『バチカンの使者』
「貴方は誰!」
突然現れた女性に向けて亜美教授が声を上げると博士が口を開く。
「アザミ・クロフォード、バチカンの使者だ。こんなに早く現れるとは」
アザミって事はハーフか?
見た目外人だけどミレアさんと同じで日本語ペラペラだな。
髪の毛が赤いのは自毛じゃなさそうだ。
でもボムカットの髪型はよく似合っている。
グリーンのタンクトップに七分丈の白いパンツを着こなすモデル体型だ。
「ご紹介ありがとう、冴木博士。貴方が博士の娘の亜美さんね、はじめまして。それと坊やが天草隼人。坊やは初めてじゃないけど覚えてるかな?」
「え……?」
急に言われて混乱するが、確かに見覚えがあるような、ないような。
こんな美人さんを忘れるはずないんだけども……うーん。
「あ、れ?」
俺の記憶に存在していなかったはずの記憶が脳裏に蘇る。
まるで消された記憶が戻されたような。
「だ、大学前で道を尋ねてきたお姉さん?」
「へぇ、私を見て思い出したんだ……。今までで一番の適合者かも。合格よ」
アザミは入口から歩み寄ると俺の左腕を掴んで連れて行こうとする。
「さぁ、行きましょう」
「待ちなさい!」
教授が、俺を掴んでいるアザミの腕を握り動きを止めた。
「隼人くんをどこへ連れて行こうとしてるか知らないけど、この子は私の大切な生徒なの。連れて行かせないわ」
教授はアザミを睨み付け、さっきの言葉通りに守ってくれようとしてくれている。
しかしアザミは一瞬キョトンとした顔をした後、吹き出すように笑い始めたのだ。
「ぷっ、アハハ……。少し前から話を聞いていたけど、私の連れて行った人間はみんな生きているわよ。私の見る目は確かだから死者は今の所ゼロ。だから安心してちょうだい。坊やは死んだりしないわ」
何だか死んだりしないとお墨付きを頂戴したけれど、死んじゃう事もあるような発言してたよね。
でも、俺がこの人に着いて行く事でみんな安全でいられるなら……。
「どちらにしても、隼人くんに危険な事をさせるつもりなら同じ事よ。信用は出来ないわ。……連れて行くなら、私を連れて行きなさい」
亜美教授……。
「亜美が行く必要はない。隼人くんの代わりに私を連れて行きたまえ。元はと言えば私の責任だ。隼人くん……私が間違えていた。始めからこうすればよかったんだ」
雅治博士も……。
「博士、博士は考古学界で必要なお方です。私が行きます。私もこれ以上我慢出来ません。犠牲になるのは私だけで充分ですから」
ミレアさんまで……。
三人共、俺なんかのために……。
「困った人達ね。申し出は嬉しいけど、貴方達じゃ坊やの代わりにはならないわ。ただ可能性があるとすれば……。まあ、いいわ。何をするのか気になるでしょうから、纏めて連れて行こうかな。どうかしら?」
思わぬ提案に教授達も驚いていたが、アイコンタクトで確認し合うと三人共頷いた。
「いいわ。私達も一緒に同行して危険かどうかを判断させてもらうわ」
「ええ、構わないわよ。好きにしてちょうだい。どうせ、貴方達がどうあがこうとも、どうにもならないんだから。見学出来るだけ有り難く思いなさい。さあ、亜美さん。この手を離してもらえるかしら?」
言われて教授が手を離すとアザミも俺から手を離す。
話は纏まったけど、未だに何をさせられるのか分からない状況だ。
だけど、あれ以上下手に刺激して教授達に危害が加えられなくて内心ホッとしている。
逆らった学者さん達みたいに教授達が殺されたりしたら悲し過ぎるから。
だから、さっき教授達に話した俺の決意は揺らいでいない。
ただ……死なないとアザミに言われた事で少しだけ楽観的になっているのは、確かだった。




