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傷物少女と幻想騎士の聖釘物語 - レクイエム・イヴ  作者: まきえ
第6章 I'm (not) ready.

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13th(12th) day.-3/命の代償 - 見えざる手、あるいは(神のみぞ知る境地) -/INVISIBLE





G.T. PM 19:58


 古びた教会に横たわる姿がある。深い眠りについた少年のそばに、孫の容態を心配するように老いた男性が鎮座していた。少年の周りには赤い魔法陣が浮かび、彼の身体の異常を停滞させている。それも、その場しのぎでしかないことは明らかだった。

「―――んふふふ。これは珍しい。奇妙奇っ怪な珍客だ。かのアレイスター=クロウリーが、不滅の人が、混沌の獣が、イングランドの酒息子が、この身を頼るなんて、天変地異にも等しき奇跡であるか。んふふふ」

 奇妙な言い回しをする中性的な声色が内陣に木霊する。尊敬と畏怖と侮蔑の交じる言葉であったが、アレイスターは耳に入らないとばかりに聞き流す。

「ようやく来ましたか、()()()()

 アレイスターが立ち上がり、影を迎える。アレイスターにドクターと呼ばれたのは―――ペストマスクにシルクハットを被った細身の人物が現れた。ミイラのようにやせ細り、骨と皮ほどの細さではあるが、肌には艶があり、一見女性とも見て取れるが、性別を判断するにはあまりにも困難な外観をしている。

「ドクターだなんて謙遜謙遜、この身は病が嫌いなだけのただの道化幇間(ほうかん)の類。だが、この少年が例のあれか。件のあれか。神の所業御業の傑作結晶か」

 ドクターと呼ばれた者がアレイスターの傍らに寄り、横たわる宗次郎(zero)の姿を舐め回すように見つめる。マスクの奥でどのような表情を浮かべているかはアレイスターにはわからないが、人が横目で見れば不快に感じることには間違いない。

「ナツキに仕えていた精霊族(グレムリン)による魔炉への損害が大きい。番犬の純子(タイプワン)故に効果は絶大、『扉』を開けるために設計された魔炉が悉く損傷している。ワタクシの力では、彼は救えない」

「故にこの身か、この身を頼るか、この身に捧げるか不滅の人よ。愉快爽快青天霹靂だ」

 ペストマスクがケラケラと笑う。

「仮にもあなたは七人会(プレアデス)の一角。思想はともかく、障害を取り除くことにかかれば、ナツキすら凌駕する。少なくとも、ワタクシよりも専門家だ」

「買いかぶりが過ぎる尽きるよ。この少年は代えがたい唯一無二の我らの奇跡、()()なんてあるはずがない。替えがきくならすでに肉片三昧、すでに臨終だよ」

「なら、為す術無いと?」

「無いわけではない。無理ではない。不可能ではない。んふふふ、ただ、あなたがあなた自身があなたそのものが、―――()()()()()()()だけだよ」


 グシャリ、と―――ドクターの右腕がアレイスター=クロウリーの胸を貫いた。溢れ出る血にドクターの身体が濡れ、床に血が溢れていく。

「ぐっ―――がっ―――!?」

 アレイスターの身体の中へとドクターの右腕が邁進していく。進むごとに血が溢れ、アレイスターの身体から力が漏れていく。

「半霊半身の臓器に変わりなど無い。治療など無い。修復など無い。治癒など無い。蘇生など無い。これほどの奇跡は2つとない。それは奇跡故だよアレイスター=クロウリー、混沌の獣よ。だが、代替がないといったのは嘘だ偽りだ虚像だ空想だ。ここになら、今ここなら、現在なら過去なら―――幻想騎士(レムナント)なら、()()()()()

 アレイスターの身体から引きずり出されたのは、魔力に寄って錬成されたライトグリーンに輝く―――疑似心臓。それも、アレイスター=クロウリーという存在にのみ許された、卓越した魔力高炉。

「これがかのアレイスター=クロウリーが可能とした第二魔法の結晶化。この心臓なら、zeroの崇高なる魔炉の代わりとなるだろう」

「がっ、ごほっ―――」

 吐血をし、倒れ込むアレイスターを余所に、ドクターが自身の手の中で脈動する疑似心臓に恍惚する。

「彼の救出は、この第二魔法の心臓なくしてありえない。気付かなかったか元頭首、元元帥、元主。なぜ出来損ないの声の受容体(アンテナ)を我々が呼び出したか。もしも、と思うことは起こりゆる可能性。なら、それを踏破しなければ、奇跡の完成は程遠い」

 アレイスターから取り出した疑似心臓を宗次郎の胸へと押し込む。心霊手術により、宗次郎本人の心臓へと同期していく。血を脈動する真なる心臓の鼓動と重なるように、魔力を脈動する偽なる心臓が活動を開始する。

「すべてを写す鏡よ、すべてを騙すペテンよ、あなたの魔術(技術)こそ、我らの到達地点であり通過点だよ」

「ぐっ―――ワタクシを、欺いたか・・・・・・!」

「欺いただなんて滅相ない、真実に虚像を重ねるのはあなたの常套手段だろう。この身は嘘はいわない、偽りはない。それに、あなたの仕事はまだ終わってない、終わりはない」

 ペストマスクが懐から赤色の薬剤の入ったアンプルと注射器を取り出す。アンプルの頭部を折り、注射器で中の薬剤を吸い取り、アレイスターの肩へと乱暴に突き刺した。

「ああ、胸の()が気になるなら埋めましょう直しましょう、これくらいならこの身にとって寝てるに等しい」

 赤色の薬剤がアレイスターの身体へ入っていくと、次第に胸に空いた穴が塞がっていく。同時に、アレイスターが血の混ざった嘔吐を繰り返す。

「いい忘れていたよ、勘違いうっかりだ。小一時間は吐血嘔吐に魔力行使に影響がある。感覚過敏に感度良好、魔眼なんて以ての外だが、副作用はその程度だ。なあに心配ない心配なんてする必要はない。()()()()()()()()()()()()。なに心配ない、幻想騎士(レムナント)なら、まず死ぬことはない。んふふふ、んはははははっはははあは!」

 ペストマスクが大声で笑う声が響き渡る。身体を捩り倒れ込むアレイスターを嘲笑うように、すべてが滑稽だと笑い続けた。

「んふふふふ。どうやら招かざる客も登場到来しかた。んふふ、良いね。いい傾向だ。この身の人形たちに様子を見させよう。んふふふふふ」




_go to "curse".



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