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【62】幸せな日と……


 あれから数日が経過したある昼下がり。

「ふう。終わった」

 木の丸椅子の上に乗ったサクヤが額の汗を拭う。彼女の手により、部屋の天井付近には色とりどりのリボンが飾り付けられていた。

「こっちも、終わりだー!」

 アーシェは、豪奢な応接卓の上を飾る花瓶の微調整を終えて言う。その花瓶にいけられた色とりどりの花は、ラッシュ邸の花壇でローザと共にアーシェが丹念に手入れをしていたものだった。

 二人は顔を見合わせ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「あとは、ルミナ達の方だなー!」

 現在ルミナはプリセラとローザの手を借りながら、大きなケーキの制作に没頭していた。

「うむ。クロちゃんと駄犬の驚く顔が目に浮かぶ」

 そこはラッシュ邸の居間であった。そして、その部屋に入って正面の壁の天井付近には、飾りのついた大きなプレートが掲げられ、下手くそな文字で、こう記してあった。


 ――クロちゃん、お誕生日、おめでとう。ようこそ、マルコシアス!


 そう。この日は、クローディアの誕生日を祝うと共に、新たな仲間であるマルコシアスの歓迎会も行おうというのだ。

 何故、マルコシアスの歓迎会がこの日になったかといえば、それはランデルシャフトの“街中での悪魔及び精霊などの召喚物に関する法律”のせいだ。

 このあたりの法律は色々と面倒な上に、マルコシアスは過去に先例のない魔神デーモンロードである。その為に、この悪魔を法律上どういう扱いにするのか市参議会の方で揉めたらしい。

 結局、マルコシアスは“街の防衛の為に市参議会に使役された守護悪魔”という位置付けとなり、クローディアの母であり、市参議会員であるアメリアが法律上の主人という事で落ち着いた。

 その通達がアメリアの口より直接もたらされたのが、つい三日間前の事だった。

 もっとも、それ以前からマルコシアスはラッシュ邸でなし崩し的に生活をしており、法律上の立ち位置が決まったところで特になんの変化もないのであるが。

 しかし、以前より秘密裏にクローディアの誕生パーティーを行おうと考えていたルミナ達三人はどうせならばと、マルコシアスの歓迎会も同時に行う事にしたのだった。

 因みに主賓の二人はというと現在、揃って外出中である。

 マルコシアスには、クローディアの誕生パーティーをやるから準備が終わるまで連れ出して欲しいと言い、反対にクローディアにはマルコシアスの歓迎会をやるから準備が終わるまで連れ出して欲しいと頼んでいた。

 二人は現在、そろって、ランデルシャフトの町中をぶらぶらと散策中である。

 やがて居間に料理やケーキの乗ったワゴンを押したプリセラと、ローザとルミナがやって来る。

 料理はアーシェとマルコシアスが好物なグーグー鳥を使ったものが中心だった。

 そしてケーキの方の出来映えはというと――。


「おお……」

「素晴らしい」

 アーシェとサクヤが揃って驚嘆するほどの出来映えであった。

 クリームやフルーツに縁取られた大きな長方形で、中央にはチョコレートで描かれた下手くそなクローディアとマルコシアスの顔が並んでいた。

「こっちが、クロちゃん?」

 と、アーシェが訊くと、ルミナは頬を膨らませる。

「違うよー! こっちはワンちゃんだよー!」

 一同が朗らかに笑う。

 そして、プリセラが時計を見て言った。

「さあ。そろそろ、お二人が帰って来る時間です。料理をテーブルに並べましょう」

 すると、そこへアメリアが姿を現す。

「おお、やってるな。二人はまだか……」

 そう言って、二人へのプレゼントらしき荷物を床に置き、上着も脱がずに食器や皿を並べるのを手伝い始める。

 すぐに準備は整い、あとは主賓を待つばかりとなった。




 ラッシュ邸からそう離れていない広場の隅っこだった。

 大きな木の根本にクローディアとマルコシアスは腰をかけ、なんとなくぼんやりと頭上の木立を見上げていた。

「……マルコシアスさん」

 クローディアが口を開く。

「なんじゃ、ボスよ」

 人間姿のマルコシアスが、ぽつりと応じる。

「あなた、気がついているでしょ?」

「……ボスこそ」

 やや間を置いて、二人は顔を見合わせて吹き出す。

「まあ、あれだけコソコソされればね。今日は私の誕生日だし」

「あいつら、やっぱり子共じゃな」

 クローディアは、以前サクヤが口にしていた事を思い出す。


 ――ルミナは嘘を吐くのが下手だし、アーシェは耳にでるたちだ。


 確かにその通りだった。

 そして、サクヤも人の事を言えるほど嘘が上手くはなかった。

 クローディアは懐中時計を開く。

「そろそろね。帰りましょ」

「そうじゃな。精々、驚いてやるかの」

 そう言って二人は立ち上がり、家までの帰り道を行く。


 その日は夜遅くまで、ラッシュ邸では幸せな笑い声が絶える事はなかった。




 丁度、その頃だった。

 ある絶海の孤島の人気のない浜辺にて。

 海から這い上がったは、四つん這いになりながら自分の手首を見た。

 切断面が腐り、骨が露出している。そして、膝立ちになり自分の腹を見た。

 大きな穴が空いていた。そこから、どろりとまろび出たのは、鰻の様にヌメヌメとした長い魚だった。

 そこで、ようやく彼は自分が、まったく苦痛を感じていない事に気がつく。

「私は……どうなって、しまったんだ」

 その言葉のあとで空を見上げた。

 すると、夜空には煌々たる満月が輝いている。

「今は……夜なのか?」

 それが今までわからなかったほど、周囲の景色がはっきりと見えていた。

 しばらく月を見上げながら考えて、彼――レオナルド・ホワイトは、ひとつの結論に辿り着く。

「まさか……まさか……」

 それは、この世界の摂理より外れた不浄なる存在。

 闇より生まれし負の魂。

「この女神シャスティアの聖なる使徒たる私が……絶対正義たるこの私が……」

 レオナルドは天を仰ぎながら叫ぶ。


「何故、邪悪で汚らわしい不死族アンデッドなどにッ!!」


 その問いに対し、彼の満足する答えを返してくれる者は誰もいなかった。


 このあと、レオナルド・ホワイトは紆余曲折を経て、更に邪悪さと狂気に磨きをかけ、最強の不死族である“生命亡き者の王ノーライフキング”となる。

 そうして再び、ルミナ、アーシェ、サクヤ、クローディアの四人の前に、最後の敵ラスボスとして立ちはだかる事となる。


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 ここで、とりあえず予定のプロットをすべて書ききりました。これもひとえに読んでくれる読者の皆様方のおかげであります。

 まだ未回収の複線もあるので続きを書きたいところですが、この先はまったくのノープランでノーアイデアな為、少しお時間をいただき、しっかりとプロットを練ってある程度、書きためてから投稿を再開しようと思います。

 その変わりといってはなんですが、新連載『殺されて井戸に捨てられたのでチート怨霊となって妊娠確実パコパコスローライフを満喫中の勇者とハーレム美少女達に復讐します。』を開始しました。

 この物語は、本作『わたし勇者』の様な、絆や成長の物語ではなくかなりダークテイストなエグいお話になっています。タイトルとあらすじは猛暑の夏らしく偏差値の低い感じになっていますが。

 かなり毛色の違う話なので変わりにはならないかもしれませんが、よろしければ読んでやってください。

 何の臆面もない直球ストライクな宣伝を終えたところで最後に、猛暑が続いていますが、拙作が、ほんの少しでも暑さを紛らわす気晴らしになってくれれば幸いです。皆様、体調には十分気をつけてください。

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