第7話 ディールナイトは誰だ? 2/5
「〈美少女戦士ディールナイト〉だと、あまりにありきたりだよね。直、もっと何かいいタイトルないかな?」
「ただ単に〈ディールナイト〉だけでいんじゃない?」
「いや、何か枕が欲しいね。〈宇宙鉄人キョーダイン〉みたいな、何か」
「何それ?」
翌日火曜日の放課後。明神あけみは文芸部室を訪れ、直と漫画の構想を練っていた。もうすっかり打ち解けた二人は、話し言葉もフランクになっている。
「尾野辺くんは、何かいいアイデアない?」
あけみは翔虎に意見を求めた。
「え?」
翔虎は読んでいた本から顔を上げ、
「えーと、そうだね……れん――いや、何でもない。うーん、思いつかないな」
「翔虎は駄目ね。そんな発想が貧困じゃ、ミステリ作家になんてなれないわよ」
「え? 尾野辺くんも作家志望なの?」
直の言葉に反応した矢川が、パソコンのキーを叩く手を止めて訊いた。
「いえ、そうと決まったわけじゃ……」
翔虎は言葉を濁して曖昧に答える。
「尾野辺がミステリ?」
こころも話に入ってきて、
「孤島に閉じ込められたら、真っ先に殺されそうなキャラのくせに?」
「ひどいなこころ先輩。それに、作家になるのと本人のキャラは関係ないでしょ」
翔虎が抗議した。
「うーん、でも意外と……」
さらに話に入ってきたのは部長の美波だった。
「犯人役も似合ったりして。最後、名探偵に謎を解かれてから豹変するの」
「いいですね部長。ギャップや意外性は重要な要素ですよね」
この意見に矢川も賛同した。
「……ギャップ、意外性、ね」
直は、犯人役にも不満そうな顔を見せる翔虎を見て呟いた。
「ギャップ?」
それを聞いたあけみは、
「ディールナイトにもギャップが必要かな? 普段はとても地味な仕事をしてるとか?」
「ヒーローの定番だもんね」
と、直が言った。
「うん、サラリーマン――じゃなかった、OLかな、やっぱ。あー、でも会社務めだと、いざって時に現場に駆けつけられないね。そうすると、無職じゃいやだから、学生?」
翔虎が飲みかけたお茶を吹き出した。
「何? 翔虎、汚いな」
直は給湯場から布巾を持ってきて机や床、翔虎の服の濡れたところを拭き取る。
「ご、ごめん……だって、明神さんが、学生って――」
「え? ディールナイトが学生だとそんなにおかしいかな?」
「い、いや、おかしいってんじゃないんだけど……」
翔虎の服を布巾で叩く直は、怖いくらいの鋭い視線で翔虎を見ていた。
「ねえ、どうしていちいち人の言葉に過剰に反応しちゃうの?」
学校からの帰路、バス停でバスから降りて歩く直は、隣の翔虎に訊いた。
「え、べ、別に過剰に反応してるわけじゃ……」
翔虎はそれに消え入りそうな小さな声で答える。
「あけみがディールナイトのタイトルの枕に何かないかって訊いた時もさ、錬換戦士とか、なんとか、とか言おうとしたんでしょ」
「それは大丈夫だったじゃん」
「本当、気を付けてよ」
「ごめん……」
俯いた翔虎を見て直は、
「……ううん、私のほうこそ、ごめん。言い過ぎた」
「そんなことないって――」
翔虎は横を向いて言ったが、そこに直の姿はなかった。直は先ほどの言葉を言い終えると立ち止まったため、翔虎は直を追い越していた。翔虎は振り向いて、
「直? どうしたの?」
「私ね、昨日も夢に見たんだ。あの日のこと。翔虎がストレイヤーに首を絞められて、私は助けようとストレイヤーを蹴ったり殴ったりするんだけど、全然効かなくて。そうしてるうちに翔虎はだんだんぐったりしてきて……」
「直……」
翔虎は二、三歩引き返して直の隣に戻り、
「それは夢。現実には僕は起死回生の大逆転で見事勝利。こうしてここにいるじゃん……直の助けがあったってのは本当だけどね」
「翔虎」
直は翔虎の頭に手を置いて、ゆっくりと撫で、
「私が守るからね……」
「何言ってるんだよ」
翔虎は笑う。
「もう子供のころとは違うんだから、僕が直を守るよ」
「私を? 翔虎が?」
「うん。あ、いや、もちろんみんなを守るんだけど」
「みんなを? 私だけじゃなくて?」
「それは、ヒーローだから……」
翔虎は少し視線を逸らして、
「……でも、直は特別だよ」
「駄目。特定の個人を特別扱いしちゃ。ヒーローなんでしょ」
「何だよそれ」
「ふふ、もう翔虎の家だね。じゃあね、翔虎」
直は翔虎の頭から手を離すと駆け出して、振り返って手を振った。翔虎もそれに手を振って返す。
直が振り向いた拍子に、涙がひと粒、直の目から離れて舞ったが、翔虎はそれには気が付かなかったようだった。自分の頭、今まで直が手を置いていた場所を、ゆっくりと擦っていた。




