14th(13th) day.-4 TAIL EINS/銀の星 - 異端者の陰謀 -/JIGSAW, LEG-HOLD
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J.T. 4:44
―――郊外の森を流れる沢。そこに、何人かが足を踏み入れ、行進をしている。朝焼けがまだ出ぬ明け方。木々が生い茂る、月の灯すら乏しい道なき道を、懐中電灯やランタン片手に歩みを進める。登山靴や軍靴ではなく、履き潰された革靴やヴィンテージのスニーカーなど、決して山道に向いていない。服装も、スーツ姿やローブ姿の者が多い。舗装されていない山道において、明らかに場違いな者たちが見えぬ目的地へと進んでいく。
「地図では、―――この辺りだな」
先頭にいた男が手にした地図とPDAを見比べるために歩みを止めた。後に続いた者たちも足を止め、周囲を警戒する。数にして7人。老いも若きも、男も女もいれ混じった、不自然な集団だ。
「アレックス、本当に我々だけで大丈夫か?」
「何を言ってるんだトッド。招集するだけしといて、敵が目の前にいるのに待機だなんてふざけてる。拠点も割れてるなら、我々"F.D."だけで十分だ。それに、なにか捕縛できればわざわざ極東まで来た甲斐があったってもんだ」
アレックスと呼ばれた男―――アギトと菊によって招集された百人結界のメンバーであり、魔術結社"F.D."のリーダーは鼻息荒く言い返した。第三魔法協会に所属し、優秀な人材であり、上級魔術士と認定された彼ら。だが、実際は秘密裏に神秘の招集と非道な人体実験などを行う危険な集団であり、結社化して勢力を伸ばそうと画策していた。今回の百人結界の招集には乗り気ではなかったが、"銀の星"が絡んでいることを知ってからは、実際に必要となるのなら、神秘を自分たちの手に収めようと考えていた。
「わざわざこんな山奥に館を建てるなんざ、これだからニホン人ってのは嫌いだね。山ごもりをするってだけで気が知れないぜ」
「カーター、口が悪いわ。たまたまあった場所を流用されただけって情報よ。それに他人の嗜好に口を出すなんて品がないわ」
「黙ってろクレア。アレックスのケツを追いかけるだけのアバズレめ」
「なんですって・・・・・・? よく聞こえなかったけどもう一度言ってくれる? うっかりその口にランタンの火をブチ込んでしまいそうだけど」
「あ? なんだ、耳の穴までアレックスのモノ突っ込んで壊れちまったか? アレックスのはでかいって評判だからな~」
「―――やめないか二人共。いつものように喧嘩をするな」
「ワタシは別に喧嘩をしていませんヴァレリー先生。カーターが吠えてるだけです」
「んだとコラ」
「やめろと言っているのが聞こえなかったのか」
先生と言われた老人が声色を変える。ヴァレリー=ルートンといえば、第三魔法協会に所属する老頭児であり、異端とも言われる現代魔術師の一角である。魔術師の中でも異例な科学的な薬毒学に精通し、貧困街のホームレスや孤児を招集して非人道的な研究をしている。普段は道端のベンチに座り呆けているような老人だが、その中身はサイコパスにすら匹敵する危険人物であり、アレックスに"F.D."を作るように支持した張本人である。
「相変わらずうるさい2人だ。なあアレックス、なんでカーターまで連れてきたんだい。クレアもいるなら、衝突するってわかってただろ。ニホンに来てからもずっとあの調子だ。先生がかわいそうだ」
トッド=ワーグナーの言うことは間違っていない。現に、百人結界の招集命令が来てから5日、現地入りして3日経ったが、カーター=ホートンとクレア=リバースは口を開けばケンカばかりしていた。トッドはそれを近くで聞かされ続け、すでにメンタルが辟易していた。
「くだらん。2人の能力を考えれば、性格が合わないだけで、両方とも貴重な戦力だ。正反対が故に、あの2人がいないとオレたちの作戦がうまくいかない」
アレックス=ブラウニングがあの2人を帯同させる理由―――チンピラのように喧嘩っ早く、その性格が魔術にも暴力的に反映され、捕獲することに優秀なカーターと、几帳面で用心深いクレアの証拠を残さない隠匿性の高さを評価していた。合理主義なアレックスがあの2人を外す判断をするわけがない。傍らで黙って付いてきていた卑しい笑い顔をしているビリー=ヒッチコックも、その判断には納得していた。
「ビリ―、また変なこと考えてない? あんたのその顔、サイコパスみたいよ」
「ボクは先生のように無表情で人は殺せませんよ、テリーさん。サークルみんなで暗い山道のハイキング、ホッケーマスクを被ったバケモノでも出そうで楽しそうじゃないですか。あなたなんて、無残に殺される美女役にぴったりです」
「相変わらず悪趣味な男ねあんた。スプラッターホラーはゴメンだわ」
ビリーに話しかけたテリー=チェイニーが肩をすくめて距離をとった。いつも他人を見るときに舐め回すように視線を送るビリーにあからさまに嫌な表情を見せたが、それを見てもビリーはニヤニヤと笑っていた。
「第五の連中の情報だと、ここが"銀の星"が根城にしていた場所だ。建物の気配がないってことは恐らく"異界化"の結界だ。こじ開けて中を探すぞ」
アレックスがリュックサックの中から荷物を取り出す。取り出されたのは、包帯に巻かれた何か。その包帯を解くと、錆で赤黒く変色した三角形の金属が出てきた。
「―――『墓泥棒の楔』の古代魔具か。アレックス、また財務局の秘蔵庫を荒らしたな?」
ヴァレリーがアレックスに言葉をかける。それを聞いたアレックスが鼻で笑った。
「先生が俺に合鍵を渡したのでしょう。大丈夫、クレアに手伝ってもらってちゃんと隠匿していますよ」
「ふん。よろしい。くれぐれも、わかっているよな?」
「ええ。先生との盟約は守りますよ」
自ら手を汚さず、学徒に実行部隊をさせる老人。実行部隊側も、当然な対価をもらっている。それ故の主従関係であり、ビジネスパートナーであった。
「みんな、離れていろ」
アレックスが『墓泥棒の楔』を手に持ち、詠唱を唱えると、―――その手から離れて宙に浮いた。頭上数メートルまで上がると、―――金属独特の破裂音とともに粉々に散ってしまった。それと同時に、彼らの見ていた風景が一変する。
「おい、壊れてしまったけど大丈夫か!? てか、なんだこれは!」
トッドが叫ぶ。一変した視界に、突如として巨大で、古びた洋館が現れたからだ。
「すでに、結界内に入り込んでいたのか・・・・・・。まったく違和感がなかった、異常なまでの『異界化』だ・・・・・・」
ビリーが嘆く。薄ら笑いも消えるほどに、緊張していた。
遠く離れた、ドイツの森で葵たちが発見した"銀の星"の本拠地、グラストンベリーを再現したかのような荒廃した教会跡は、結界の中には入れば古いながらも立派な聖堂教会風の建物があった。だが、この地の結界は、すでに結界内に入っていても、その存在を、結界特有の違和感をだれも知覚できていなかった。魔術師として熟練されたヴァレリー=ルートンでさえも。
「ふむ・・・・・・これほどまでの結界に遭遇するとは、長生きはしないほうがいいな。ピークのときに出会っていたら、心が折れていたかもしれぬ」
「先生がこれほど"評価"するとは驚いた。おい、テリー。みんなに防御用の魔石を配ってくれ」
トッドがテリーに指示を出す。知らず識らずのうちに敵の拠点に踏み入れていたのだ。警戒するのが遅いくらいだが、しないに越したことはない。そう判断しての指示だった。だが―――
「ねぇ、テリーさん。トッドが魔石を配れって言ってますよ」
テリーの近くにいたビリーがテリーの肩を掴む。あっけを取られて耳に声が届いていないのか、再度魔石を配るよう催促する。
「えっ・・・・・・」
テリーに触れたビリーが違和感に気付いた。彼女の眼と口から―――大量の血が流れて全身を濡らしていた。
「うゎあああああ、テ、テリーさん!?」
ビリーの叫び声でみんなに緊張感が奔る。その時、ようやく全員がテリー=チェイニーの異変に気付いた。そして、突如テリーの身体が洋館の方へと勢いよく引きずり込まれた。だれもそれを止めることが出来ないほど突然に、そしてあまりにも早く。その衝撃に、テリーの身体はボキボキと音をたてて背骨から折れ、木で出来た洋館の扉を突き破っている。
「いつ殺された!? おいビリーてめぇ! 一番近くにいただろうが、何してんだ!?」
カーターがビリーに詰めより胸ぐらをつかむ。あの様子を全員が見ていた。だからこそ、目の前で仲間の一人が殺されたと全員が認識するには十分だった。
「し、知らない! ボ、ボクはテリーさんがトッドの指示を無視していたから声をかけただけだよ!!」
「今喧嘩してる場合じゃないでしょ! テリーが全員分の魔石を持っているのよ! このままだとワタシ達も危険よ!」
「うっせぇな、わかってんだよ! オレはただ―――
と、カーターが続きを口にしようとして、さらなる違和感に気付いた。彼の視界には、この場にいる全員が映っている。自らの手で掴んでいるビリーと目の前で喚いているクレア、すでに何らかの詠唱を唱えているヴァレリーとアレックスと、―――首のない、誰かが立ち尽くしていた。
「―――『ストーニーブルクス』―――」
アレックスが全員を覆うようにドーム型の魔法障壁を展開する。それと同時に、後ろにいたトッドの異変に気付いた。
「ちっ、遅かったか!」
「―――『トゥー・ワンズ・アンブレイズ・180』―――!」
ヴァレリーが魔法障壁の外側で炎の塊を発生させる。外の空気を焼き、肥大してく火球を圧縮し、館全体を飲み込もうと術式を拡大させ、一瞬にして巨大な火柱を発現させた。館が巨大な炎となり、建物の内部では連鎖的に爆発が起こしていた。
「ここは危険だ。一瞬にしてトッドの首を落とし、続けてテリーが殺された。気付かなかったか? トッドが先に殺された。アレックスでさえも気付かぬ速さだ。気を抜くな」
ヴァレリーの叱責が飛ぶ。この場に生存している5人それぞれが、同じ結論を出す。早急な撤退。アレックスが障壁を貼っているためか、見えない敵からの追撃がない。ヴァレリーの強力な魔法で館を燃やしているが、それにより敵を討てたかもしれない。外は酸素すら燃え尽くす高音。炎の勢いが収まるのを待ち、異変を感じた他の魔術師や第五魔法協会の部隊が集まる前に姿を消さなければ。
数分燃えた館の火が若干弱まった。ヴァレリーは周りの木々に延焼しないよう、かつ短時間で燃え終わるように調整していた。長々と詠唱を重ね、周囲の酸素量が十分に成ってきたタイミングを見計らってアレックスに合図を送る。
「全員、視線逸らしの術式は済んでいるな。合図と同時に走れ」
全員が全身に強化を施し、スタートの合図を待っていた。その中で、カーターだけが明確な殺気を放っている。
「―――走れ!」
アレックスの声と同時に障壁が消える。アレックス、ビリ―、クレアがそれぞれ走り出し、最後まで炎の術式を調整していたヴァレリーが少し遅れて踵を返す。それを待っていたかのように、―――地面から現れた黒い刃がヴァレリーの胴体を貫いた。
「ぐっ―――!?」
『―――ケケケケケケッ。ツカマエタ』
黒い刃の影に―――顔のない何かが潜んでいた。障壁の解除を待って、誰かを襲おうとしていたのだろう。一番館に近い位置にいたヴァレリーが、その標的になってしまった。
「この、刃―――もしや・・・・・・」
『ケケケケケケケケケケケケ』
敵が何なのかを理解したヴァレリーが、全身から力が抜けていくことを感じていた。確実な致命傷。自らの命が数秒後に事切れることを悟り、緊急用に施していた、無詠唱でも使える術式を使おうと判断した―――刹那。
「―――『ライオンズ・ゲート』―――!!」
カーターの怒号とともに、ヴァレリーの上空から光の散弾が降り注ぐ。恩師であるヴァレリーを貫き、影から這い出た存在に失墜する。地面すらえぐる出力。土煙を上げる中、数十発の魔力の塊が反撃を許さない。仲間2人がやられ、ヴァレリーも助からないと踏んでの凶行。カーターは、3人目は誰が狙われるか、獣並みの本能で察していた。
最初に殺されたのはテリーだと思っていたが、ヴァレリーの判断ではトッドのほうが先だった。なぜか。それは、結界を破壊したときに最初に声を発したのがトッドだったから。テリーは全員分の魔石を持っていて、ヴァレリーは館を焼き尽くせるほどの練度の高い魔術師。トッドこそは不運だったかもしれない。だが、次の2人は、確実にこちらの戦力を削るために狙われた。なら、高い能力を証明したヴァレリーが3人目になるのは必然であったといえる。奇しくも行動が1歩遅かった。それ故に、あの刃はヴァレリーを標的にしていた。
「やったか・・・・・・?」
ヴァレリーの肉体が残らないほどの猛襲。カーターの『ライオンズ・ゲート』は目標を串刺しにするため、魔力エネルギーを濃縮し、落下エネルギーと掛け合わせることで抜群の破壊力を持つ。その気になれば、アレックスの強力な障壁すら破壊できると自負している。それほどの威力で、恩師が肉片よりも細かくなるほど敵を貫いた。
「バカ! 何をやってるんですカーター!」
カーターの魔力を感じ取ったビリーが戻ってきた。カーターの腕を掴み、この場から離れようと引っ張る。それを、少し遅れた形でアレックスも合流した。
「うるせぇ! 引っ込んでろ腰抜け共! トッドが殺された時点で、逃げてもオレたちは終わりなんだよ! なら、ここで元凶を潰さねぇと!」
「熱くなるなカーター。騒動に紛れて姿を消す。証拠は順番に消せばいい」
「うるせぇっつってんだろアレックス! 先生のお気に入りだったからっていい気になるな!」
「言い争ってる場合じゃないですよ!」
アレックスに掴みかかろうとしたカーターを引き剥がそうとビリーが力強く引っ張る。その時、―――
「伏せろッ!!」
アレックスがカーターを押し倒す。急に倒れた2人に遅れて、ビリーの上半身が宙を舞った。
「ちっ! 走れカーター! 死にたくなければ走れ!」
判断を間違えたと、アレックスは後悔した。なぜ戻った。あの場面なら、逃げ遅れたヴァレリーもカーターも、それを察して戻ったビリーも、普段の彼なら見捨てるべきだと判断するだろう。危険な状態だからか、思考力に余裕がないからか、アレックス自身、自分らしくない判断をしてしまったと後悔していた。だからこそ、それを挽回するためにも、カーターと共に生き残らなければいけない。その気持ちで、カーターに喝を入れた。
アレックスとカーターは、離れたところにいるクレアの魔力を感じた。こちらに向かって、逃走用のバイパスを繋いでいる。生き残った3人の中で、一番安全圏にいる彼女からの援助。アレックスとカーターの2人は、振り絞れるだけの魔力をすべて強化に回し、クレアの作った魔力の道を疾走した。
///
惨劇の起きた館から約2キロほど離れたところ。未だ森の中ではあるが、結界の範囲から大きく離れたところで、生き残ったアレックスとクレア、カーターの3人は座り込んで息を整えていた。
「はあ、はあ、はあ―――死ぬかと思ったわ・・・・・・」
「まったくだ・・・・・・」
「はあ、はあ、はあ、・・・・・・すまねぇ」
カーターから謝罪の言葉を聞いた。カーターとの長い付き合いではあったが、アレックスもクレアも、カーターが自分から謝ったことを驚いていた。
「気にするな・・・・・・とは言えないが、起きてしまったことは仕方ない。生き残っただけでも僥倖だ」
「アレックス、オレを許してくれるのか?」
カーター自身が自覚している。あの中で、ビリーが死んだのは確実に自分のせいだと。自分があそこで戦わなければ、ビリーが戻ってくることはなかった。だからこそ、ビリーが死んだのは自分のせいだと自覚している。
「戻る判断をしたのはビリー自身だ。あいつが安直な判断をしたのなら、判断を誤ったあいつ自身の責任だよ」
冷たい言葉ではあるが、彼ら魔術師にとって、自分の命を守るのは自分の判断しか無い。軍人にも近い思考がアレックスにとっての長所であり、疎まれる理由でもある。だが、今しがた死地を経験したカーターとクレアにとって、彼の言葉の正しさを実感していた。
「オレたちはこのままこの国を離れる。これだけの騒動だ、協会が黙っていない。ほとぼりが冷めるまで隠居し、隠滅が終了したらオレから連絡しよう」
「アレックス、あなた一人だけでするの?」
「捕縛されれば、『F.D.』の存在が暴かれることになる。危険を犯すのは一人のほうがいい。ただ、合図があるまでは死ぬまで隠れてろ」
アレックスの強い意志を感じ取り、それ以上の言葉を口にしなかった。それぞれが逃走しようと立ち上り、―――気配を感じた。
「気付かれたか・・・・・・?」
アレックスが警戒する。生臭いと知覚できるほどの違和感が森の中で蠢いている。その気配は決して近づかず、こちらの存在には気付いていないようにも思えた。
「ん。なにか聞こえる」
そう口にしたクレアが、聞き慣れない音に反応した―――
――――――そこから先、彼らの肉体は黒い刃によって串刺しにされ、そのまま館の方向へと連れ去られてしまった。
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J.T. AM 5:26
「―――消息を絶ったのは第三から呼ばれたヴァレリー班7名。PDAから回収された情報では、結界内の洋館に近付いたようだ。全員のバイタルが停止、死亡したと思われる。先程通信班が近くを確認したが、結界中心から半径2キロほどの生命反応が消失。動物どころか、植物さえも死んでいる。まるで―――空間そのものを丸呑みされたようだ」
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J.T. AM 5:04
「―――早くも1日かけて作った罠にハマった阿呆がいたようだ。クククッ、ニンゲンは愚かで助かるよ」
_go to "i.v.v, la divina commedia".




