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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第7話 ディールナイトは誰だ?
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第7話 ディールナイトは誰だ? 1/5

 ディールナイトに対する世間の反応は様々だった。

 警察は相手が何者であれ、器物破損、傷害の犯罪行為が行われた以上、当然捜査を開始した。しかし、一週間が経っても、何かしら成果が上がったとの話は聞かれていない。

 マスコミの報道も、流す映像に限りがあり、戦いの目撃以外の新情報も一切得られない状態であるため、目新しさがなくなるとともに『謎の戦士、怪物と商店街及び東都学園高校で戦闘行為』の話題は、次第にテレビ、新聞からも見られなくなっていった。


 学校内へのマスコミの立ち入りは禁じられていたが、登下校時間に校門の外で、生徒たちにインタビューのマイクが向けられることはあった。しかし、どの生徒からもやはり、戦闘の目撃以外の情報は得られず。次第にマスコミも学校に寄りつかなくなっていった。

 翔虎(しょうこ)もインタビューを受けたが、「わかりません」とだけ答え、足早にマイクから逃げた。弘樹(ひろき)は向けられたマイクに、〈ディールナイトくるみ〉に対する熱い思いの丈を叩き付けたが、それが放送に使われることはなかった。


 数回に渡り行われた職員会議でも、生徒に向けて「マスコミの質問に安易に答えないように」という指示を出すということと、手の空いた教師が協力しあい、学校の警備を強固にするという結論が出ただけだった。



  明神(みょうじん)あけみが(なお)に取材を申し込んだ日から一週間が経った。その間、ストレイヤーの出現はなく、翔虎と直は普通の高校生生活を享受していた。

 月曜日の昼休みの教室。弘樹と翔虎はベランダに出て空を眺めている。白い雲を見上げながら弘樹は、


「くるみちゃん、また来てくんないかなー……」

「ヒロ、お前、結局その名前、諦めなかったんだな……」


 ベランダの手すりに肘をつき、手の上に顎を乗せた弘樹の横顔を見て、翔虎はため息をついた。


「どうしたショウ。お前、最近ため息多いぞ」

「ため息も出るわ」

「何だ? 悩み事か? 俺でよければ相談に乗るぞ」

「ありがたいけどさ。別に悩みってんじゃないんだわ」

「そうか。でも何かあるんなら、言ってくれよ。勉強のこと以外なら何でも相談に乗るぜ」

「うん、それはヒロには期待してないから」

「何を。ショウだって中学の時は似たような成績だったろ」

「そうだな……三年の二学期末は、地獄だったな……」

「ああ、思い出すな……ていうか、思い出したくないけどな」

「やめよう、こんな話は」

「同感だ……」


 翔虎も弘樹と同じように手すりに肘をついて両手に顎を乗せた。


「……中間テスト、迫ってきてるな」


 雲を見つめたまま、弘樹は呟いた。


「ああ、あと一ヶ月切ったな……」

「ショウ、どうなの?」

「バッチリ、なんて答えを返せると思いますか?」

「思いません。俺と同じですね」


 二人は同時にため息をついた。昼休み終了を知らせる予鈴が鳴り響いた。



 その日の放課後。文芸部室を少し早めに出た翔虎と直は、亮次(りょうじ)の部屋に来ていた。

 亮次はパソコンの画面に映ったCGで描かれたディールナイトを前に、二人にディールナイトの新機能を説明する。


「マスク内蔵のマイクに、声を加工する機能を付けてみた」

「声を加工?」


 翔虎が小首を傾げる。


「ああ、先回の戦いで、幸いディールナイトの正体が翔虎くんだとはバレなかったようだが、声はどうしようもないだろ。ボイスチェンジャーにしようと思ったが、私や直くんと通信する時に混乱するからな」


 亮次は製作意図を話して聞かせた。


「そうですね。僕、人に聞かれるような時は、変な声色使って喋ってたから」

「ハスキーボイス」

「やめてよ!」


 直の囃しに、翔虎は声を荒げた。


「ちょっと試してみるかい?」


 亮次はパソコンと繋がったヘッドセットを翔虎に渡し、


「マイクに何か喋ってみてくれ」

「では……」


 翔虎は口にマイクを近づけ、


「大丈夫ですか」


 その声は、パソコンのスピーカーを通して、エコーが掛かったような加工された音声となって聞こえた。


「おおー、これなら、ちょっと聞いて翔虎の声とはわからないですね」


 直は加工された音声に満足したようだった。


「うん、これで喋りに気を取られることなく、戦いに集中できるかも」


 翔虎のその声は、マイクを近づけたままだったため、スピーカーから加工されて聞こえた。


「……で、どうだ。学校のほうは」


 翔虎からヘッドセットを受け取った亮次は、二人に訊いた。


「まあまあですかね。ディールナイトの騒ぎも少し収まったし」


 翔虎の声は、加工されていない肉声に戻った。


「うん、至って平和。もう一週間くらい、ストレイヤーは出てないですよね」


 と、直が言った。亮次は、そうだな、と答えて、


「二人の携帯にも探知システムを入れるという話だがな、もう少し待ってくれないか。ストレイヤー探知システム自体は、例によって膨大なデータ量になるんで、一般の携帯にはとても入れられない。だから、二人の携帯には探知システムのモニターだけを入れて、携帯の位置情報をここの本システムが探知しておいて、ストレイヤー出現反応があったら、二人の携帯の位置との差を出して出現位置を送信するというふうにしたい」

「いいですよ」

「私も」


 翔虎と直は異論なく返事をした。

 続けて壁の時計を見た翔虎は、


「おっと、そろそろ帰らないと」

「そうね。じゃ、私たちはこれで」


 直もそう言って腰を上げる。


「ああ、近くまで送ろう」


 亮次もパソコンをスリープモードにして立ち上がった。


「亮次さんも今度、家にご飯食べに来て下さいよ」


 三人は路上を並んで歩き、真ん中に立った翔虎が、車道側を歩く亮次に向かって言った。


「ああ、そのうちにな」


 亮次は微笑んで答えた。


「亮次さんって、何が好きなんですか? 食べ物のことですよ」


 翔虎の体越しに直が訊いた。


「私か? 特にこれと言ってないな……」

「あー、将来奥さんから面倒がられますよ。夕食何が食べたい? うん? 何でもいいよ。ってパターンでしょ」


 亮次は、はは、と笑っただけで、それには答えなかった。


「亮次さん、この前ラーメン奢ってもらった時も、亮次さんは食べませんでしたよね。ウーロン茶飲んでるだけで」

「ああ、あの時は、お昼食べたばっかりだったからね……お、翔虎くんの家はここだな」


 亮次は翔虎の家の前で立ち止まった。


「うん、それじゃ。直も、また明日」


 手を振る亮次と直にそう言って、翔虎は明かりが灯る玄関から家に入っていっ

た。ドア越しに、ただいまー、という声が微かに聞こえた。


「私もここでいいですよ」


 直は亮次に言ったが、


「駄目だ。翔虎くんならひとりで帰してもいいが、女の子は駄目だ」


 亮次は直を促し、再び歩き出した。

 少し歩いてから、直は、


「翔虎、大丈夫かな……この前も、し、死にかけたし、これからもあんな危ない目に遭うのかと思うと……」

「……私を恨んでいるかい? 翔虎くんをこんな戦いに巻き込んでしまって」


 正面を向いたまま言った亮次に、直も亮次のほうは向かないまま首を横に振って、


「そういうんじゃないんです。翔虎、結構ディールナイトやれちゃってるから、何か、調子に乗るじゃないけど、変な油断してしまいそうで……」

「頼むぞ」

「えっ?」


 直はその声に顔を上げて亮次を見た。


「直くんが翔虎くんを守ってくれ。私は、翔虎くんがディールナイトをやっていけるかどうかは、直くんに掛かっていると思ってる」

「そんな、私なんか……」

「学校で、翔虎くんがピンチになって、直くんが助けに行っただろ」

「あ、あれは……」


 直は顔を赤くして、


「危ないことしたな、って。それに、助けにって言っても、何もできなかったし……」

「私は、あれを見て、変な言い方かもしれないが、安心したよ」

「安心?」

「ああ、直くんは、いざという時、翔虎くんを守ってあげられる、って。翔虎くんはひとりで戦ってるんじゃないんだなって」

「そんな……私が何かできるわけじゃないのに……あ、もう私の家ですね。じゃ、亮次さん、ありがとうございました。それじゃ」


 直は、手を挙げる亮次に頭を下げ、明かりが灯る玄関に向かって歩いて行った。

 亮次はその姿が玄関に入り完全に見えなくなると、(きびす)を返してもと来た道を歩いて戻った。

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