第34話 健星の駄目な部分
ともかく、後宮という呼び名ではあるが、メインは女官たちが働く場所ということらしい。たまに遊びに来る男どもがいるが、それはそれ。平安時代に合わせただけということらしい。
「じゃあ、私が王様になったからといって、ここを男性の住む場所にする必要はないってことよね」
「そうね。でも、旦那様は傍にいて欲しいものでしょ。私は泰章さんと長く一緒にいられなかったから、あなたにはちゃんと、夫婦の時間を過ごしてほしいと思っているわ」
「っつ」
何気ない言葉が凄い形で戻って来て、鈴音は息を飲んで顔を真っ赤にしてしまう。夫婦の時間って。まだ高校生なのよ。そんなの、妄想したことはあっても、具体的に考えたことなんてない。
「ええっと、男の人たちはどこで働いているの?」
鈴音はその話題から逃れるように質問を変える。すると、それまで黙ってむすっと後ろを歩いていた健星が口を開いた。
「内裏の外、大内裏にある官庁街だ。ここでお前の考えそうな、なぜ男女で働く場所が違うのかという問いに答えておくと、それは服装の問題だ。平安時代の様式を取り入れたことにより、裾を引きずる衣装の女子は板の間が連続している場所でないと移動が難しいという問題がある。そこで後宮が利用されているといわけだ」
「ははあ。ありがとう。じゃあ、こっちでバリバリ仕事をしているわけだ」
「そうだ。そもそも王が神様で子孫について考える必要なんてないからな。平安時代にこの様式を取り入れたはいいが、ここが後宮として機能したことなど一度もない。昔から、ここは女官が務めを果たす場所だ」
先回りして答えた健星は、遊ばれているんだよと溜め息だ。なるほど、次の王様が半妖の鈴音で、そのパートナーが健星となれば、普通に使うのもオッケーだよってことか。
いやいや、こんな顔は良くても性格最悪な、スパダリ要素は持っていてもすぐ拳銃をぶっ放すような危険な男は願い下げですよ。
「お前、今、凄く失礼なことを考えていただろ」
「はっ、別に」
何で解ったんだろう。鈴音はふんとそっぽを向きつつ、油断ならないなあと困ってしまう。この人とこれから冥界を支えていくなんて大丈夫だろうか。いや、その前に選挙があるんだ。
「そもそも、私が王様で本当にいいわけ?」
もう何度目となるか解らない質問を、再度健星にぶつけてしまう。
「いいも悪いも、他に落としどころがない。昔のように異類婚姻譚が多く発生するわけではないから、半妖なんて絶滅危惧種だ。それに、能力の高い妖怪から生まれていないと、説得力に欠ける。そこらの鶴が恩を返したくらいじゃ駄目なんだよ」
「あんた、鶴の恩返しを何だと思ってるのよ」
「鶴と人間が結婚した話」
「・・・・・・元も子もない」
鶴じゃ駄目って言いたいのは解るけど、言い方があるだろ。ぐるっと後宮を回り終えて、鈴音はこれから大変だわと溜め息を吐くしかない。しかし、何かと直球で言ってしまう健星が、王様では上手くいかない理由も察してしまう。
「腹を括るしかないわね」
昼御座所に戻り、いずれ自分が座るという椅子を見つめ、鈴音は王になると決意するしかないのだった。




