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ヴィ・ルブニール ~un reve~(仮)  作者: さはら、かなや
一章   金烏玉兎
12/13

情景

 陽光が木々の隙間を縫って少年の眼をちらちらと刺激する。


 朝日を浴びて覚醒した少年は、呑気に欠伸をしながら大きく伸びをする。次第にハッキリとしてきた意識が、現在自分が森林地帯の中心部にいるのだと思い出した。そしてやらねばならぬことも。


 ただ未だ抜け切れていない睡魔が、少年を誘惑していた。


 暖かな日光。爽やかな風が頬を撫で、近くに置いてある本の頁がペラペラと捲られる耳心地の良い音。どうしようもなくそれらは少年を夢の世界へと手招いている。


 折角思い出せたことも忘れて少年の瞼は次第に閉じていく。そうしてまどろみに包まれようとした時、不意に衝撃が頭部に走った。


「なに堂々と二度寝かまそうとしているんだ。クソガキ」


 刀の鞘を少年のおでこに突き立て、吐き捨てられるような言葉を呟いたのは一人の女性だった。


 彼女は真っ白だった。


 肌は勿論のこと、毛という毛に一切の色彩が見られない所謂アルビノと呼ばれる存在だ。ただ彼女はそれだけではなく服装にも色が宿っていなかった。一見軍服のようなそれは階級章がなく、どことなく制服のようにも見える。

 包帯で片目を覆い、鞘を握っていないもう片方の腕はだらんと力なく垂れている。隻腕、隻眼。ただ唯一藍色に滲んだ瞳孔が、決然とした意思を表すように輝きを放っているおかげか、彼女に力弱さなどは微塵も感じられない。


 少年が起きる様子を見せないからか、女性はなおも鞘をぐりぐりと少年のおでこを抉り続ける。


「痛い痛い、痛い!」


 鞘をどかそうと、少年は未成熟な腕を頭の上でわちゃわちゃとさせる。


 歳は五、六歳。眼つきを鋭くさせているが、年相応のあどけなさが抜け切れていない無邪気な少年。同い年の子供とは比較にならない膂力で鞘を握り、上下左右。試行錯誤して仕返しと言わんばかりに、女性を困らせようと少年は懸命になっている。


 呆れたように溜息を吐くと、女性は少年の襟首を掴むと、自分の顔近くまでひょいっと持ち上げる。


「さ、今日の訓練を始めるぞ。そんだけ元気が有り余っているのなら、夜までいけるな」


 整った顔に似つかわしくない獰猛な笑みが少年の眼を射抜く。


 少年はそれに怯むどころか、舌を出してから元気よく手足をバタつかせて抵抗する。


「やだよ! バーカ! バーカ!」

「はぁ、全く君は口で言っても分からないやつだな……」


 途端に今まで激しい動きで暴れまわっていた少年の動きがピタリと静止した。


 女性は何もしていない。少年を持ち上げている手以外は接触していないし、何か少年が怯えるようなことをしたわけでもない。ただ一言呟いただけで少年の顔は見る見るうちに青ざめていき、目頭には溢れんばかりの水滴が溜まっていた。


「ごめんなさい。もう許してください。訓練頑張るんで、ほんとすいませんでした」


 器用に誠心誠意心を込めた土下座を空中で披露してみせると、女性は手を離して少年を地面に落下させる。


「さあ、行くぞ」


 女性はそう言うと、伐採され見渡しが良くなっている広大な空き地へと少年を置いて歩いていく。


「もうちょっと丁寧に降ろせよ! 相変わらず子供に優しくないおばさんだな!」


 悪態ついて少年は反対の方向に駆けだしたが、いつの間にか腕を組んだ女性が目の前で仁王立ちしていた。そして女性は拳で、少年の頭を激しく揺らす。


「やかましいぞ、クソガキ」


 頭を抑えて痛みに悶える少年の首元を掴んで、空き地まで引きずる。


「別にいいだろ! 一日くらい自由に過ごしたって」


 女性の動く足が止まった。

 そして首だけ振り向くと、女性は少年との出会いを思い出して口を開く。


「あの時言った『□□□□』という言葉は偽りか?」


 文句を言おうとした少年の顔つきが変化した。


「好きに休んで、好きに遊んだってわたしは構わない。だがそれならわたしはもう君には関わらない。それでも良いなら思う存分望んだ行動をしてくれ」


 そう言い残して遠ざかろうとする女性の足首を、少年は力強く掴む。


「力がない。考える力もなければ、才能もない。そんな空っぽの君が、何をすれば『何か』に成れると思う?」


 少年は血が滲むほど拳を握って、殺意に歪んだ瞳を女性に向ける。


「強くなることだ」


 少年の答えを聞いて女性は寂しげな表情を浮かべたものの、すぐに前を向いて歩き出した。


 少年は轍を踏みしめる。

 骨折して血が滴り落ちている左腕を庇いながら――――。

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