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1-1.貴族令嬢暗殺 逃走(1)

2-1より前のお話で、リタ(マルグリット)さんが魔女様のところに逃げ込む話です。

少女が1人、慣れない足取りで森の中を急いで移動していた。

少女の名はマルグリット。親しい者にはリタと呼ばれている。

リタには命の危機が迫っていた。


追手が来る前に逃げ込む必要がある。

森の魔女様のところへ。


敵が手を回すことができない場所。

リタ(マルグリット)が行ける範囲で敵が手を回すことができない場所は、森の魔女様のところしかない。

ただし、その森に入れるか、魔女様のところまで辿り着けるかはわからない。

それでも、そこしか無かった。


リタ(マルグリット)にはそこしか行く場所が無かった。


しっかりした道が無いので馬で一気に追いつかれなかったことは救いだったが、もう体がボロボロだ。

こんなときのために、多少は走る練習をした。

しないよりはマシだっただろうが、体力の限界を思い知らされる。

貴族令嬢に体力は求められない。

お嬢様育ちのリタ(マルグリット)は、こんな森の中を歩いた経験はほとんど無い。


無論、″森の中を歩いた″というだけであれば、何度もある。

だが、リタが歩いたのは森の中と言っても散歩コースであり、歩きやすく整備された場所。


当然、魔女様の森に行くにはそれより酷い道を通ることになるとは思っていた。

だが、実際の森の中はリタが想像してたのとは全然違った。


森の中がこんなに歩きづらいと思わなかった。地面は沈み、落ち葉が絡み付く。

しかも、くっきりと足跡が残ってしまう。追手は確実に足跡を追い迫っている。


追いつかれたら殺される。


リタ(マルグリット)は、いつかこんな日が来る可能性を予想し、母の死を知ってすぐ、おそらく誰も予想していない段階で逃走開始した。


しかも行き先は森。

貴族が失脚した場合、普通は協力者を頼って町中に潜伏する。


敵はリタ(マルグリット)がこのタイミングでここまで逃げるとは考えないはずだから、追いつかれる前に魔女様の森に辿り着ける。そう思っていた。

なのに、こんなに簡単に追手に追いつかれてしまった。


町を出るときには早々に知られ、そこから即追跡されたのだと思う。

町を出たことがわかれば、相手はリタ(マルグリット)がどこを目指すかも想像がつく。

待ち伏せを受けずにここまで来られた時点で幸運だったと考えるべきなのだろう。

恐らく、侍女のカリーヌが囮として時間を稼いでくれたのだろう。


だが、せっかくカリーヌが時間を稼いでくれたのに、逃げ切るのは難しそうだ。

荷物も重い。

ただでさえ、不慣れな道をこんな荷物を持って逃げるなんて無謀だ。

リタはこんな大きな荷物、屋敷の中を運んだこともないのだから。


荷物を捨てて逃げたいが、これだけは持っていなければならない。

これを失っては交渉ができないから。


必死に逃げてきたが、ようやく希望が見えた。

森が切れる場所がある。そこが魔女様の森の境界だ。

「あと少し」


暖炉の灰のような臭いが漂ってくる。

もうすぐそこだ。


ところが、遂に追手がすぐ後ろにまで迫ってきた。

「マルグリットお嬢様お待ちを!」

声がはっきりと聞こえる。

もう、ここまで追いつめられた。

さっき追手が見えたときには谷一つ分の距離が有った。

なのに、もう追いつかれた。


「そこから先は魔女の森、危険ですお戻りください」


話を聞いてはいけない。事故に見せかけて殺される。

お母様のように。


草木の無い焼けた土地を走り抜ける。

ここを抜けたところが魔女様の森。

もう心臓が破裂しそうだ。


そう思ったとき、数歩先に矢が刺さる。

さらに続けて2本。当てるつもりがあるかはわからない。


恐らく、当てるつもりもなかったのだろう。

数歩先を狙えるのだから、当てるつもりがあれば簡単に当てることができるのだと思う。


一瞬振り返ると、追手は矢を使ってでも止めようとしている。


せっかく魔女様の森に手が届くと言うのに、このままでは、魔女様の家に着く前に捕まるか殺される。

焼野原を過ぎてすぐの木の裏に隠れる。これで矢は防げる。


もう酸欠で目の前真っ暗だ。

これ以上走れない。もう逃げ切るのは難しい。


せっかく魔女様の森まで辿り着いたのに、ここで捕まるか殺されるか。

おそらく、もう僅かな距離まで迫っているはずだ。


視界がある程度戻った。

絶望しつつ木の陰から見た光景は予想外のものであった。


追手は何かしらの攻撃を受けて森の中に後退していく。

目が霞んで良く見えないが、致死性の攻撃ではない、撃退を目的とした攻撃を受けているように見える。

「魔女様?」


魔女様はリタ(マルグリット)だけを通してくれたように思う。


追手の後退は一時的なものかもしれない。

まだほとんど回復していないが、今この場所から移動しなければ、逃げ延びるのは絶望的なものになる。

リタはそう思った。

追手はリタがこの場所に隠れたことを知っているのだから。


今のうちに少しでも距離を稼ぐ。


精一杯急ぐが、普通に歩く速度にも及ばないような速度で進む。

もう走れない。


幸い、追手は魔女様の森には入らないようだ。

追う気があればすぐに追いつくくらいの距離しか稼げていないが追いつかれていないのがその証拠だ。


追手が消えても、脅威は残る。ここは人が立ち入らない危険な場所。

猟師も入れない場所で、野生動物が多い。

この森の生き物が嫌うという煙を撒きながら進む。これは消耗品で片道分しかない。


ところがリタ(マルグリット)はもう足に力が入らない。

無理して走り続けたせいで、足腰が限界だ。


「絶対に魔女様のところへ……」


歩き続けたいが既に限界が来ていた。

たいした凹凸も無いところで何度か転倒し、休まないと前に進めないことを悟る。

獣除けの煙の出る木は使い切ってしまった。

普通に歩けば足りる量あったが、せいぜい予定の半分程度の距離しか稼げなかったと思う。

水も全て飲み切った。

ここから魔女の家は遠くないはずだ。

森の中を直進できているとも限らないが、獣道のようなものがあるので、それを辿ってきた。

追手が諦めたとしてもリタ(マルグリット)が魔女様の家に辿り着けるかはわからない。

リタは森の中で水を得る手段を知らない。


獣道から少し外れた太い木の裏側で、獣が嫌うという布をかぶる。

魔女様の森に入れても、家には入れてもらえない可能性もある。

そう考えて持ってきたものだ。

本当に効果があるかはわからない。

追手か獣に殺されないことを祈りつつ一休みする。

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