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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第8話 こころはみなみ向き
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第8話 こころはみなみ向き 4/5

 舞台は再び現代へ戻る。


 ストレイヤーの追跡をしていた翔虎(しょうこ)亮次(りょうじ)は、オレンジ色のSUVの車内でレーダー画面を凝視していた。


「亮次さんは、ちゃんと前を見て下さい。僕がナビしますから」

「はいはい」

「次、左に曲がった方が近いです」

「了解」


 翔虎が見ているのは、亮次の携帯電話のディスプレイに映ったストレイヤー追跡マップだった。マップ上の赤いマーカーは、かなりのスピードで地図上を移動していた。


「しばらく直線」

「オーケー」


 翔虎は変身を解除していた。ディールナイトの姿のまま、亮次の車に乗り込むのを見られないためだった。


「……ねえ、亮次さん」

「何だい?」

「どうしてストレイヤーは、こう立て続けに学校の近くに現れるんでしょうか」

「それは、わからない。あいつらが何を考えてるのかなんて」

「ストレイヤーは、僕も戦ったからわかるけど、確かに本能や破壊衝動のままに行動してるって感じで、目的や意識があるとは思えない」

「そうだな」

「でも、その後ろに誰かいるとしたら、どうですか?」

「誰か?」

「ストレイヤーを操ってるやつがどこかにいる」

「……」

「そんなふうに考えたことありませんか?」

「……ないな」

「嘘」

「……」


 亮次はブレーキを踏んで車を停めた。

 追跡中のため、多少の交通法規無視はやったが、横断歩道を渡る歩行者の多い交差点では信号機に従うしかない。


「よく考えてみたら、おかしなことがあるんですよ」


 翔虎は、フロントガラスを見つめたままの亮次の横顔に向かって言った。


「おかしなことって?」

「亮次さんは、ディールナイトの錬換(れんかん)にもエネルギーが必要って教えてくれました」

「ああ、質量エネルギー保存の法則。これからは何人(なんぴと)たりとも逃れることはできない」

「じゃあ、ストレイヤーが実体化したり、再生する時のエネルギーはどこから来てるんですか?」


 亮次は答える代わりにアクセルを踏んだ。信号が青に変わったのだ。


「……考えたこともなかったよ。翔虎くんは鋭いな」


 亮次が答えたのは、しばらく直線を走ってからのことだった。


「僕が気がついた疑問を、亮次さんが気づかないわけないじゃないですか」

「……あいつらも二次元クラウドのどこかにエネルギーのプールを持っていて、そこから供給を受けているんだろう」

「だから、それを作ったのは誰?」

「そいつが、意図的にストレイヤーに君の学校を襲わせているっていうのか」

「……はい」

「止まったぞ!」


 亮次の声に翔虎はレーダー画面を見ると、赤い点は地図上に制止していた。車との距離は、三百メートルほど。

 翔虎の携帯電話が鳴った。「(なお)だ」と言って翔虎は携帯電話を受ける。


「もしもし、……うん、追跡中。もうすぐ追いつく……え? 駄目だよ、そうだろ――だから――わかった、わかったよ。場所は、えーと……写真で送る」


 翔虎は携帯電話をレーダー画面に向けシャッターを押し、その画像を直の携帯電話に送った。


「直くんが来るのか? 今回は危険だぞ。相手は拳銃なんだろ?」

「どうしても行くって聞かなくて。直が来る前に片付けます」

「そうしよう」


 亮次はアクセルをさらに踏み込んだ。



「直、今の電話、何?」


 部室を出た廊下で翔虎との電話を終えた直は、背後からそう声を掛けられ振り向いた。声の主は美波(みなみ)だった。


南方(みなかた)先輩――」

「こころちゃんがどうこうって言ってたわよね」


 美波は直に詰め寄る。


「は、はい……」

「どういう電話なの?」

「わ、私の知り合いが、バイクの怪物を目撃して……その、女の子も一緒だったって聞いて、それ、こころ先輩かも、って――」

「どこ?」


 美波は直の両肩を掴み、


「こころちゃんはどこにいるの?」

「どうしたんですか、部長?」


 矢川も部室から顔を出してきた。



 ストレイヤーの反応が停止した場所は、郊外の倉庫だった。辺りは草木で覆われ、使用されなくなってからかなりの期間が経っていることは明白だった。

 亮次の運転する車は形ばかりとなった門を抜け、倉庫の出入口から三十メートルほど手前で停車した。


「亮次さんはここにいて。拳銃ストレイヤーが相手なら、流れ弾や、場合によっては直接狙われる可能性もあります」

「そうだな。ここからなら倉庫の出入口も目視できるしな。何かあったら連絡くれ」

「わかりました」


 翔虎はひとり車を降りて変身した。

 剣〈スペードシックス〉、盾〈ハートツー〉を装備し、リボルバー銃〈ダイヤツー〉も錬換(れんかん)して左手に持つと、ヘルメットをフル展開して倉庫へ向かった。


 近づくにつれ、倉庫の中からの音が耳に入るようになってきた。

 聞き覚えのある音。バイクストレイヤーのエンジン音だった。エンジン音と言っても、通常のバイクのそれと比較して音量は小さく、モーターのような独特の音を鳴らしている。錬換武装と同じく、ストレイヤーも電力をエネルギーとして動いているためだ。


 翔虎は出入口の前まで来て、ゆっくりと扉を視界が確保できる隙間程度に開く。

 ドアの向こうはすぐに広い倉庫スペースとなっており、向かって左側にあるシャッターが開いている。

 倉庫の中央辺りに三つの影が見えた。

 ひとつはバイクストレイヤー、ひとつは拳銃ストレイヤー、そして、残るひとつは、権田原心(ごんだわらしん)こと、水連(すいれん)こころだった。床の上に直接寝かされ。二体のストレイヤーに見下ろされている。

 こころに見たところ外傷はなく、わずかに手足が微動していることから、気を失っているだけのようだ。


「僕に、いつかのリボルバー銃のやつみたいな射撃力があれば、ここから二体ともスナイプしてやるんだけど……」


 翔虎はマスクの中で呟いた。


「無理はするな翔虎くん」


 車の中でその言葉をモニターしていた亮次の声が、ヘルメット内のスピーカーから聞こえた。


「わかってますよ」


 翔虎がそう答え終わると、


「で、どうだ、中の様子は?」

「うん、こころ先輩は無事です、気を失ってるだけみたい」

「こころ先輩?」

「ああ、亮次さんには、生徒がさらわれたとしか言ってなかったっけ。さらわれたのは、僕の部活の先輩なんです」

「そうだったのか。知り合いが捕まったのなら、言ってくれればよかったのに」

「人質が誰でも同じように全力を尽くすのがヒーローでしょ」

「そうだったな。で、どうする? ストレイヤーは?」

「二体して床に寝かされたこころ先輩を見てる。あいつら、何するつもりなんだろう。大体、どうしてこころ先輩をさらったりしたんだろう?」

「疑問は後だぞ、翔虎くん」

「そうですね。あの左側の開いてるシャッターのほうが、あいつらに近いな。そっちに――」


 翔虎は言葉を止めた。

 一体のストレイヤーが翔虎のほうに顔を向けたためだ、拳銃のほうだった。顔と同時に右手のオートマック銃の銃口も翔虎に向いた。

 翔虎は咄嗟にドアから離れた。

 直後、倉庫内で二発の銃声が響き、弾丸が倉庫の壁に着弾した音が続いた。わずかな静寂の後、


「な、何? 何なの――怪物! げっ、二体に増えてるし!」


 倉庫内からこころの声が聞こえた。


「こころ先輩。銃声で目を覚ましたな」


 翔虎は姿勢を低くして出入口のドアへ張り付き、開いたままのドアの隙間から中を覗う。

 こころは立ち上がっており、左手首を拳銃ストレイヤーに掴まれていた。


「こころ先輩……あれ、バイクがいない?」


 翔虎の視界からバイクストレイヤーが消えていた。


「翔虎くん! 左!」


 亮次の通信が入った。その声に翔虎はドアの隙間から顔を離し左を見ると、バイクストレイヤーが倉庫の外壁沿いに一直線に突進してきていた。


「わっ!」


 翔虎は地面を転がって突進を回避した。ギリギリのタイミングだった。


「あ、危なかった……亮次さん、ありがとう」

「礼はいい! また来るぞ!」


 亮次の言葉通り、翔虎のいた位置、すなわちドアの前を数十メートル通り過ぎたバイクストレイヤーは、急停止して前輪を軸にして後輪を跳ね上げながら百八十度ターンした。

 後輪のバウンドが治まると、急発進して再び翔虎に迫った。翔虎は剣を構え、


「向かってくるのがわかってるなら、一気に勝負を決められるかも」

「すれ違いざまにシャットダウンアタックを撃ち込もうっていうんだな。うまくいくか?」


 翔虎の意図を察した亮次が言った。


「まずは普通に攻撃して試してみます」


 翔虎は左手のリボルバー銃をビキニパンツに差し込み、両手で剣を構えた。

 バイクが目前まで迫り、衝突しようかというその瞬間、翔虎は水平にした剣を野球のバッティングのように振りかぶったまま、一歩横にスライドするように動き、バイクとすれ違う瞬間を狙って一気にスイングした。


「うわっ!」


 翔虎の振る剣が迫った瞬間、バイクストレイヤーはウイリーをして前輪を持ち上げた。

 翔虎がスイングした剣は高速回転するバイクの前輪に当たり、振り抜くことは叶わず、逆に弾き飛ばされてしまった。

 翔虎の手を離れた剣はそのまま宙を舞った。


「くー! 痺れた!」


 翔虎は両手をぶんぶんと振る。


「大丈夫か! 翔虎くん!」

「……うん。あいつのほうが一枚上手だった。くそ――ぐわっ!」

「翔虎くん!」


 亮次は、痛そうに両手を振っていた翔虎が、突然前のめりによろけるのを見た。背中に何か衝撃を受けたような動きだった。

 同時に銃声がしたため、何が翔虎の背中を襲ったのかは明白だった。翔虎はすぐさま振り向き、盾を体の正面にかざす。さらに銃声。その弾丸は盾に着弾して金属音をたてた。

 翔虎はその態勢のまま、数歩後ずさる。

 出入口のドアが開け放たれ、拳銃ストレイヤーが姿を見せた。右手の銃は翔虎に向けられ、左手はこころの左手首を掴んだままだった。

 翔虎の背中を襲った銃撃は、開いていたわずかなドアの隙間を狙って撃たれたものだった。


「ちょっと! 痛いって! あんまり強く引っ張るな! わわ!」


 左手で左手を掴まれているため、こころは自然と後ろ向きに近い形で歩かざるを得なくなっていた。そのため、時折つまずいてしまいそうな、おぼつかない足取りだった。


「あ、ディールナイト!」


 翔虎の、ディールナイトの姿を視界に捉えたこころが言った。


「大丈夫ですか!」


 翔虎は叫んだ。外に出る声は、すでに亮次の操作で加工がされている状態だった。


「すぐに助け――」


 続く翔虎の声は、三度突進してきたバイクストレイヤーを横っ跳びで(かわ)すため中断された。タイヤが巻き起こした土煙が舞う。

 地面を転がって突進を躱したのも束の間、拳銃ストレイヤーの銃口が向けられたのを見て、翔虎は動きを止めずさらに跳ぶ。

 一瞬前まで翔虎がいた地面に銃弾が着弾して、さらに土煙を上げた。


「あなたのほうが大丈夫じゃないみたいだけど――っ!」


 こころの言葉も、続く銃弾が翔虎がかざした盾に当たる音で止められた。

 立ち上がった翔虎は、ビキニパンツに挟んでいたリボルバー銃を抜いて右手に構え、銃口を拳銃ストレイヤーに向ける。

 その動きを感知したかの如く、ストレイヤーは銃口を翔虎に向けたままではあったが、銃撃するのを止めた。

 バイクの駆動音が近づいてくる。

 翔虎は銃の狙いを付けたまま、横目でバイクの動きを追い、ぎりぎりで突進を躱した。


「こころくんとストレイヤーの間は結構開いているぞ。どうだ……当てられそうか?」


 と、亮次の通信が入った。


「……自信ない」


 翔虎もマスクの中で亮次にだけ聞こえるように呟いた。


「だよな――」


 運転席にいる亮次は、コンコン、という乾いた音を聞いた。

 窓に目をやると、運転席ドアの外に三人の学生が屈みこんでいた。いずれも東都学園高校の制服で、ひとりは知った顔だった。


「直くん!」


 そこにいた三人は、直、そして美波と矢川だった。


「とりあえず入れ」


 亮次は窓越しに後部座席を指さした。後部座席に、直、美波、矢川の順に乗り込む。


「来てしまったのか、直くん。そっちの二人は? 制服を着てるということは」

「先輩です。紹介は後で」


 亮次は、その会話も携帯電話を耳に当てたまましていたため、車内に直と二名の生徒が乗車してきたことは翔虎にも伝わっていた。亮次は素早く携帯電話をしまう。

 翔虎はゆっくりと振り向き、車内に目を向けた。誰が乗車してきたのか確認できたようだった。


 三人とも乗車を終えると、直は、


「それより、しょ――ディールナイト、ピンチじゃないですか」

「そうなんだ……」


 車内の四人は、一斉にフロントガラスの向こうに視線を向けた。


「こころちゃん……」


 美波が悲痛な表情で呟いた。


「ひゃっ!」


 こころは悲鳴を上げた。手首を掴んでいるストレイヤーが、自分のほうへこころの体を引き寄せたためだ。

 そして、こころの左手首を掴んだまま正面に向けさせ、左腕を首に回した。こころはストレイヤーの前に立たされ、首に腕を回されている状態となった。

 さらにストレイヤーは、右手の銃を翔虎からこころの側頭部に向けなおした。


「こころ!」


 その状態を目にした美波が両手を口に当てて絞り出すような声を出した。


「本格的に人質かよ……」


 翔虎が呟いた通り、それは、強盗などが人質を取って銃口を頭に向ける、ドラマなどでよく見る場面に相違なかった。


「心配しないで、ディールナイト」


 こころは絶望的状況ながらも不敵に言って、


「私、この状態からの脱出方法知ってるから……とう!」


 こころは右足を上げると、踵でストレイヤーの足の甲を踏みつけた。


「……あれ?」


 ストレイヤーは微動だにしなかった。


「おかしいです! ドラマではこうやって……」

「こころちゃん……」


 美波はもう一度呟いた。


「痛たた……」


 ストレイヤーに銃口を側頭部に押し付けられ、こころは顔を歪めて声を出した。


「やめろ!」


 翔虎は叫んだが、ストレイヤーは銃口を密着させたまま、首を縦に二、三度振った。何かを促すような動きだった。


「もしかして……わ、わかったよ」


 ストレイヤーがこころの側頭部に押し付けた銃口を捻り、こころが悲鳴を上げたため、翔虎は両手を上げた。それでもストレイヤーは銃口を捻るのを止めない。

 翔虎が右手に持った銃を投げ捨てると、ようやく銃口の動きを止め、満足したかのようにゆっくりと首を縦に振った。

 そして、翔虎の側方数十メートル先では、バイクストレイヤーが正面を翔虎に向けて、待ちかねたようにエンジンを吹かしていた。


「人質の命が惜しかったら、そのまま大人しくバイクに引かれろ、って言ってるように見えるね……」


 後部座席の矢川が冷や汗を流しながら呟いた。

 バイクの後輪が回転して土を巻き上げる。


「……あの、お願いできますか?」


 美波は運転席の亮次を真っ直ぐに見据えて言った。

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