1 出発
「アマリリス! もうこれくらいにして、一旦教会に帰らないかい?」
「アヴィオール。私、寒いの大嫌いなの。置いてきますよ」
「だったら、俺の屋敷においでよ。暖炉に薪をたくさんくべて、砂糖とクリームを山程入れたホットチョコレートを用意するよ」
「甘いものは嫌い」
「じゃあ、スパイスたっぷりのホットワインは? それとも、君の好きなじゃがいもがゴロゴロ入ったシチュー?」
持っていた旅行鞄を置いて、アマリリスはアヴィオールに向き合った。
それだけで、アヴィオールは嬉しそうな顔をするのだから、呆れてしまう。アマリリスは今、眉間にシワを寄せ険しい顔をしているというのに。
「ほら、街行きの馬車乗り場は向こうだ」
言いながらアマリリスの鞄を持とうとするので、慌てて取り返す。
「自分で持てます。そうじゃなくて、私は、教会に戻るつもりも、あなたのお屋敷とやらに行くつもりもありません」
「ホットワインは?」
「嫌い」
「それじゃあ、シチュー?」
「…いらない」
そう答えるとアヴィオールは、まるで眩しいときのように目を細めて微笑んだ。
「アマリリス。慎ましやかで贅沢を好まない。君は本当に教会の者のお手本となる素敵なひとだ。だけど、こんな寒いなか任務を遂行しなくても、誰も怒らないよ? この寒さで君が体調を崩すほうが大問題だ」
「平気よ。私、風邪なんてここ数年引いたことないもの」
「それは、すごいな。秘訣を聞いても?」
「思いっきり、体を動かすの。例えば、魔獣退治とか」
「…」
アマリリスは立ち尽くすアヴィオールを放っておくことにして、歩きだした。もちろん、早足で。
「待ってよ」
「待ちません」
じっとしていたら寒いのだ。待つわけがない。




