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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第6章 I'm (not) ready.

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14th(13th) day.-1 TAIL EINS/銀の星/ARGENTEUM ASTRUM





 ―――ながい、ながいユメがあった。人々が願った救済を体現するという偉業(キセキ)を、多くの民が見守った。


 ―――ながい、ながいユメがあった。確かな志を胸に、多くの使徒が集まった。後に自らの終焉を迎えるピースになるとも知らず。


 ―――ながい、ながいユメがあった。死してなお、祀られる存在となる。



 ―――『神の子』として―――『(まつ)()』の存在がセカイを救済する。




銀の星/14th(13th) day. - TAIL EINS




 ―――生まれ落ちて、どれほどの年月が経っただろう。『奉り子』として人々の信仰を一身に受け、生まれながらにして『神の端子』に仕立て上げられた存在は、もはやヒトとしての()()()()も存在しない。生きた証すらなく、ただただ端子としての機能を行使していく。行使―――もはや酷使と言い換えてもいい。


 (つがい)が床に伏せれば、すがる老婆がいる。子に病があれば、すがる母がいる。仲間が負傷すれば、すがる男がいる。親の愛を知らなければ、すがる子がいる。誰も彼もが不幸を認めず、すがり、助けを乞う。


 誰かを陥れたものがいれば、裁きを求める声がある。誰かを殺めれば、裁きを求める声がある。誰かが罪を犯すたびに、裁きを求める声がある。

 1つの声が2つになり、4つになり、8つになり、16に―――気付けば、誰もが声を上げている。訴える事実は1つなのに、束になった声はもはや暴力となって結果を求める。

 求められば、成して当たり前。成せなければ、糾弾される。同調圧力が求めるのは変化であり、同じ方向を向かなければ、『杭』を打たれる。


 言葉を知らず、道徳を知らず、―――愛を知らずに端子としての人生を全うする。その生涯に、誇りはなく、尊敬すらない。ヒトとしての尊厳を剥奪され、ただ生きているだけの存在は、もはや『ヒト』ではない。


 嘆きの声がする。『奉り子』という立場になることに、後悔しかない。願いに耳を傾けても、それを判断するだけの、評価するだけの知識も経験もない。『ものさし』のない中で、観測しても、事実を解析する術がない。なら―――答えはない。

 それでも求められる答えに、恐怖する。その感情が恐怖だと知ったのは、もうずいぶんと後になってから。


 感覚は理解できても、感情の理解が出来ていない。なぜか。


 答えは簡単だ。―――一緒なのだ。それを判断するだけの『ものさし』がない。




 そんな窮屈な人生の節目。ユメの中で、―――声を聞いた。




 ―――信仰があるのなら、誰かが救うだろう。誰かが護るだろう。それでも望むのなら、ヒトには試練を与えよう。




 語りかけた声は、もしかしたら気のせいだったのかもしれない。それを判断するだけの事実も事象も知らない。経験したことのない出来事を周知する術も道具もない。端末としてのあり方は、入力はあっても出力がない。一方通行の受け入れるだけの『奉り子』には、()()という意味を想像するだけの経験がない。


 だからこそ―――願った。自身の知らない結末を願った。自身の許容しない事象を願った。それが未来を切り開くのだと。変わらない日常の火種になるのだと。


 願った。




 気付けば―――誰も彼もが争った。生存競争が、目の前で明確に起きていた。一日経つごとに争いは増え、絶叫が響いた。誰も彼もが生きることに必死で、奪い合った。物を、食料を、ヒトを。命を奪い合った。些細な出来事が、認知される頃には大きな炎となり、もう誰にも止められないところまで広がってしまった。


 1つが2つに、2つが4つに、4つが8つに、8つが16に32に64に128に256に512に1024に2048に4096に8192に16384に32768に65536に―――


 ―――憤怒、憎悪、快楽、失望、絶望、嫉妬、執念、ありとあらゆる感情が混沌と化す。もはやそこには『神頼み(シンコウ)』などなく、各々が自己の確立に躍起になっていた。そこには秩序など無い。秩序を方にした法など以ての外。そこにあるのは―――なにもない原初の混沌。




 その先には―――誰もいない。矜持も尊敬も、―――信仰もない、崩れ去った用済み(ホコラ)だけが残っていた。




 そして―――『一日』がこんなに短いということを実感した。




_go to "hungry bug".



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