ウチの可愛いひめさま
時刻は朝の7時30分。本日も定刻通りに姫様の部屋の扉をノックします。トントントントン、かなり強めに音を立ててノックをするのですが、部屋の中は静かなままです。
昨日も遅くまで起きていらしたようですから仕方ないとは言え、毎日起こすこちらの苦労も理解していただきたいものです。
「姫様、入りますよ」
部屋の中は普通の侍従の部屋の3倍、侍従達の纏め役を任されている私の部屋と比べても2倍程の大きさがあります。
部屋の左角には姫様用のベットが置いてあるのですがそちらにはいらっしゃらず、ある意味定位置とかしているベッドとは反対側に置いてある、部屋に似つかわしくない机(普通であれば執務室に置いてあるような)の上に突っ伏すように寝ていらっしゃいます。
私は姫様の肩を揺すって起きるように促します。
「姫様、起きてください。朝ですよ。本日もやらなければいけないことが沢山ありますよ」
私が声を掛けると姫様は少し身動ぎをして
「あ、後3時間…」
遅くまで起きていても、起きるのが遅くなったら何も意味のないことだと思うのですが。とは言え主人の言うことですから私が逆らうわけにはいきません。
「かしこまりました。3時間ですね、そうなりますと、この後面談予定のあったロードゴブリン様とサイクロプスの王様との面会予定はキャンセルと言う事でよろしいですか?」
私がそう言うと未だに突っ伏していた姫様がガバッと起き上がり、前言を撤回しました。
「忘れてたわ!やだ、こんな格好であの二人に会うわけにはいかないわね!レイラ、お湯は沸いてる?」
「勿論沸かしております。着替えもこちらに準備は出来ていますので、姫様が浴場に向かっていただければ問題ございません」
「ありがとレイラ!面会は9時からだったわよね?お風呂に入って準備して、朝食は二人と共にって形で準備してちょうだい!」
「元々その様に先方には伝えております。姫様の準備さえ出来ていれば問題ないかと」
そう伝えると姫様は急いで浴場に向かおうとするが、部屋を出る直前に私の方を向くと少し顔を赤らめて
「えっと…頭洗いたいからレイラも来て、ね?」
もう天使かと!私を萌え殺す気かと!内心では悶えつつも表情にはおくびも出さず
「かしこまりました。ある程度の準備が出来てから向かいますので先に湯船に浸かっていてください」
なんとかそう言って姫様の退出を見届けた後、膝から崩れ落ちた。
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細かい指示を他の侍従に出してから、姫様のいらっしゃる浴場に向かう。
ルージェ・ヴァンプロード様。御年16歳、魔族が暮らす魔大陸を納める5大家長。吸血鬼のヴァンプロード家長女。家族構成は兄が1人他家臣が多数。母はルージェ様を生んだ折に死亡。父は5年に一度の周期で行われる人族との代表戦争にて2年前に戦死。
容姿は美麗、肩に掛かる程度まで伸ばした銀髪、整った顔立ち、胸は慎ましい程度に。
そんな姫様の事を改めて考えながら、姫様の頭を無心に洗いあげます。甘やかしすぎたのか未だに姫様は頭を1人で洗うのが難しいらしく、時間があまりなかったりすると私に頼むことがあります。時間を掛ければ1人でも洗えるのですが、今日は来賓もいらっしゃいますし、私に洗うのを頼んだようです。
最近は段々女性らしく成ってきていますし、可愛い姫様の裸体を直接見るのは、最近はこう、他の事を考えていないと暴走してしまいそうです。女同士ですのに…
「ありがとレイラ、ほら一緒に入りましょ」
なんとか姫様の頭を洗い終わると、姫様はお礼を言って湯船に浸かります。私も後から入りますが、お互いに向き合わないように気をつけて座ります。
私は姫様を正面から見る勇気はありませんし、姫様も私の首に噛みつきたくなるそうなので、基本的にはお互いに背を向けるか私が姫様を抱き抱えるような形に落ち着くことが多いです。最近は抱き抱えるのも少し私の精神を削ってくるようになったので背合わせが基本になっていますが。
姫様と背中を合わせると肩の少し下にある小さな羽がピコピコと揺れて私の背中に当たります。いつまでもこのままで居たい気持ちもありますが、今日は忙しくなる予定ですし、姫様にお声をかけます。
「姫様、あまり時間もありませんし、100まで数えたら出ることに致しましょう」
「そうね、髪も結ってもらいたいし、今回の会談内容を見直しておかないとね。失敗は…出来ないもの…」
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お風呂から上がり、姫様の髪を結い上げます。姫様の髪の毛はサラサラしているのであまり弄らずそのまま下げていても可愛いのですが、折角なので少し捻って後ろでアップする髪型に仕上げました。いつもより大人びて見えるので今日はこれがいいでしょう。
服装も黒を基調に子どもっぽくならないように、可愛いよりも綺麗に見えるようなドレスを用意いたしました。姫様の元の顔立ちもあって人族の女の子に人気と言うお人形に見えますね。
「姫様、とてもお似合いですよ」
「うん、ありがとう。それじゃ話し合いといきましょうか。」