空中で打ち返すという神業。

スカートがひらりと舞い、中のスパッツが晒されるが誰もそれに興奮はしない。


彼女の行ったその技に魅せられていたからだ。


それは先輩も同様。


勝ったと思ったのに、帰ってくるボール。

しかも打ち返し方の華麗さに目が奪われたようだ。


「・・・。」


審判すら言葉を発せずにいた。


「・・・私の勝ちね。でしょ?審判さん?」

「ひゃ、ひゃいっ!」


ニコッと微笑まれた審判の男子は顔を紅く染めた。

惚れたな、こいつ。

別に不機嫌になるわけでもない。

ただ、審判の淡い恋心が容赦なく砕けることになることに俺は同情した。


「・・・あの子、あれを無意識でやってるフシがあるのよね。」

「・・・確か中学では男子生徒の全員に告られたんでしたっけ?

もしかしてあんな仕草でやられたんですか?男子たちは。」

「そうよ。体育とかはあの美貌で男前すぎる行動をして惚れさせて、授業中は風になびく髪を綺麗に見せて目を奪わせて、香水かなんかで周りの男子の鼻から虜にするのよ。」


小悪魔やん。

あの人、モテること曰く存在を認められることらしいので、自分の美貌を磨くのに手を抜かない。

つまりモテて、チヤホヤされたい人なのだ。


下卑た視線を向けられるのと、絡まれたり、体を触られたりするのは殺傷したいほど嫌いらしいのにね。


・・・嫌ならやらなきゃいいのにと言ったときに「女の子には色々あるの。」と返されお仕置きされたのはいい思い出だなぁ〜。


「・・・何人の人に恨まれたんですか?」

「1学年女子74人中58人には確実に嫌われてたわね。」

「・・・なんともまぁ、逞しいことで。」


嫌われようとなんとも思わない翆さん。

誰より逞しくて強くて格好いい彼女です。


そんな彼女が・・・今テニス部を制圧しようとしてますが。


苦笑したら翆さんが動いた。


「で、次どの先輩が相手ですか?」


ニヤ付きながらテニス部男子を見下し始めた。

まぁ、確かに、あんなバク宙打ちされたら戦意喪失するのは仕方のないことだろう。


俺とて戦えと言われたら丁重にお断りするし。


「・・・腑抜けてるわね。男なら我武者羅にでも勝ちに来なさいよ。」


つまんなそうにぼやく。


彼女は男心を全く理解していない。


翆さん、こんな群衆が集う中貴方と戦えば、それは恥となるんです。

男の子のカッコつけたい気持ちをわかってあげなさいな。


後で教えてあげよう。


「・・・ちょっと待ったっ!」


誰もが彼女の勝ちだと、彼女に挑むものはいないと思っていた。

そんな中、一つの声が響いた。

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