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ヴィ・ルブニール ~un reve~(仮)  作者: さはら、かなや
二章   空ノ上学園
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起床

 見慣れない天井。硬いとも、柔らかいとも判別しづらい質素なベッドと無地の布団。そして初めて身に纏ったであろう青みがかった病衣。


 自分が病院のような場所にいるのだと認識するのに、そう時間は要さなかった。


 長時間睡眠した後に感じる倦怠感を伴って上体を起こして、辺りを見回す。


 部屋は記憶にある病室と酷似していた。ベッドが四つ。部屋の両端に均等に配置されている。ベッドの横には床頭台。その上部にはアームに繋がれた液晶パネルが設えてある。彼方が寝ていたのは窓側だが、窓はカーテンで閉ざされており遮光性が高いせいか、外の景色はおろか時間帯すら分からない。


 せめてなにか現在時刻や日付を知ろうと、布団を除けて立ち上がろうとした時だ。


 透き通るような声が耳に響いた。


「まだ安静にしていた方が良いよ」

 

  重症患者に開口一番投げかけられる決まり文句が聞こえた方には、こちらに一瞥もくれることなく読書に勤しむルナが、窓とベッドの間のスツールにちょこんと座っていた。


 その姿を認めて彼方は眼を丸くした。間違いなくこの部屋に人の気配は無かったからだ。まるで瞬間移動でもしてきたかのような現象に困惑する一方。彼方は意識を失う前の出来事を思い出していた。そして全てを思い出すと、奇怪な現象を横に置いて反射的に戦闘態勢への移行を試みる。が、ベッドについた手が自重に耐え切れず、逆腕立てのようで違う。なんとも滑稽な恰好で身体が崩れた。


「ほーら言わんこっちゃない。看病しといてあげるから、大人しくしてなよ」


 本気で案じているかのようにルナは本を閉じて、地面に落ちた布団を拾い上げて彼方の足元に被せた。


 敵意がないことが分かり幾分か冷静さを取り戻した彼方は、現状の理解を求める。


「どういうつもりだ?」 


 警戒を緩めずに鋭くした眼でルナを射抜く。


 殺し合いをしていた相手を手厚く看病するのは、何かしらの利を得られると考えての行動だ。


 命を救ったこと。そして見返り。彼方の質問の意図はこの二つだった。


「どういうつもりって?」


 オウム返しで答えたルナの意識は再び開いた本に集中していた。言葉通り、ただ看病するだけの相手という認識なのだろう。


 敵に値しない。


 まるでそう告げられているかのように彼方は感じていた。


 今すぐにでも再戦を挑みたい衝動を堪えて、歯噛みするだけに留めた。代わりに彼方は質問を明確にすることで外堀を埋める。


「なんで俺を助けた?」


 うーん、と真剣に考えてはいるものの、その手はマイペースに本の頁を捲っている。


「今朝食べたパンケーキが美味しかったからかな」


 捻り出た答えがそれだった。


 相応の説明がなされると思っていた。それが然るべき対応だと信じきっていた彼方は、何の脈絡もないルナの回答に沈黙。しばらくの間、頁を捲る音だけがこの場で二人の耳を占領していた。


 よし、ぶった斬ろう。


 やがて硬直が解けるや、彼方は無造作に近くに壁に立てかけられている自身が使用していた直剣を手に取る。


「まともに答える気は無いってこと……だな」

「正解っ!」


 彼方は柄を掴んで、手に力を込める。


「ってちょっとちょっと、何やってんのさ!?」


 面を上げて、したり顔でおちょくろうとしたルナの視界に入ったのは、両手で柄を目一杯に握りしめている彼方の姿だった。それが何の予備動作かは言うまでもない。阻止しようと慌てて本から手を離して、ルナは彼方に迫ろうとした。


 だが結果からいって、その必要はなかった。


 彼方が使用している直剣は刀身が長く、刃渡り1mを超える面白味のない無骨な片手剣だ。だからといって一般的な(軍用のもの)片手剣との間に、重量の差はほとんどない。ましてや両手剣並みに重いわけではない。それなのに彼方は両手を使ってまでしても、構えはおろか刀身をまともに持ち上げられない程腕力が衰えていた。そして震える手から落ちた直剣は、切っ先から真っすぐ地面に落ちて甲高い音を病室に響かせる。


「君はあれなの? バカ?」


 ジト目で彼方を見つめるルナがそこにはいた。それは最早不審者を見る眼つきだったが、彼方は情けなさよりも憤りの方が勝っていた。


「黙れッ! もう一度俺と戦え!」


 ルナは溜息を吐いて、直剣を拾い上げる。丁寧に鞘に戻し、彼方の手が届かない場所。隣のベッドの上に放り投げた。そして再びルナは読書に戻った。


「その台詞は、この学園で一番になったら言ってね。そしたら相手くらいならしてあげるから」

「学園?」


 ウィーン、と。


 彼方の疑問符と同時に病室の自動ドアが開いた。


 現れたのは黒一式の装いをした麗人だった。  

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