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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第6章 I'm (not) ready.

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14th(13th) day.-1 TAIL ZWEI/釘、扉、鍵/HELENA




 何を、望む。


       人々の夢見た、理想郷を。




 何を、望む。


       争いのない、血の流れぬ世界を。




 何を、望む。


       全てを受け入れ、誰も彼もが幸せになれる世界を。





 ―――何を望む。閉塞される世界(リソウキョウ)に、何を望む。




釘、扉、鍵/14th(13th) day. - TAIL ZWEI




 ながい、ながいユメがあった。用済みと成った日、神頼みから開放された日。その日が、自分にとっての『朝』が来たのだと。永い『夜』は明けたのだと。役目は終わったのだと。


 ながい、ながいユメがあった。あの『声』は救いだったのだと。特別なことなんて無い。ただ、そう願っただけ。願うだけなら、万人に許されて然るべき。ただ、願っただけなのだと。


 ながい、ながいユメがあった。あの日から、狂った人生をやり直すのだと。歯車から開放され、自身の足で進むのだと。自身の眼で前を向くと。自身の手で、―――何を掴む。




 ―――何をのぞむ。



 のぞみ、そんなもの、じぶんにはない。




 ―――何処をめざす。



 むかうばしょなんて、じぶんにはない。




 なら、―――どう生きるのか。自分にはそれがない。




 籠の扉は開いた。自身を取り巻く環境は、自身の知らないところで崩壊し、そして一人だけ取り残された。みんな、先に進んだというのに、自分だけ道を知らない。聞くだけだった言葉は、今までは意味なんてなかった。どんな内容だろうと、求められたのは救いだけ。なら、万物の答えの中から、その一粒の砂を拾い出すだけの装置と化した。そして、その装置も最早役目を終えた。なら、この先どうするか。


 生きるための術を知らない。食事だけは決まった時間にもらっていた。排泄は決められた場所があった。それだけはわかる。だが、それ以外を何も知らない。籠の外で、残骸を集め、水を吸うスポンジのように何かを知っていく。散り散りとなったものを拾い集め、読めない字を覚えた。喉の乾きに苦しみ、行き倒れの直前に降った雨のおかげで水のありがたみを知った。そして、落ちた雷から火を知った。石を砕いて刃を作り、木を削って罠を作り、生き物を捕まえて肉を食べた。徐々に獲物も大きくなり、生きるだけなら困らないほどの知識と経験を得た。なんせ、『時間』だけは腐るほどあった。そして、一人だからこそ、自分で何かをできなければ朽ちていくのだと認識していた。




 その認識は―――『時間』が誤りだった教えてくれる。




 ―――生きたいのなら、生かそう。それを望むのなら、ヒトには試練を与えよう。




 そう語りかけた声がいた気もする。気のせいだったのかもしれないが、文字を知ってからは、それを判断するだけの事象も知っていた。経験こそなくても、それが通常では計り知れないということは認識できる。なぜなら、死んだものは朽ちるから。生きたものは死ぬから。そうしなければ、生きたものは生まれないから。世界はそうして廻っている。世界はそれでも廻っている。生きるために道具を作り、知識を蓄え、経験を学ぶ。それが文明だと知ったのは―――まだ先の話。




 そこから、()()が過ぎた。遠くへ渡り、多くを知った。世界の動きは不確定で変動的だった。完璧だと思われた文明も、些細なことで崩壊する。それはヒトのせいであったり、流行り病であったり、天変地異であったり。そのたびに新しい文明へと再構築され、綻びが残されていった。




 ―――それでも、世界は廻りだす。



 運命が混ぜたカードが、配られることはない。





_go to "paladin".

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