私と決闘とライネン様の咆哮
姫様の修行の1日目。私はただいま絶賛無気力の中にありました。
何故姫様の修行に私がついていけないのでしょうか。これを理不尽と言わず一体何をもってして理不尽と言うのでしょう。
私の前には獣王ライネン様が楽しそうな顔で構えております。その手にはなにも持ってはおらず徒手空拳です。
姫様が修行をしている間、私はこの脳筋と決闘…しかも負けたら結婚しなければいけないと言う罰付。これでやる気を出せと言うのが無理な話です。
「おいおい大丈夫かよ?そんなんじゃすぐ決着がついちまうぜ?」
笑いながら私を挑発するライネン様、あぁもう!早く終わらせましょう!そして姫様の様子を見に行きましょう!
ライネン様の目の前へ猛加速、反応できていないライネン様の顎を掌底でかち上げます。当たる瞬間に自分から跳んだのか感触が少し鈍かったです。
「やっぱりつえぇ!戦いはこうじゃないとなぁ!」
空中でバク転を決め体制を立て直したライネン様、やはりそう簡単には終わりませんか…
「さっきので舌を噛みきってしまえば良かったものを…」
「言うことが恐ろしいぜ!?」
姫様の側に居る時間を奪って何をふざけたことを…今度はライネン様が打って出てきました。正面からの正拳。相変わらず愚直な一撃です。私が当てる瞬間にだけ力を入れているのに対して、ライネン様は全力で振り抜いているのでしょう。風を切るような轟音とともにその腕が私の胸の真ん中を撃ち抜こうとしています。
「胸を狙うなんて…セクハラです」
体を横にずらして振り抜かれた腕を避け、ライネン様の前へ出る推進力を糧に脛に踵で蹴りを叩き込み、更に前のめりになった体に裏拳を決めました。
全力で前へ出ていたライネン様は避けること叶わず裏拳は鼻に突き刺さり、脛にも普通の獣人なら折れるほどの衝撃が与えられたはずです。私も片足で反撃に出たためバランスを崩しかけましたが流石にこの状況で反撃が来ることはないでしょう。
足をかけられ前のめりになっていた体は裏拳により後ろへと反発、そのままライネン様は仰向けに倒れました。
「手も足もでねぇか…俺も強くなってるはずなんだかなぁ」
今日は俺の敗けだと認めるライネン様。しかしその足は折れているようには見えませんし、裏拳を受けた顔も血すら出ていないので戦えないと言うわけではないのでしょう。
「明日は負けねぇからな!」
「お待ち下さい。明日も戦うおつもりですか?」
明日こそ姫様の修行に付いていこうと思っていましたのに、嫌がらせなのでしょうか。
「今日の戦いで埋まらない力量差はわかりましたでしょう?であればもう諦めるべきでしょう」
私の言葉に今まで笑っていたライネン様が真顔になりました。
「前戦ってから15年だ!その間どれだけ俺が会おうとしても会っちゃくれねぇ!当時調子に乗っていた俺をお前がぼこぼこにしたあの日から!俺が好きなのはお前だけだ!なのにお前は念話をしても姫様姫様姫様だ!俺の気持ちは全く伝わってねぇ!」
激情を、感情をそのまま口から漏れ出ている様なライネン様。その発露は終わりません。
「なんであんな弱っちい嬢ちゃんに心を注いでんだよ!俺を見てくれよ!どんだけいい女が寄ってきても俺は結婚しなかった!なぜかって?レイラへの気持ちをはっきりさせないままなんて出来なかったからだよ!」
そのまま喚き散らすライネン様に私は近寄っていき…
「姫様をバカにしないでください」
頭を蹴り飛ばしました。
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「そう言えばレイラ、お前なんで嬢ちゃんの事を姫様って呼んでんだ?5大家長ったって普通ならお嬢様とかじゃねぇの?」
今日の負けを認めたライネン様は自宅のテーブルに座りながら聞疑問を口にしました。私はライネン様の席の向かいに座っています。最初は横に座ろうぜとライネン様は言ってきましたが全力でお断りしました。
「ルージェ様が産まれたときにラルク様が仰ったのです。この子はお姫様みたいだ、と。それに同意した私は今も姫様とお呼びしていますし、本物の姫様の様に成れるよう努力しています。」
私の回答に元々あまり興味は無かったのでしょう。ライネン様はふーんと気のない返事でした。
その後も少し話をしていたら、姫様達がお戻りになりました。修行の様子をなるべく詳細に聞きたいところです。