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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第6章 I'm (not) ready.

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14th(13th) day.-12 TAIL ZWEI/釘、扉、鍵 - 鏡合わせのスポット - /NO ONE LIVES FOREVER


G.T. 13:11


「―――月天(げってん)穿(うが)て、―――」


 目をも眩むほどの閃光が、ジューダスの持つ神槍に蓄積していく。周囲を明るく照らす光の影に、鋭い目線が放たれる。


 対し、宗次郎は刀の柄を強く握った。


 彼の実力を、甘く見てはいない。


 宗次郎のもつ"魔灯剣エクスキューショナーソード"とジューダスの持つ神槍(ブリューナク)では、出力に関しては単純な魔力の圧縮である前者に軍配が上がる。


 本来、打ち合いならば刃こぼれのように物理的な欠損など起こり得ないが、ジューダスが言う通り、宗次郎自体が彼の魔炉の代行となったアレイスター=クロウリーの第二魔法の結晶を使いこなせていないのだろう。


 宗次郎の柄を握る手に汗がにじむ。


 覚悟とは、生い茂る雑草が踏み固められる中でも、決して折れず、最後の一輪になろうとも上を向き続けるものだと自覚している。


 決して折れない。覚悟とは、この意志に還元される。




「―――だからボクは、()()()()()()()()!」




 最後の一撃。そう宣告した最後の剣戟においても、最初に動いたのは宗次郎だった。


 その動きは、今まで見せたどの動きよりも速い。決して無駄のない、繊麗され、厳選され、超越した、一の太刀。


 その太刀筋は疑うことなく、宗次郎にとっての全身全霊であるのは、対峙しているジューダスには眩しいほど響く。




 だからこそ、それに答えるジューダスの手にも、ありったけが籠もる。




「―――『トゥアザ・デ・ダナーン ブリューナク』―――!!」




 衝突による閃光が、全ての者の視界を無残にも奪い去った。




* * *




「―――なぜ、ボクを追い出す」




 一人、椅子に座っている。辺りは暗く、自分の周りにだけ照明が灯っていた。


 暗闇の先に、もう一つ照明が灯る。


 そこに席はなく、自分と瓜二つの誰かが立っていた。


「そこは本来zero(ボク)の席だ。なんでそのボクを追い出すんだ」


「・・・・・・それは、『zero(キミ)』が宗次郎(ボク)だからだ」


「意味がわからない。宗次郎(キミ)は夏喜がzero(ボク)に植え付けた偽物だろう。偽物が本物になろうとするな」


「確かに、zero(キミ)からしたら、宗次郎(ボク)は偽物かもしれない。けれど、宗次郎(ボク)はたしかに生きていた」


 倉山の家での生活も、(ねぇちゃん)との暮らしも、宗次郎にとって思い出は本物であり、否定されるものではない。なら、人格として成立している以上、偽物ではない。


「盗人猛々しい綺麗事だ。その分、zero(ボク)は人生を奪われた。貴重な時間を奪われた。それなのに、宗次郎(キミ)は悪びれもせずに居座っている」


「そうかもしれない。けれど、宗次郎(ボク)zero(キミ)も似た存在だよ。片や"(Argen)(teum A)(strum)"の計画のために、片やそれを妨害するために産まれた。zeroと宗次郎(ボクたち)は、似た者同士だ」


 産まれた身体は一つなのに、それぞれの思惑で人格を二つ植え付けられた。その歪な存在は、暗がりの中でポツリと照らされた(スポット)だけが、主導権を握っている。


「だからこそ、宗次郎(ボク)zero(キミ)になりたい。zero(キミ)からしたら、宗次郎(ボク)の存在は疎ましいかもしれない。けれど、反発し合っていては、ボクたちはいつまでも先に進めない」


 座っていた『椅子』から立ち上がり、遠くへ投げ捨てる。


 zeroは驚きの表情をしていたが、なんてことはない。ボクたちを隔てていたのは、この『椅子』なのだから。


zeroと宗次郎(ボクたち)の『椅子取りゲーム』は終わりにしよう」


 ゆっくりと歩みを進める。歩く先を照らすように、光が追従し、立ち止まるときには、二つあった照明は一つになっていた。


宗次郎(ボク)は言った。zero(ボク)宗次郎(ボク)を超えるんだ、って。後は、zero(キミ)次第だ」


 そう言って、ボクはボクを抱きしめた。


「進もう。一緒に」


「や、やめろ。zero(ボク)の中を見るな・・・・・・」




 震える身体は誰のものだったか。それは、些細なことだ。




「これは、zeroと宗次郎(ボクたち)の人生だ。だから、―――」




 願うなら、この対話を忘れないように。




 願うなら、この人生に意味があるように。






 願うなら、―――一つの魂として、花束を・・・・・・




* * *




 視界を奪う閃光が落ち着いたときには、周囲を覆う土煙が充満していた。


 それだけ、衝突に寄る余波は大きかったのだろう。吹き付ける風に乗る魔力の濃度は以前濃いままだ。




 その中で、―――立っているものこそが勝者となる。




「―――見事だ、坊主」


 土煙の中から最初に言葉を発したのはジューダスだった。


 次第に視界が晴れていく。その中心部で、




  振り抜いた剣は上に、振り下ろした槍は下にし、互いに構えを崩さない2人が対峙している。


 ジューダスは右肩を大きく切り裂かれ、大量の血が身体を汚していた。宗次郎の身に傷はなく、傍らの床は大きく抉れている。



「あーあ。届かなかったや」




 いつものように軽い口調で宗次郎が発すると、手にしていた"魔灯剣"の刃が音を立てて砕け散った。




_go to "knockin' on heaven's door".

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