歪む視界(プロローグ 25/25)
「やめろ亮次」
背後から声が掛けられた。振り向くまでもなくその声の主は分かる。
「伯父さん……」
私は正面の操作パネルを見たまま答えた。
「伯父さんなんですよね。これの原因は。いったいどうやったんです? 監視カメラの信号に細工して、映像をすり替えることは想像つきますが、これを動かなくすることができるなんて……」
私は何度指を滑らせても一向に反応しない操作パネルから、伯父のほうに顔を向けて言った。
「諦めろ。それはもう動かん」
髭に囲まれた伯父の唇がゆっくりと震えるように動き、その言葉を漏らした。
「伯父さん」
私は体ごと向け、
「あなた、いったい何者なんです? この遺跡について何を知ってるんです? 錬換といい、おかしいですよね。あんなテクノロジーをいったいどこから……」
「お前を行かせるわけにはいかないんだ」
伯父は私の質問には答えず、変わらぬ、ゆっくりと漏らすような口調で言った。無論、返答がもらえるなどという期待はしていなかったが。
「……それはいいです。伯父さんが何者かなんてどうでもいいです。でもこのお願いだけは聞いて下さい。私を向こうに行かせて下さい。もうあんなヘマはしません。隊長と田中さんがいれば大丈夫です。私に、あの世界を見せて下さい。探検させて下さい。あの星、あの世界、何て言うのが正しいのかわかりませんが、あそこに行きたいんです!」
私の訴えを聞いた伯父は、諦めきったような顔になり、ため息をひとつつくと、
「お前は子供の頃、冒険ものの小説や映画、アニメなんかが好きだったな。お前を連れてきたのは失敗だったよ。亮次、もう帰ろう」
「帰るって、どこ――へ――」
目に映るものが歪む。
伯父も。
遺跡の壁も。
透明なチューブも。
そして段々と目の前が真っ暗になっていき……




