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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第6章 I'm (not) ready.

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13th(12th) day.-6/命の代償 - 安息は程遠く -/FARTHEST LAND




G.T. 22:15


「どうしよう。せっかく魔力の霧も抜けたのに・・・・・・」

 デルピュネーの襲撃も、アルスの弾丸のおかげで事なきを得たが、先程の使用が原因なのか、グリップ部分の宝石にヒビが入ってしまった。アルスと契約する際、この宝石を介して結界内に現界していた。ジューダスとジーンとは違い、アルスの宝石自体は契約をしても消失していない。なら、謂わばこの宝石自体がアルスの心臓であり()()()()()だ。負傷が原因か、先程の火力が原因かは不明ではあるが、これではアルスの治療どころではない。

「アオイ、貸してくれ」

 ジューダスにデリンジャーを渡すと、魔法陣を発動させた。契約のときのように、小さな結界を作れば、現界できるかもしれない。


「―――『アストワント』―――」


 以前のように、ジューダスが呪文とともに手を叩いた。だが、変化はなかった。

「まずいな。即席とはいえ、結界内ですら顕現できないとなれば、治療の仕様がない。魔力弾の使用については問題なくできるだろうが、このままでは大幅な戦力減だ・・・・・・」

「この宝石、どうやら以前夏喜が持っていた魔石の古代魔具(アーティファクト)のようだな。代わりの魔石があれば鞍替えができるが、これと同等のものとなると厳しいだろう」

 アギトがPDAを確認する。表示されている波形は()()黄色(アギト)と、青色が()()のみで、探知できないほど魔力が低下しているかのように、アルスを示していただろうものが消失している。魔力の霧は木々のところからは広がって来ず、正常に作動しているように思える。状況がいい方向へ転じたと思いたいが、これではより悪化したと考えてもいい。

「一度、霊脈まで移動しよう。幸い、この崖沿いに移動すればこの地の霊脈にぶつかる。ちょうど霧の範囲外だ。そこで魔力の貯蔵ができるなら、まだ手はあるかもしれない」

 足場こそ良くないが、歩いて移動できる距離のようだ。未だ敵の本拠地の近くで油断こそは出来ないが、魔力の霧の外ならば、3人の能力を阻害するものはない。それだけが救いだが、一縷の望みを懸けて移動を開始した。



///


G.T. 21:53


 意識を奪う暴力的な魔力に抗う。血流に乗って体内を蹂躙する魔力だが、胸の傷を中心に脈動しているのは感じていた。

 失われたものは大きいが、どうにか肉体を持ち直す。吐き出された血も、奪われた魔力も、大したことではない。血ならば錬成しよう。魔力なら増幅しよう。()()()()と称された身であれば、この程度のことは容易い。


 だが、―――血系魔法は、どうしようもない。全てを賭して作り上げた奇跡は、目の前で奪われた。


 生前ならば、この傷では確実に助からない。だが、傷故に奪われたことすら気付かなかっただろう。生きたまま心臓を(えぐ)り出されれば、激痛と出血、脳の酸欠で数秒で死に至る。閾値を超える衝撃は、生身の身体はそれを護るために、死を選ぶ。矛盾している解決方法が、唯一の救出方法となる。

 だが、―――この身体はもはや"ヒト"ではない。幻想騎士(レムナント)として召喚された存在は、幸か不幸か、その結果を覆す。死ぬほどの痛みも、死ぬほどの出血も、もはや致命傷とはならない。この身は魔術師なのだから。この身は()()()()なのだから。否応無しでも生存しようと精神が肉体を繋ぎ止める。奪われた"炉心"すらひっくり返すほどの脈動を、半強制的に発動する。


 消え入りそうな意識の片隅で、嘲笑う声があった。使い魔(おもちゃ)の発動を感じる。戦闘中の出来事を解析し、本体へと転送する仕組みを組み込んだ人形が、敵のデータを蒐集(しゅうしゅう)していく。おそらく、すでに彼らのデータも把握しているだろう。過去のデータと比較し、分析し、後の戦闘に反映されるだろう。しかし、彼らの相手はこちらの領分だ。これは契約だ。元当主が現当主と正式に交わした契りだ。血系魔法を奪われようとも、これまで奪われるわけにはいかない。幻想騎士といえど、老体にムチを打ち立ち上がる。


 打たれた薬の影響が遠いところにいったの感じる。意識も、肉体の傷も、いまでは回復している。本来あったはずのものの欠損に憤りを感じるが、惨事を引き起こした張本人(ドクターK)の姿はすでに見当たらない。

 目の前に横たわるzeroからは魔力の脈動を確かに感じた。摩耗し続けた魔炉の代わりに、血系魔法の結晶がその代替となっていた。生命維持活動にすら影響が出ていた損傷は、今では呼吸も落ち着き、肌の血色もよくなっているのが見て取れる。もうしばらくすれば、疑似心臓がzeroへと完全に同期し、意識を取り戻すだろう。


 ―――ならば、ワタクシはワタクシの為せることを為そう。


 zeroの眠る寝台に踵を返し、内陣を後にする。先程から感じていた全身を舐めるような魔力の層の出処はわかっている。状況の確認をし、自身に課せられた契約を全うしよう。




///


G.T. 23:46


 しばらく森と崖の狭間を歩き、どうにか開けた場所に到着した。標高も下がり、森の端へと追いやられた形となったが、どうやらそこはこの地の霊脈の支点となっているようだった。

「吹き出している魔力が段違いだが、この霊脈の間欠泉(スポット)なのだろう」

 アギトがPDAの情報を更新すると、森全体を張り巡らされた霊脈がマッピングされていた。いくつかある間欠泉のうちの一つに到着したようだが、状況の改善とはいかないようだ。

「アギト、やはり欠けた魔石では魔力の貯蔵は難しいようだ。蓄えたら蓄えただけ抜けている。元の魔力量もそう多く残っていない。アルスがアオイに残した魔力弾を使えば、恐らく空になる」

「そんな・・・・・・」

 アルスが準備していたのは5発分だ。先程1発使用したため、残りは4発。この弾数が、アルスの存在をつなぎとめているとすら感じる。使い果たしたときに、残された魔力が底をついたときにアルスの存在が失くなるというのなら、使うことすら躊躇してしまう。それは、アルスの命のストックのようにすら感じるから。

「デルピュネーほどの魔物がいる以上、アルスの魔力弾は戦力として貴重だ。それに、ダンチェッカーのケルベロスもいる。いざとなれば、必ず必要になる時が来る」

 それは、―――先に進ものなら、確実にアルスの犠牲が必要ということ。その事実を理解できるからこそ、私の覚悟を蝕んでくる。


「―――アギト、やはりワタシはあなたが嫌いです」


 突如口を開いたジーンが辛辣な言葉を吐く。眉を(ひそ)め、きつい目付きでアギトを睨みつけていた。

「あなたの合理的な判断はきっと正しい。この場において、あなたの合理性は正論であることは間違いない。ですが、あなたには他人を思いやる言葉が一つもない」

「何を言うかと思えば。その程度で鈍る覚悟なら、この先は()()()()()()。我々はもはやその域まで来ている。ねだるな。勝ち取る以外に、活路はない。すでにこちらは()()()()()()()()状態で、早々にアルスまで勘定から外す算段なんてない」

「『一手足りてない』ってのは、ワタシのことですか?」

 アギトの言葉に詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。ジーンの表情はすでに怒りへと変わっていた。

「とんだ侮辱だ。あなたにとって、ワタシは足手まといとでも言いたいのですか」

「自覚があるなら畳々だが、侮辱しているのはお前だ。オレが遠慮の言葉を吐かないのは、お前たち全員を戦力として認めているからだ。そこに思いやりなんてのはない。ここは戦場だ。休息はあっても安息なんてものはない。思いやりなんてのは敵につけ入る隙を与えるに過ぎない。出しうる全てを賭さなければ、勝ち目はない」

「ジーン、離すんだ」

 ジューダスがジーンとアギトの間に入る。ジーンはアギトの胸ぐらから手を離しはしたが、未だ釈然としない表情をしている。

「ジーンのことは詫びよう。だがこれも、アオイを想ってのことだ。アオイは魔術師でも軍人でもない。つい数日前まで日常を過ごしていた少女に過ぎない。それが突然今回のことに巻き込まれ、坊主を奪われ、大切な友人を失ってしまったが、目を背けたくなる現実に立ち向かっている。その中でアルスまで欠ける事態にして、アオイに対してジーンが心を配るのは彼女のやさしさだ。お前がオレたちのことを認めてくれているのは光栄なことだが、そのことを忘れないでほしい」

「・・・・・・戦場故にいつもの調子で接してしまっていたが、こちらとしても気が立っていた。ジーン、決してお前のことを侮辱するつもりはなかった。言葉足らずではあったが、すまなかった」

「・・・・・・いえ、ワタシの方こそ、すいませんでした」

 ジーンはアギトの顔こそは見なかったが、申し訳無さそうな顔をしていた。その様子を、アギトは気恥ずかしそうに頭をかいた。

「ジーン、ありがとう。あなたの気持ちは嬉しいわ。でも、大丈夫よ」

 ジーンの手を取り、彼女の眼を見る。彼女の優しさも、アギトの言葉も、私にとってとても大事なことだ。だが、もはや私には"守られる"という選択肢はない。ジーンと契った約束も、ジューダスと交わした言葉も、私の覚悟を決めるのに十分だった。蝕んでいた不安も、私の覚悟の一部だ。けど、自分の気持ちに嘘は付きたくない。

 掴んでいたジーンの手を引き、身体を引き寄せて抱きしめた。

「ア、アオイ?」

 彼女の温もりを全身で感じる。ジーンの身体越しに、自身の身体の僅かな震えを感じた。この震えが、不安によるものかはわからない。けれど、これが私だ。きっと、この気持ちに嘘はない。

「不安も恐怖も、焦りも戸惑いも、私の一部なの。でも、あなた達と交わした覚悟だけはブレない。この気持ちは本物よ」

 何かを失うのは辛いことだ。手に入らないのなら、諦めがつく。だが、一度手にしたものを手放すということは、きっと決意が必要だ。それは何であれ、私の人生において大事なこと。受け入れたのなら、それを全うする覚悟がある。

 やり直しができる人生なら、何も手放さない未来を模索するだろう。たくさん傷ついても、目指したゴールに近づけるのなら、私は何度だって繰り返す。だけど、人生は一度きり。時間は逆行しない。手放したもの、手に入れきれなかったものを取り戻すことは出来ない。

 だからこそ、結果のために最善を尽くす。行き着く先が何処であろうと、私は挫けない。諦めない。起きてしまったことは仕方がないとはいわない。だが、手放すことで得られる未来があるのなら、その天秤を傾けるのは私の『覚悟』だ。アルスとの絆は、この程度では崩れない。

「私は大丈夫だから。私はアルスと一緒に戦える。私はあなた達と一緒に戦える」

「ハハハッ。良い言葉じゃないか、ジーン。アオイ離れするには良い機会だ。オレも、アオイのことを見習わないといけないな」

「ジューダス、何を笑っているのですか。アオイ離れだなんて、ワタシを子供扱いするのはやめてください!」

 ジーンが照れたようにジューダスを一瞥する。その表情が子供みたいだが、彼女の騎士としての実力は私達がよく知っている。なら、迷うことなんて無い。

「アギトさん。私達は大丈夫です。私はもう、守られるだけの『眠り姫』じゃない。私達の絆は、この程度ではブレない。アルスも、きっとわかっています」

「・・・・・・驚いた。なんて娘だ。夏喜に聞かせてやりたいくらいだ」

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたアギトだが、すぐに力強いものに変わった。私達の覚悟と絆を理解したように。


 この先にある未知なる脅威に対する術は少ない。だが、それを打ち破るには十分なはずだ。眼前の魔力に満ちた森の何処かに"(Argen)(teum A)(strum)"の本拠地がある。アギトが確認した霊脈の配置から、めぼしい箇所は把握できたという。深くなってしまった夜では危険だと判断し、今日のところはここで明けるのを待つことにした。安息地なんてものではないが、再び森の奥に入ればきっと解決戻ることはない。魔窟と化した森での対処法を会議しながら、異国での最初の夜を過ごした。




_go to next day. "ARGENTEUM ASTRUM"


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