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第65話 内裏御前会議

「うわあ」

 鈴音は上へ下への大騒ぎの意味を知ると、フリーズしてしまった。これはとんでもない状況だ。

「新しい王様誕生セールですよ~」

「新しい帝のお祝い饅頭ありますよ~」

「春宮様をモチーフにした髪飾り、いかがですか~」

 ともかく内裏に行くぞと急かされて着替えた鈴音は、牛車に乗って町中を通っているのだが、めちゃくちゃ活気づいていた。それだけではなく、鈴音に絡めてあれこれ商売がなされている。

 誰もが次の王は鈴音であり、目出度いことだと思っているらしい。それが一発で解る状況だが、なぜこうなったのか。

「鵺と伏見の狐のおかげだ。新しき王は凶事も吉事も従える凄い人という印象を一発で与えてしまった」

「え?」

 それってあの東山での山中の事件のことか。しかし、鈴音はぶっ倒れていただけで、ああ、でも、九尾狐に変化したのか。

「待った。私って九尾狐になって」

「鵺を倒した。鵺はお前を主と認め膝を折った。よって、鵺が今後勝手に動き回ることはない」

「ああ、うん。それは解決したんだ」

 で、その先だよと鈴音は涼しい顔をして座る健星を睨んだ。どうしてそこから冥界が一気に鈴音が王という話になるのか。

「鵺はどうしてもお前を屋敷に送りたい。それを最初の務めだと言い出した。が、それに狐たちが異を唱えた。九尾狐は狐の最高位。いわば狐にとって絶対的な王。そんな方の輿を凶事の前触れとされる鵺が務めるなんて以ての外と、揉めに揉めた」

「ああ、うん」

 それはなんとなく想像が付くなあと鈴音は頷く。なんといっても、常に自分を敬い従うユキがいるのだ。狐たちの態度は推して知るべしだろう。

「そこで陰陽頭が仲介に入った。では、鵺を輿と仕立てて、周りを狐たちが華々しく固めよとね。狐は陰陽頭の言葉には従うから、仕方がないと妥協した。が、派手な演出を行うことにした」

「うわあ」

 徐々に、徐々にこうなった理由が見えてきたと鈴音は額を押える。煌びやかに勝手に飾られた自分。それはあのキメラの鵺に乗り、周囲は狐が華々しく道中を案内する。

 そりゃあもう、新しい王様誕生のパレード状態だったわけだ。

「陰陽頭も狐に加担したおかげで、それはもう華やかだったぞ。気絶しててよかったな」

「いや、何の慰めにもなってないし」

 晴明さん、何やってるんだよと鈴音はぐったり。

「さらにこれに乗っかる奴が出た」

「いや、まだあるの」

「当たり前だろ。そもそも山のような問題を含んだ選挙戦だ。ここで一気に問題を片付けたいと思うのは誰だって同じ。そこで中務卿(なかつかさのかみ)、つまり菅原道真殿が動いた」

「菅原さんっ」

 あなたは、あなただけは味方だと思っていたのに。鈴音は頭を抱えてしまう。

「まだ態度を表明していなかった各長官を説得。さらに下級官吏たちに新王が来るぞと触れ回った」

「うわあ」

 そんなことをやってたのと、鈴音は逃げ道のなさに疲れてきた。それと同時に、ああ、もう私って王様なんだ。そんな実感がどっとやって来る。

「というわけで、選挙はなし崩しになくなり、お前の即位に関しての話に進んでいる」

「いや、さらっと選挙まで飛ばそうとしてるし」

 鈴音はそこが大事だったんじゃないのと健星を睨む。

「選挙が大事なんじゃない。新しい王だと総ての住民が納得する人材であることが大事だ。まさに大逆転ホームランだな」

 しかし、何の問題もないねと健星は笑ってくれるのだった。




 内裏に着くと、すでに多くの人が出仕していた。まず、これが大きな違いだ。

 前回もちゃんと妖怪たちが働いているところは見ているが、それは大内裏での話。月読命の御前にずらっと大臣や各長官が並んでいるところは見たことがない。

「に、人間が八割」

 おかげで鈴音は妙な感想を述べてしまった。それに健星は

「人間型の妖怪もいるからな」

 と、妙な部分を律儀に訂正してくれる。

 その鈴音はにこにこ笑顔の月読命の横に座っていた。つまり居並ぶお偉方と向き合う位置。そして健星はその前に横向きに座っているのだが、その席は平安時代に合わせると太政大臣の位置だとか。

 健星、あんたって実はみんなから認められているでしょ。鈴音はそうツッコみたい。まあ、信頼されている面があると解っていなければ、王に立候補はしないか。これにも不思議な気分になる。

「主上、よき後継者に巡り会えたこと、まことに喜ばしきことでございますな」

 こそこそと話し合っていたら、左大臣の席に座る渋い声の男性が、そう月読命に声を掛けた。

「本当だよねえ。こんなにいい子、なかなかいないでしょ。紅葉の子というだけではないんだ。あのじゃじゃ馬の健星や捻くれてる陰陽頭さえも従えちゃうんだしね」

 で、月読命。すんごいことをさらっと言っちゃってくれている。健星も月読命に掛かればじゃじゃ馬か。鈴音は思わず笑いそうになったが、横目で健星が睨んでいるのでぐっと堪える。

「左大臣は元は天海(てんかい)という江戸時代の坊主だ。徳川家康(とくがわいえやす)を支え、江戸幕府の基盤を作った奴な」

 そんな睨む健星だが、ちゃんと鈴音をサポートするのは忘れなかった。喋っている左大臣の名前を教えてくれる。だが、その天海は坊主姿ではない。ちゃんと束帯姿だ。

「あの人も神様」

「まあ、仏教僧だから神様という言い方は妙だが、その分類だ。僧形じゃないのは、政務に集中するためだとよ」

「へえ」

 鈴音はもう一度その天海を見ると目が合った。そしてにっこりと微笑まれる。見た感じ五十代の天海は、ちょい悪親父風だった。

「もはや民意は決し、選挙の必要はなくなりました。次はやはり即位式かと思いますが、月読命様、そこまでがご公務としてよろしいでしょうか」

 その天海の横にいた右大臣が、今後のスケジュールの確認を取る。その右大臣は女性だ。しかし、ぴしっと束帯を着ている。姿は二十歳くらいだけれども、その雰囲気はとても二十代のものではない。

「あの人は?」

北条政子(ほうじょうまさこ)

「ほっ」

 説明されなくても解る人物に、鈴音は思わず大きな声が出そうになった。すると、北条政子が鋭い目を向けてきた。

 こわっ。源頼朝(みなもとのよりとも)が尻に引かれるのも解るよねえ。そんな一睨みだった。

「こらこら、そんなに睨むものじゃないよ。鈴音、大丈夫だ。普段は鎌倉にいるから、そんなに来ないし」

 そんな政子を月読命は健星に対するのと変わらない感じで諫める。ううむ、やはり二千年もこの冥界を治めた王様。のほほんとしていても、ちゃんと王様だ。

「当たり前でございます。死後もどうして政に携わらねばならぬのか。頼朝殿を召されればよろしいのに」

 政子はふんと鼻を鳴らし

「それでも、悪政ほど見たくないものはございませぬ。しっかりお支えいたしますので、鈴音様、ご安心を」

 と付け加えた。どうやら見た目ほど怒ってはいないらしい。でも、やっぱり怖い。

「鈴音もすぐに慣れるさ。政子は可愛いんだよ」

 月読命、政子に対してまでそんなことを言う。あんた、本当は凄い人じゃん。なんで引退するの。鈴音は呆れ返ってしまう。

「実際のところ、今までこうやって左大臣や右大臣が出てくることはなかったんだ。つまり、今は誰もが行政改革の時期に来たと思っているってことだな。だが、妖怪どもの面倒を見る気はないから黙ってたんだよ」

 健星、なぜこうなるかを簡潔に述べてくれる。まったくもう、なんなんだ。みんな責任逃れしてないか。

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