9 マフラー
村長の家を出ると、外はどんよりと曇っていた。
「雪が降らないといいけど。寒いのは嫌いなんだろう?」
「嫌いよ。だから、急ぎましょう」
アヴィオールが寒い中自分のマフラーを外そうとしているのを見て、アマリリスは駆け足で管理人の家に向かった。
「アマリリス、待って」
「待ちません」
「シルビア?」
「違います」
アマリリスが答えると、背後からクスクスと楽しそうな笑い声が聞こえた。
「ありがとう、これで候補が一つ消えた」
「あっ…」
そうか。ここは思わせ振りな態度を取ったほうが良かった。
何せ回答権は一つなのだから。
「…たった一つ消えたくらいで…。名前なんてたくさんあるし…」
「その割には悔しそうだけど」
図星だった。
アマリリスはふてくされた。
「私はそんな腹芸なんて出来ないわ」
「腹黒なシスターはちょっとどうかと思うから、君はそのままがいいよ」
隣に立つアヴィオールが、手に持っていたマフラーを持ち直した。
思わず、アマリリスは一歩後ずさる。
その様子を見て、アヴィオールは苦笑した。
「君の首元が寒そうだから、かけてあげたかったけど。そんなに俺のマフラーが嫌なら、我慢するよ。だからお願いだ、俺から逃げないで」
やっぱりそうだったか。
アマリリスが教会から支給された防寒具は、手袋とケープだけで、マフラーは入っていない。
個人で用意するしかないのだ。
アマリリスはマフラーを買えないわけではなかったが、必要性を感じなかったので買わなかった。
「あなたのマフラーだから嫌だったんじゃないの。…ただ…」
私のためにとマフラーを外して、あなたが風邪を引いたらどうするの。
大袈裟なのは分かっている。
それでも、どんなに悲しそうな顔をされてもアマリリスは、アヴィオールのマフラーを受け取ることは出来ない。
「なら、君にはいつか、赤茶色のマフラーを贈ろう。それまで、待っていて」
「いらないわ」
条件反射で即答する。
そろそろ気付いてほしいところだ。
アマリリスは、アヴィオールから何かを受け取る気は全く無いと言うことに。
「そうか。じゃあ、違う色にしよう。艶やかなきれいな黒髪には、何色が似合うかな。神秘的に輝く銀色の瞳に合わせて…、いや、何色でも似合ってしまいそうだ。困ったな…」
「…」
全く気付く気配はなかった。




