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『重鎮、雅治博士』

「見えて来たわ。この先に見える村がカミーリよ」


 車を運転しながら軽く説明をしてくれるミレアさん。

 なんでもこの村を抜けた森の奥に今回俺がお手伝いさせてもらえる遺跡があるのだとか。

 雅治博士率いる調査団はその遺跡前に設置したキャンプと村にある空き家を借り、二つに別れて調査と研究をしているらしい。


 俺は「フンフン」と鼻息荒く、悪路で――縦横無尽に揺れまくる胸元を凝視しながら説明に頷き妄想を膨らませていた。

 今この胸に飛び込んだら幸せにボコボコになるのではないのか! などと考えていたのだ。

 失礼極まりないのは承知だがどうしても目が離せない。

 ちなみにミレアさんは運転中のため視線が前方に集中しているのでこの行為はバレていない。

 何度か危なかった場面はあったけど素早く視線を顔に向けてたからオールセーフだ。


「そうそう、冴木博士は今この村にいるはずだから二人共まずはそちらに案内するわね」


「ありがとう、久しぶりにダディに会えると思うと嬉しいわ」


「ええ、博士も楽しみにしてたわよ。ところで、天草くん。凄い汗だけど……大丈夫?」


 そうだった。幸せ過ぎて博士の存在を忘れてた。思い出した瞬間から緊張でよくわからない汗が噴き出してきたよ。


 だって、考古学界の中で知らない人がいないくらい有名な雅治博士にお会いするんですよ!

 しかも亜美教授のお父様……。


 これは色んな意味でチャンスなのだ。気に入ってもらえたりしたら亜美教授とお付き合い出来ちゃうかも知れないじゃないですかっ!


「だ、大丈夫です! ぼ、ぼく、頑張ります!」


「フフ、隼人くん。そんなに緊張しなくても大丈夫よ。ダディは世界的に有名かも知れないけど、とっても優しい人だから。私もいるんだから安心しなさい」


 嗚呼、なんて素敵な笑顔なんだ。思わず見とれてしまいましたよ。


「教授、ぼくは最高に幸せ者です」


「そうね、今回の遺跡調査は、隼人くんにとっても最高の記念になるかも知れないものね。私も新たな発見に立ち会えるのかと思うと幸せよ。これもダディのお陰だから感謝しないとね」


「はい!」


 雅治博士にお会いしたら全力で感謝を表現させて頂きますとも。

 亜美教授と海外旅行や憧れの遺跡調査が出来るのも全て博士のお陰なんですから。


 博士、遺跡を発見してくれてありがとうございます。




 ★★★




 カミーリに到着してから数分で車は停車する。


 たどり着くまでに村の風景を観察していたのだが、のどかな村といった印象だ。

 家と家の間隔がかなりあり、畑や羊等の家畜を飼う牧場が広がっていた。見晴らしも良いので村から少し離れた場所にある遺跡が発見されたという森も目視する事が出来た。


「二人共、この家が遺跡から持ち帰った発掘品を研究している場所よ。荷物はここで降ろしてね。滞在中はここで寝泊まりする事になると思うから」


「ここですか!? でっかいですねぇ。やっぱり外国のお家はスケールが違う。というか……お家と言ってもいいんでしょうか?」


 三階建ての建物なんだが、石造りの要塞と言った方がしっくりとする。所々に細長い穴が空いていて、あそこから銃や弓などを使っていたような感じだ。

 確かヨーロッパに遺る要塞やお城には似たような構造があったので間違いないだろう。


 それにしても物々しい建物だよな……。こんなのどかな村には不釣り合いな建物だよ。


「天草くん、ここは特別な場所なのよ。さぁ車から降りて行きましょう。博士が首を長くして待っているはずよ」


 と、いたずらっぽくミレアさんは微笑んだ。

 やばい、素敵過ぎますよミレアさん!

 こんな素敵スマイルを直撃されたら俺は……俺はあああぁぁ!!


「隼人くん、降りるわよ。荷物お願いね」


 と、亜美教授も微笑んだ。

 やばい、やばい、俺は……俺はあああぁぁ!!


「は、はい! ぼくは最高に幸せ者です!」


「え!? えーと、よく分からないけど……荷物お願いね……」


「はい! お任せください!」


 敬礼をビシッと決めて車から降り、素早く荷物を降ろして入口へと歩き始める。

 すると、教授は建物を眺めながらミレアさんに質問を始めた。


「ねぇ、ミレア、この建物ってもしかして」


「うん、気付くわよね。そう、ここの地下にあった隠し部屋から今回の遺跡に繋がる文献を発見したの。村に語り継げられた口伝のお陰なんだけど、この村に伝わる魔女伝説の舞台でもあるわ」


「やっぱり。ダディからのメールを読んで知っていたけど、実際この建物を見てみると真実味が増すわね」


「あのぉ、その伝説ってどういったお話なのでしょうか……」


 スーツケースを引きずりながらお二人の話に割り込んでみた。


 実は、教授からは遺跡調査に行くとしか聞いてなくて、魔女伝説については詳しく伺っていなかったのだ。


 なんでも教授としてはお楽しみとかで、現地に到着してから話すと言われたんだよね。そっちの方が雰囲気が出るというのが理由だったんだけど。


「あ、そうだったわね。隼人くんには到着してから説明する予定だったものね。魔女伝説は――」


「それについては私から説明しよう」


 建物の入口付近まで近付くと頭上から男の声が響く。声をたどり見上げれば、二階の窓から顔を覗かせている男性がいた。

 遠目ではあるが、メガネを掛けた四十代くらいの凛々しい男性である。 声が低音な響きでダンディだ。


「ダディ!?」


「おお、アーたん! よく来てくれたね。長旅で疲れただろう。さぁ、早く中に来なさい」


「うん、今行くわ! でも、その呼び方はやめて!」


 考古学界の重鎮、雅治博士であった。

 遠目からでも偉い人が持つオーラを感じてしまう。


 しかし、聞き間違いだろうか……。今、アーたんって言ったような。


 茫然としているとミレアさんが呆れるように小声で教えてくれた。


「博士は亜美を溺愛してる……親バカなの」


 なんて事だ……。ハードルが上がってしまった。


 こんなに美しい娘を持つ親であれば、親バカになっても仕方がないのかも知れない。


 下手すれば、教授に近付く男どもを抹殺してきたお父様だったりして……。


 しかぁしっ!

 ここで諦めるにはまだ早い!

 必ずお父様に気に入ってもらえるように頑張るぞ!


「よしっ!!」


「隼人くん、ずいぶん気合いが入っているわね。頼もしいわ。ダディから直接魔女伝説を聞いて、遺跡調査に役立ててね。何か見落としている発見があるかも知れないから」


「え、あ、はい! 頑張ります!」


 危ない危ない。つい気合いが入ってしまった。


 確かに調査の進展に役立つヒントが伝説にまだ隠されているかも知れないよな。博士も口伝から遺跡を発見したって話だし……。


 もし、俺が新しい発見に貢献できれば、教授や博士からの株が一気に上がって教授とお付き合い出来ちゃうかも……。


 よし、絶対、何か発見してみせますよ!

 ぬふふふ……。


「天草くん、教授のお話しが終わってから約束の物を見せてあげるわ。亜美も楽しみにしててね」


「ええ、ミレア。発見された本には、かなり興味があるわ。楽しみにしてるわね」


「ミレアさん、よろしくお願いします」


 ミレアさんを先頭に入口を抜けて中に入る。


 教授と俺の荷物はさすがに一人で持ったまま階段を上るのがきつかったので、お二人にも手伝ってもらえた。


 上り始めた階段は建物が石造りのため、声や足音をよく反響させる。

 入る前の外観からして歴史を感じる建物であったが、こうやって中を歩くと余計に歴史の風格を感じてしまう。


 一体どれくらい昔に建てられたのだろうか。


 そして、どんな目的で建てられたのだろう。


 考古学を目指す者としては、色々と考えさせられてしまうよ。


 キョロキョロとしながらミレアさんに着いていくと、さっき博士が顔を覗かせていた部屋の扉の前で足が止まった。


 ミレアさんは扉をコンコンとノックする。


「冴木博士、失礼致します」


 そう言って扉を開くと、雅治博士はニコニコ顔で両手を広げ、俺達を……。


 いや、亜美教授を歓迎していた。


「アーたん、待っていたよ! さあ、ダディにハグとキスを――――――ぐはっ!」


 ……破壊力抜群の、見事なラリアートであった。

 とはいえ、空中で二回転したのは気のせいであってほしい。


「ダディ、恥ずかしいから止めてよね! うちの生徒もいるんだから……」


「あたた……。たくましく育ってくれてダディは嬉しいぞ」


 首に手を当ててコキコキ鳴らすと、メガネのズレを修正しながら博士はゆっくりと立ち上がる。


 写真で見た事があるけど、思っていたより長身で体格も良い。黒のスラックス履き、ワイシャツの上に黒のベストを身につけている。紳士的な印象の男性だ。

 やっぱり亜美教授のお父様だけあって、カッコイイなと思ってしまう。


「もうっ……。ダディ、紹介するわね。彼が今回の調査に協力してもらう天草隼人くんよ」


「おお、彼がアーた……。あ、亜美の生徒の隼人くんか」


 教授から一瞬寒気を感じてしまった。


 眼光がギランと輝き、右肩に左手を当てて、ぐるんと右腕を一周させていたのだ……。

 怒らせると、こ、恐いんだな。気をつけよう。

 でも一度あの二の腕の衝撃を受けてみたいと思うのは何故であろうか。


 おっと、それについては後で考えるとして、今は――。


「は、はじめまして。天草隼人です。今回は色々と勉強をさせて頂きます。よ、宜しくお願いします!」


「ああ、宜しく頼むよ。それにしても……ふむ、話しには聞いていたが、確かに少し似ているかもな」


「え……?」


 雅治博士は顎に手を当てたままメガネ越しにジッと俺を観察してきた。


 車の中でも言われたけど一体誰に似ているっていうのだろうか?


「あ、いや何でもない。亜美から君の事は聞いているよ。宜しく頼むね」


「あ、はい! こちらこそ宜しくお願いします!」


「では、早速だが魔女伝説について少し話しをしよう。疲れていると思うが、そこのソファーでくつろぎながら聞いてくれ。亜美もいいかな?」


「ええ、お願いするわ。私も詳しく確認したかったから」


 こうしてミレアさんを含めた三人でソファーに腰掛け、魔女伝説について雅治博士から話を聞く事となったのであった。





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