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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第9話 ストレイヤーの謎
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第9話 ストレイヤーの謎 3/4

 土曜日になった。

 休みが明けると月曜日を挟んで、火曜日から中間考査が始まる。生徒らは最後の追い込みにこの週末を使うことになるだろう。

 しかし、東都学園高校の生徒でありながら、翔虎(しょうこ)(なお)はこの日、家で勉強するでなく、町から車で一時間程度走った校外の山裾に来ていた。亮次(りょうじ)の車(代車)に乗ってやってきたのだった。


「亮次さん、車、どれくらいで直ってくるんですか?」

「もう二週間はかかるな」

「車屋に何て言ったんですか?」

「不注意で壁にぶつけたと言ったよ」


 車を降り、翔虎はディールナイトに変身を完了していた。数メートル離れた岩の上に空き缶を立てて戻ってきた亮次と、翔虎との会話だった。


「それで納得してくれましたか?」

「そりゃ客の言うことだからな。どうして緊急ブレーキシステムを切っていたんですか、って、厳しく責められたよ」

「あ、そうか、あの時、緊急ブレーキを切ってたんですね。そうですよね、そのままだったら、ストレイヤーに激突する手前でピタッ、て止まってましたよね」

「ぷっ」


 その様子を想像したのか、直が吹き出した。それを見た亮次は、


「そんなことより、直くんたちは大丈夫だったか? ああいう事故は、後になってから体に痛みが出てくる場合もあるんだぞ」

「はい、私も先輩方も、何も異常はないです。三人とも、ちゃんと医者に検査を受けたんですよ」

「それならいいんだが……よし、翔虎くん、そろそろ始めるか」

「はい」


 翔虎は近くの岩場に向かい、錬換(れんかん)で装備を精製した。リボルバー銃〈ダイヤツー〉と、先回の戦いで回収した、オートマチック銃〈ダイヤスリー〉だった。


「亮次さん、どこかにホルスターとか付けられませんか? 銃を持ち歩くの、結構邪魔なんですよ」


 両手にそれぞれ銃を持ち、二丁拳銃となった翔虎が、自分の体を見回して言った。


「うむ、そうだな。構造をいじらずに、ホルスターを追加するくらいなら、私にもできるかもしれないな。参考にして、やってみよう」

「お願いします。この前みたいにパンツに挟むと、ヤクザ映画のチンピラみたいで」

「何? 翔虎、そんなことしてたの? 行儀悪い」

「仕方なかったんだよ、直。両手に剣を構えると、どうしても――」

「はいはい。もう練習始めちゃいなさいよ」


 直は、ぱんぱんと手を叩いた。


「何だよ……よし」


 翔虎は右手のリボルバー銃を構え、亮次が置いた空き缶に狙いを定める。


「撃ちます」


 そう断ってから、翔虎は引き金を引いた。錬換で精製された銃独特の銃撃音が鳴ったが、空き缶は微動だにしなかった。


「耳を塞ぐほどじゃないですね」


 両手を耳に当てていた直は、そう言って耳から手を離した。


「火薬を炸裂させて弾丸を飛ばしているわけじゃないからな。電磁石の反発を利用している」


 亮次は銃の発射システムを解説した。


「もう一発、いや、当たるまでやります」


 翔虎はそう宣言して再び引き金を引いた。

 連続五回、銃撃音が響いたが、空き缶はその場に留まったままだった。

 直は呆れた声で、


「翔虎……全然じゃん」

「まだだ、もう一丁ある」

「翔虎くん、今度は両手で構えてみろ」


 残弾ゼロとなったリボルバー銃を地面に置き、亮次のアドバイス通り、翔虎はオートマチック銃を両手で構えて引き金を引いた。

 初弾は今まで通り、虚空に銃撃音を響かせただけだったが、二発目は空き缶すぐ下の岩に着弾し、三発目で遂に空き缶を打ち抜くことに成功した。


「やった!」

「おめでとう翔虎」


 翔虎は拳を握り、直は手を叩いて祝福した。


「でも……」


 翔虎は銃を下げて、


「合計九発目にしてようやく命中とか。これじゃ実戦ではとても使えないよ。ましてや静止した空き缶相手でこれじゃあ……」

「ホルスター、必要ないかもね……」


 直も翔虎の言葉を聞いて言った。


「まあ、そうしょげるな」


 亮次は地面に置いてあるリボルバー銃を拾い上げて、


「ディールナイトは射撃は得意じゃないんだ。まあ、練習あるのみだな。それよりも、翔虎くん、タッチパネルのドラム表示を、〈ダイヤ〉と〈2〉にしてみてくれないか」

「え? あ、はい。ダイヤツーは今出してるから……」


 翔虎は左腕のタッチパネルをフリックしていき、


「……あれ? マークが有効になってる」


〈ダイヤ〉と〈2〉に合わさったドラムは、ダイヤのマーク、2の数字ともに赤いままだった。


「装備を出した後だと、表示は灰色がかって錬換できなくなるのに」


 翔虎の言う通り、以前亮次から説明を受けたように、同じ装備を二つ以上精製することはできない。

 すでに精製された装備のマークと数字は、もう一度合わせても灰色の状態となり、〈ゴミ箱〉画面で廃棄するか、シャットダウンアタックで消滅するかをしないと、再び同じ装備を錬換することはできない。

 しかし、今、タッチパネルに表示されている〈ダイヤ〉と〈2〉は、錬換可能を示す明るい通常の状態のままだった。


「やってみてくれ」


 亮次の言葉に翔虎は、その状態で画面右下の赤い〈Go〉スイッチを二回タップ。光り出した(てのひら)の左を、近くに岩に叩きつけた。光が岩に吸い込まれていき、代わりに飛び出てきたのは、六発の弾丸だった。


「あ! そうか、補充の弾丸か」


 翔虎は弾丸をキャッチして言った。


「その通り。銃器関係の装備は、同じマークと数字で再び錬換すると、残弾補充になる」


 亮次はリボルバー銃を翔虎に渡し、代わりにオートマチック銃を受け取った。翔虎はシリンダーを開き、逆さにして振った。


「あれ? 薬莢(やっきょう)が出てこない。ケースレスなんですね」

「ケースレスというか、火薬を詰めた薬莢自体が必要ないからな」

「それもそうですね。そういえば、オートマチック銃も薬莢の排出はされてませんでしたね」


 翔虎はシリンダーに錬換した弾丸を装填して、


「……ということは」


 翔虎はタッチパネルの数字部分を〈3〉に変えて錬換した。岩から飛び出してきたのはオートマチック銃のマガジンだった。


「こっちのオートマチック銃の装弾数は……、十三発か。よし、もう少し練習するか」


 翔虎は自分で空き缶を立て直し、射撃練習に戻った。



「少しは当たるようになったね」


 直は翔虎にペットボトルのスポーツドリンクを渡した。翔虎は礼を言って受け取って、


「うん、本当に少しだけど」

「二人とも、ちょっといいか……」


 亮次が神妙な顔で話しかけてきた。


「どうしたんですか、改まって」


 ペットボトルを半分ほど空にして、翔虎が尋ねた。

 亮次は、うむ、と咳払いをしてから、


「私は、あの後ひとりで、君たちの先輩が誘拐された現場に行ってみたんだ」

「こころ先輩がさらわれた、あの倉庫にですか?」

「ああ。その倉庫の中だ。何か掴めるかと思ってね。中には足跡とバイクのタイヤの跡があった。翔虎くんはどれがいくつあったか、推理出来るな」

「推理なんてほどのものじゃないですよ」


 と、翔虎は、


「足跡は二つ、タイヤの跡はひとつ。足跡は拳銃ストレイヤーとこころ先輩のもの、タイヤ跡は、言うまでもなく、バイクストレイヤーのものです」

「……それがな。足跡は三つあった」

「えっ?」

「誰か関係ない人があの後入って付いたものじゃないんですか?」


 直の疑問に亮次は頭を横に振って、


「そうじゃない。その足跡は、ストレイヤーの足跡に上から踏まれた状態のものもあった」

「それって……」

「そうだ」


 亮次は声を上げた翔虎、そして直の顔を順に見て、


「その人物が歩いて付いた足跡をストレイヤーが踏んだ、ということだ。ちなみに、逆にストレイヤーの足跡を踏んだ状態のものも見つかったから、その足跡の人物が、あの日より以前に倉庫にいた無関係の人物だとは考えられない」

「ストレイヤーと同時に、その人物は倉庫にいた、と、そういうことですね……」

「翔虎くんの言うとおりだ。しかも、私たちが車を止めた反対側にも、新しい車のタイヤの跡が残っていた」

「じゃあ、あの時、あの場に誰かがいた?」

「あるいは、我々が駆けつけた時には、車で退散していたのかもな」

「やっぱり、ストレイヤーを操っている誰かがいるんだ……」

「翔虎、やっぱり、ってどういうこと?」


 訊いてきた直に、翔虎は、以前亮次に話した疑問を話して聞かせた。

 ストレイヤーが実体化するためのエネルギーは、誰がどこから供給しているのか、という疑問を。


「……それにさ」


 翔虎は続け、


「今回のこと、僕、ちょっとショックだったんだよね。今まで本能というか、破壊衝動みたいなものに突き動かされてるままみたいに見えてたストレイヤーがさ、人質を取って僕に武装解除を要求するようなことをしたじゃない」

「それがショックだったの?」


 と、直が訊くと、うん、と頷いて翔虎は、


「ストレイヤーがさ、変な言い方だけど、文化的な行動を取ったってことだよ。人質を取るなんていう。ストレイヤーに自我があるのか……」


 翔虎はそこで言葉を止めて亮次を見た、視線を受けた亮次は、


「いや、それはないだろうな。あくまで奴らはただのプログラムだ。それが意識や自我を得るなんてことはありえない」

「……でなければ」


 翔虎は続けて、


「誰かがストレイヤーにそういう行動をさせたってことにならない?」

「ストレイヤーを操っている人間がいる?」


 直の言葉に翔虎は頷き、


「少なくとも、この前学校に現れて、こころ先輩を誘拐した二体については……ねえ、亮次さん。この際、知ってることは全部話して下さいよ」


 と言って亮次を見つめた。


「……確かに、今、翔虎くんが言った疑問を私も持っていた。君たち二人にあまり余計なことを気に揉んでほしくないと思っていたから、言わなかったんだが。戦う相手が、ただの暴走プログラムではなく、何かの意思の元に動いているということは、すなわち……」

「敵は人間かもしれない、って、そういうことですね」


 翔虎の言葉に亮次は黙って頷いた。

 二人のやりとりを聞いた直は、


「じゃあ、その黒幕? が、あの日、あの倉庫にいたっていうんですか。あの足跡は……」

「黒幕なのか、その使いっ走りだったのかもしれない」


 翔虎が付け加えた。


「足跡は、革靴のようだったな。サイズは二十七センチくらい。男性のものだろう。一応写真にも収めてある」


 亮次は足跡から得た情報を二人に伝えた。

 それを聞いた直はさらに、


「じゃあ……あの日のストレイヤーは、そいつの命令でこころ先輩をさらったっていうんですか? 何のために? こころ先輩が何かされたっていうんですか?」

「こころ先輩や、一緒に襲われた林っていう二年生の話だと……」


 と、翔虎は腕を組んで、


「生徒なら誰でもよかったって感じに聞こえた。さらわれたのがこころ先輩だったのは、たまたまだったと考えられるよ」

「学校に頻繁にストレイヤーが出てくるのも、そいつの差し金ってこと?」


 直のこの疑問には、


「そこまではわからない。わかりようがない」


 亮次がそう答え、翔虎も頷いた。


「その、こころくんという先輩にも、それとなく病院で検査を受けるように言ってみてくれないか」

「わかった」

「わかりました」


 亮次の提案に翔虎と直は同時に答えた。


「今のところ、こころ先輩に、何もおかしなところはないですけどね」

「あの人、普段からちょっとおかしいから――」


 言ってから、しまった、というふうに翔虎は口を結んだ。


「あーあ」


 直は翔虎の目を見て、


「言ってやろうっと」

「ちょ、ちょっと直、今のは言葉の綾だから。直だって、こころ先輩のこと、少し変だって思ってるだろ」

「私はそんなこと全然思ってません。むしろ去年の話を聞いて尊敬しました。あの二年生をストレイヤーから庇ったりもして。本当、心から尊敬できる、よき先輩です」

「この……」

「二人とも、そろそろ帰るか」


 亮次は的に使った空き缶を拾ってきて、


「来週からテストなんだろ。よかったのか? こんなところに来たりしてて」

「はい、いい気分転換になりました」


 と、直が言った。


「地球の平和を守るための特訓が、気分転換かよ、直」

「地球の平和なんて、そんな規模大きくないでしょ。それに、特訓になったの? 自分の銃の腕が心許ないって、確認しただけに終わったんじゃないの?」

「……直くん、相変わらず結構きついな……」


 直の言葉に、地面に両手と膝をついて項垂(うなだ)れる翔虎を見下ろして、亮次は言った。


「そうだ、亮次さん、翔虎に勉強教えてやって下さいよ」

「ああ、いいよ。私が教えられるのは、理数系だけだけどね」

「いやいや」


 がばっ、と起き上がった翔虎は、


「そんなことで亮次さんの手を煩わせる必要ないですから。勉強のほうはもう、ばっちりですから」


 言いながら翔虎は変身を解除した。


「本当にー?」


 直は下から見上げるように翔虎の顔を見て、


「じゃあ、明日は私が勉強見てあげる」

「ええー。直も自分の勉強あるだろ――」

「あのね。あの勝負で私が勝つなんてこと、あってはならないんだからね」

「僕じゃなくても、ヒロかテラが頑張れば――」

「そういうところ!」


 直は翔虎を指さし、


「団体になると人任せになりがちなの、翔虎の悪いところだよ。サッカーでもそうだったでしょ。誰かが点を取るだろう、誰かが守備するだろう、の〈だろうサッカー〉だったから、うちの中学はあんなに弱かったし、翔虎でもレギュラー取れてたんだよ。誰も得点できないかもしれない、誰も守備に行けないかもしれない、の〈かもしれないサッカー〉じゃないと強くなれないよ。

 試験でも同じなんだからね。ここは出題されないだろう、じゃ駄目。ここが出題されるかもしれない、って思って勉強しないと、これも出ない、これも、ってなって、結局勉強する範囲が狭くなっちゃうんだからね」


 ははは、と、亮次は声を出して笑った。


「いや、失敬」


 二人の視線を受けた亮次は詫びて、


「直くんがいてくれたら安心だな、翔虎くん。公私ともに」

「ちょっと。それ、どういう意味ですか」


 眉を吊り上げて直が詰め寄った。


「いや、ね。さ、さあ、帰ろうか、日が暮れてしまうぞ」


 亮次は代車に二人を押し込んだ。

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